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ワイン残して死ねるか!

本業はワインの仕事です。勉強を活かす為にと書き始めました。出来るだけ矛盾なく面白い物を書くつもりです。

 私は目を覚ますと全く見覚えのない白い世界であった。


『やっと目を覚ました!』

 声のする方を向くとそこにはサラリーマンのようなスーツを着た男とまるでゲームの世界の住人のような皮の鎧と剣を担いだ女性が立っていた。


『そういうお店ですか? アレ?でもさっきまで私は軽井沢の別荘の地下カーヴに…』

『ほら!地球神の言う通りの格好したら逆に困惑させてしまったじゃないの!』


 私が困惑しているとコスプレ女がリーマン男に声を荒げる。


『しかし、こういう服装の方が理解が早まるのだ!特にこいつの国、日本ではな!』


 男と女が揉め始めたので、私はさっきまでの状況を振り返る。


 ×××××××××


 私は赤井秋人(35)。職業はワインソムリエ。一応ただのソムリエではないが今は関係ない。

 私の実家はそこそこの資産家であり軽井沢に別荘を所有している。

 さっきまで私は都内にある私のマンションに保存しきれなくなったワインを軽井沢の別荘の地下室に預けに来ていたのだ。

 管理人の元に郵送しておいて貰えば良いと思われるかもしれないが、私も一応ソムリエ。ワインを他人に任せる事が嫌だったのだ。


 鼻歌で今期の深夜アニメのオープニングを歌いながら地下室を歩いていると急に次元が揺らぐと表現すればいいのか、目の前の空間に亀裂が入ったのだ。亀裂を認識した瞬間に身体中に激痛が走った。そして意識が途切れた。


 ×××××××××


『まさか…死んだのか…?』

『ふむ、私の星の人間だけあって飲み込みが早いな。赤井殿先ほどは失礼した。私は君たちの言うところ神というものだ。隣の女性もまた神である。』


 スーツの男がそう言うと、隣のコスプレ女性が指パッチンを鳴らした。すると2人の服装がまさにTHE 神というような白い服装となり、年老いた老婆と老人になっていた。

『君のイメージする神の像を私達に投影させて貰ったよ。これで信じてもらえたかな?まずは状況を説明させて貰うよ。』


 神の説明は非常に長かった。だって世界の創生の話から始まるのだもの…。

 しかし状況は把握できた。目の前にいる二人の人物、男が地球の神であり、女は私から見た異世界の神であるらしい。

 異世界はいわゆる剣と魔法の世界であった。

 そこでは魔王と勇者が存在して長く戦争をしていたのだが、勇者が魔王を討伐する事によって終戦したそうだ。しかし魔王は死ぬ寸前に異世界、つまり地球に逃げ込もうとしたらしい。幸いにも逃げる前に魔王は命の灯火が消えたらしいが、途中まで裂けた次元の裂け目に巻き込まれて死んだ間抜けがいるらしい。


 …それが私だ…


 ふざけるな!である。私に過失がないどころか私が存在していた世界にすら過失がない。まさに不条理な死であった。


『今回の事は本当に申し訳ない。出来れば君の事を蘇らせたいのだが、神の法律でそれは禁じられている為、不可能なのだ』

『だからせめて罪滅ぼしで地球の記憶を持ったまま私の世界に転生させてあげたいのよ。』


 二人の神が本当に申し訳なさそう話していた。


 私も日本人の端くれ。ジャパニーズカルチャーである漫画やアニメ、ラノベ、ネット小説は海外のお客様達との話の種にしていたし、単純に好きだったので『ああ、これ転生する流れだ…』と途中で分かったが、

 私は地球に大きな未練がある。

 それは家族?友人?恋人?全て違う。私のワイン達だ。アレを飲む前には死んでも死に切れない。


『異世界に転生する前に聞きたい事がある。地球神!私のコレクションのワインはどうなる?アレを飲む前には死んでも死に切れない!』


 すると神は驚いた顔をして笑い始めた。

『そんなに笑うな地球神。私達神はアルコールなど効かないが、彼にとっては非常に大事なものなんだろう』

 異世界神の言い方がまるで私がアル中であるかのようで少しムカついたが、彼等はワインの素晴らしさを知らないバカな奴らだと見下す事によって心を落ち着けた。


『いいよ、私の星は剣と魔法の世界。君には魔法の力を与えようと思っていたから特別に神の魔法の力を少し分けてあげるよ。時空を操る魔法だよ。亜空間に君の飲みたいワインとかいうやつを入れておくから転載して飲める歳になったら飲みなよ。』


 …話が変わってきた。

『私のワインはそこそこ量がありますけど本当ですか?』

『亜空間は広いからね。全然大丈夫だよ。』

『ワインは保存も大事なんですけど大丈夫ですか?』

『じゃあ、時固定の魔法をかけるから大丈夫だよ!』


 言葉を失った…。ワインは年月が経つほど美味しくなっていく。私が飲みたいワインはまだまだ飲むには若いのだ。

 だから飲まずに取っておいたのだが異世界、それも剣と魔法の世界で飲める。時固定とか言っているから亜空間の中では熟成は進まないが、私が魔法を使いこなしたら取り出して熟成させれば良いだけ…。


『本当にワイン全部保存してくれるんですね?』

『しつこいなぁ。かみはやくそくやぶらないよ。』


 言質は取った。あとは、


『転生お願いします』


 ×××××××××


 こうして世界最高峰のワイン資格マスターオブワインを所有し、軽井沢に日本円にして200億円相当のワインを所有する世界最高峰のワインコレクター赤井秋人は異世界に転生したのだった。

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