第1話 女神に殺され異世界へ
「本当にすみませんでした!まさか神雷を落としたところに人が居るなんて、」
現在俺、細野 慶也(28歳)は目の前の女性に謝られている。
確か自分の記憶では職場である国立の研究機関でやっと研究が完成して徹夜してからの帰り道の事であった。
電車をおり自転車で帰り道である堤防を走っていると視界に急に眩い光が入りその後気を失った事を覚えている。
「えっと、俺はどうなったんですか?確か学校から帰っていた筈ですが。」
「ええっと、本当に申し訳ないんですが、慶也さんは死にました。私が誤って神雷を落としてしまい、その直撃を受けて、」
目の前で俺に謝っている女性は一言で言えばとても美しかった。
銀色の長い髪に青色の瞳、深い青色のパレオを着ており、どこかこの世界の人ではないようであった。
新宿や渋谷で歩いていたら間違いなくスカウトマンの目にとまっていたであろう程の美人であり、当然ながら初めてであり、見覚えはない。
「えっと、その前に貴方は誰ですか?っていうか?神雷?」
「あぁ、すみません。私の名前はエリフィス。地球では貴方が住んでいた日本を管理しており、またその他のいくつかの地域を管理している女神です。そして神雷は私達神々が使える神技で人などの生物に当たれば貴方みたいにお亡くなりになります。」
素直にその女神という言葉に驚いた。
女神と言えばあのラノベなどに出てくる女神である。
しかし地球では日本だけを管理していたとは他の国や地域は他の女神が管理していたのだろうか?
しかし隆二はその言葉を口に出す事は無く、素直に率直な疑問をぶつけた。
「自分は細野 慶也です。エリフィスさんあのぉ、此処は何処なんです?」
「ふふふ、別に無理して敬語を使わなくても構いません。私は貴方を誤って殺してしまったのですから、あと此処は神界です。貴方達が住んでいる下界とは別の空間です。恐らく人間で此処にきたのは貴方が初めてでしょう。」
慶也がいる所は雲の上というか何というか幻想的な空間であった。
とにかく白色であり、しかし白ではない色もまじっていた。
そして女神と名乗ったエリフィスが神界と言った空間には自分と女神が座っている椅子だけがあり、それ以外の家具は一切無かった。センスないなぁ〜
「センス無くて悪かったわね。私はこの部屋が1番落ち着くのよ。」
「!?、え?口に出ていましたか?」
慶也は口に出ていたかと思い手で口を塞ぐようにしてエリフィスと名乗った女神に謝る。
「出てはいなかったけど、私は女神よ。貴方の考えている事くらい読めるわよ。」
「そうですか、すみませんでした。それで僕はどうなるんですか?地球に戻れるんですか?」
「えっと、別に謝らなくてもいいんだけど、まぁいいや。えっと、大変言いにくいのですが貴方は本来病気でお亡くなりになる予定でしたが私が失礼ながら殺してしまったので地球な輪廻転生の輪から外れてしまったので地球には戻れません。」
エリフィスと名乗った女神は申し訳なさそうに言った。
しかし隆二は少し安心した。他人殺されたり交通事故などで死にたくは無かったからだ、結局女神に殺されてしまったのだが、
「そうですか、では私はどうなるんですか?」
「えっとあの、良いんですか?地球に戻れないんですよ?殺してしまった私が言うのもあれですが、未練など無いんですか?」
エリフィスが、え?といった感じで自分に聞いてくる。
そんなあっさりと?といった感じであった。
「えっと自分の親は小学生の頃、交通事故により無くなってしまい、その後育ててくれた祖父も2年前に亡くなってしまったので未練らしい未練もないです。」
「そうですか、貴方の両親の魂はもう既に新しい命として日本内に生まれて輪廻転生されています。」
エリフィスは何処から持ってきた聖書みたいな高級そうな本を持ち、ペラペラとページをめくりながら自分を同情するような声で亡くなった両親の事について話してくれた。
「そうですか、」
「はい、えっと貴方は本来死ぬ筈では無かったのに亡くなってしまったので別の世界に転生させてもらいます。」
「え?異世界転生!?」
俺は中学生の頃から異世界転生や転移などのラノベ系が好きないわゆるオタクであった為、思わず大声で叫んでしまった。
家の本棚には本屋さん並みのラノベ系の本が並んでいる。
ラノベ系の小説を読み紅茶を飲む、自分の一番のリラックス方法であった。
親をひいた居眠り運転のトラック会社からの和解金や親の生命保険、そして日本有数の国立研究所での研究者としての給料、正直お金には困らなかった。
高校や大学では親が亡くなっている事により国から奨学金が出て無償であった為お金を使わなかった為である。
恐らく億とまではいかないが、それなりに大きな家1軒買えるくらいの貯金はまだ残っていた筈である。
「え!?はい。そうですね異世界転生です。」
エリフィスも驚いたような感じだったが、なんとなく慣れた様子であった。そしてそれに気づいたように説明してきた。
「えっと地球神の頼みでこれまで何十人か、異世界などに転生させていますが、ここ最近の人は皆そう言いますね。」
「え?じゃあ神隠しとか言われているのは?」
日本では毎年1万5000名程の行方不明者が発生しているが、1万2000名くらいはすぐに発見されている。
しかし毎年3000人程度は行方不明のままである。
誰かに攫われたのか、殺されたのか、あるいは自殺なのかは不明のままであり、隆二はその事を聞いたのである。
「毎年数名ですので、あとは地球神が行なっている事でしょう。えっと話を続けますが、貴方は私が管理している異世界に転生してもらいます。魔法や獣人などもある異世界です。」
「魔法があるんですか!?」
俺は目をキラキラさせながらそう聞いた。魔法はラノベオタクとしては一度でいいから使ってみたいものだ。
「はい、ありますよ。あと貴方が生まれる家はこちらで決めて頂きました。また体力や魔力もいくらか底上げしておきます。」
「ありがとうございます。」
これで慶也は他の人より基礎値が上がっているだろう。慶也はこの時そう思っていた。
「他にも色々と付けときましたが前世の記憶はどうしますか?要らないのなら消す事も可能ですよ。」
「いえ、消さないでください。」
いくらこの前世に未練がないからとはいえ自分は理系男子として日本国有数の名門大学を出て国立の研究所に入り数々の研究を行ってきた身である。
親が亡くなってその後自分を育ててくれた祖父が亡くなった時も親戚の人達に隆二君はしっかりしてるからと言われた。
その後両親の遺産を私達が管理してあげるからと手のひらを返したように近づいてきた親戚の人達は小さい頃から良くしてもらっていた大学教授の知り合いの弁護士に頼み込み法律を盾に切り離してもらった。
自分は法律に関してはさっぱりであった為この事については本当にたすかった。
職場では周りからは研究と結婚したような人とみられていたが、私からしてみれば職場はそう言う人ばかりであった。
少なくとも若いながら研究者の一人として国費を投入した研究を行なってきており、それなりに成果を出していた。
必死にやってきたのに、そうそう簡単に記憶を消されてはたまらない。
「そうですか、分かりました。では時間です。私達は貴方を見守ってますので。」
「はい、ありがとうございます。」
「よい人生を。」
女神のエリフィスがそう言うと急に身体の周りに綺麗な光が現れ意識を失った。こうして自分は日本の輪廻転生の輪から外れて異世界へと旅立ったのである。
そして残された神界で女神エリフィスは誰かと話していた。
「ふふふ、慶也さんかぁ。これで日本は多分大丈夫でしょう。そのお詫びとして慶也さんには楽しい人生を送ってもらいたいものです。時々サポートしてあげましょう。」
「エリフィス、珍しいな。お前があんな特典を与えるなんて。」
何処からともなく現れたのはエリフィスとは別の女性であった。
どうやらエリフィスが慶也にあげた特典はチートレベルだったらしい。
「今回の事は神々の独断ですからね。それに彼ならちゃんとその力を使ってくれると思いますから。」
「あの星には転生者を送らないんじゃ無かったのか?」
今までの転生者は皆チート能力を望んだりする人ばかりであったが、隆二さんだけは明らかに有利な立場にありながらそんな能力を頼んでこなかった。
「隆二さんを気に入ったんです。私がサポートに入るから黙っていてください。地球神。」
「はいはい、分かりました。では日本の管理は任せたよ。あそこは特別な場所だからな。」
「分かってます。」
そうして地球神と呼ばれた女神はいなくなった。そしてエリフィスは自分の仕事に戻っていった。