知り合いが増えました
「わあ!メイド服って始めて着たけど、意外と動きやすいし結構かわいい♪」
渡されたメイド服を着て、姿見の前で確認してみる。
よくコスプレショップとかで売ってる短い丈のものじゃなくて、足首が隠れるようなクラシカルなデザインが気に入った。
一人でくるくる鏡の前で回ってはしゃいでいると扉がノックされ、外から女性の声が聞こえてきた。
「おはようございます。
本家から来ました、メイドのユードラです。
扉を開けてもいいかしら?」
「はい、すみません!大丈夫です!」
「失礼しますね」
扉を開けて入ってきたのは、シルバーブロンドが美しい年配の女性。
私の顔を見ると優しく笑いかけてくれた。
「あなたがぼっちゃまのおっしゃっていた、レティのメイドさんね。」
「はい、小鳥遊繚と申します。
わからないことばかりでご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いします。」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫。
一緒に働くんですもの、仲良くしましょう♪
改めて、私はユードラ・ミレットよ」
そう言って、手を差し出してくれた。
その手を握り返すととても暖かくて、とても落ち着く気分になった。
まるでお母さんみたい....
「さ、お腹空いたでしょ?
本家からご飯を持ってきたからキッチンに行きましょう!」
言われてみれば、昨夜からご飯食べてなかったんだ。
思い出したように私のお腹がぐーっとなり始めた。
急いで、先に出ていったユードラさんについていく。
この世界の料理ってどんなものなんだろう??
「持ち運ぶことになるから簡単なものしかないけれど、たくさん持ってきたからいっぱい食べてね♪」
促されるままにダイニングの椅子に座ると、目の前にサンドイッチやカップケーキなど美味しそうな料理が並べられた。
「美味しそう!いただきます!」
「ふふ、余程お腹がすいていたのね!
ゆっくりで大丈夫だからしっかり食べなさいね。」
ユードラさんは、私が食べる様子を笑いながら見ていた。
たくさん持ってきてくれた食事は、とても美味しかったことと腹ぺこだったことであっという間に食べ終わってしまった。
「ごちそうさまでした!とっても美味しかったです♪」
「それはよかったわ☆
ぼっちゃまが家で食べなくなって料理を作る機会も減ってたから、腕がなまってしまったかと思ってたの」
「こんなに美味しいのに、なんでクレイグ様は食べないんですか?」
「朝は早いからコーヒーだけでいいし、夜は遅くなるから剣士団の方で食べるんですって。
しっかり食べないと仕事にも支障出るでしょうに...
昔は美味しい、美味しいってたくさん食べてくれてたからさびしいわ↓」
そう言って彼女は寂しげに笑った。
ユードラさん的にはクレイグ様にしっかりご飯食べてほしいんだろうな。
そういえば、さっきからぼっちゃまって呼んだり昔とか言ってるけど、メイドとして働いて長いのかな?
まず本家ってどういうこと?
「あの、クレイグ様のご家族ってどんなことされてるんですか?」
「あら、知らないの?
ぼっちゃまのご実家は、クルノイア内でも三本指に入る資産家なの。
ぼっちゃまはそのシルヴァ家のご長男で、王国お抱えの魔剣士団の団長をしているわ。」
「し、資産家....お金持ちなんですね」
「ふふ、そうなるわね」
やっぱりクレイグ様は、私の予想したとおりめちゃくちゃお金持ちでした。
ま、一人でこんな大きい家にすんでて、メイドもいるんだからお金持ちじゃないはずないよね。
一人勝手に納得していると、お皿などを片付け終わったユードラさんがエプロンで手を拭きながら現れた。
「じゃあ、私はいつもの仕事をするからあなたはレティのお世話よろしくね!」
「あ、何かお手伝いします!」
「いいの、いいの!
あなたはレティのお世話が最優先なんだから」
「...わかりました」
~~~~
「あ~、暇だー!」
持っていたレティ用のおもちゃを放り投げてその場に仰向けに倒れ込む。
その様子を見て、私の顔をのぞき込んだレティが不思議そうに小首をかしげている。
ユードラさんの美味しい朝ご飯を食べてから部屋に戻りレティと遊ぶことにしたのだが、レティも私も1時間もせずに飽きてしまった。
部屋からウッドデッキで繋がっている庭にも出てみたが、30分もかけまわれば疲れてしまってもう走れない。
「こんなんじゃ、一日がとても長く感じちゃうね↓
普段、レティは何してたの?」
私の問に答えるように、トコトコベッドまで行くとくるっと丸まり昼寝を始めたレティ。
ああ、一日寝てたのね。
そうなると、私の仕事ってほぼないのと同じじゃない!?
うーん、どうしよう....
「繚?私の仕事は終わったから本家に戻るわね」
一人頭を抱えていると、またユードラさんが扉をノックしながら声をかけてくれた。
「ユードラさーん↓
私、何もすることがないです....」
「??
レティのお世話があるじゃない?
暴れたりで色々大変でしょ?」
「レティがいい子すぎてほとんど仕事がないんです...」
私の言葉を聞いて、ベッドで寝てるレティに目を移しびっくりするユードラさん。
やっぱり、レティのイメージってわがままな暴れん坊だったのね...
「驚いたわ...ぼっちゃんはとても苦労されてたから」
「....こんな感じなんで、他にもお仕事ほしいです」
「そう言われてもねぇ...私の仕事もそんなに多くないし」
たしかに、雇われてる身のユードラさんに仕事をねだっても仕方がない。
クレイグ様が帰ってきたら、他にもないか聞いてみよう!
あとは、何か仕事がないか自分でも探してみよう♪
「力になれなくてごめんなさいね....
私は毎日同じ時間にこの家へ来るから、何かわからないことあったら何でも聞いてちょうだい」
「はい、ありがとうございます!
あの....お時間があるときでいいので、クレイグ様が好きな料理とか教えてもらってもいいですか?」
「もちろんよ!
そういってもらえて、とっても嬉しいわ♪」
私の言葉にとても喜び、ユードラさんは嬉しそうに本家の方へ戻っていった。
クレイグ様以外にも知り合いができたことで、この世界で暮らしていくことへの不安がまた一つ消えた気がする。
よし!まずはこの家の中に何か仕事がないか探すぞー!!