胃袋掴まれました
「よし、打ち合いやめ!
今日の訓練はここまでとする。
休憩後、各自任務につくように」
「「「「ありがとうございました!」」」」
剣と剣のぶつかり合う金属音がやみ、みなぞろぞろと魔剣士団の本部建物内に戻っていく。
魔剣士団としていつでも国を守れるように、剣の鍛錬はかかさない。
毎日、午前中は訓練を行いもしものときに備えているのだ。
「隊長!隣国の偵察部隊が戻ってきました!
報告をしたいとのことです。」
「ああ、着替えてすぐ向かう。
私の部屋で待つように伝えてくれ。」
「御意」
すぐに着替えを済ませ、自分の部屋へと急ぐ。
ドアを開けると先に来ていた偵察部隊隊長が、椅子にどっしりと座り私の到着を待っていた。
「いくら昔なじみだからといって、隊長を待つ態度としてどうなんだそれは。」
「長旅で疲れたんだよー。
ま、俺とレイの仲じゃん!多めに見ろよー」
呆れてため息しか出ないが、この蒼い髪を肩まで伸ばし後ろで縛っている男は魔剣士団の中でもナンバー2と呼ばれる実力を持つラルフ・ニコルソン。
家同士が仕事を通して交流があり、子どもの頃からの付き合いだ。
「それより、隣国の様子はどうだ?」
「噂はデマではないけど、すぐにでも内乱が始まるって感じではなかったよ」
「そうか....では、しばらくは警戒しつつ様子見だな」
隣国の『トゥーミック』は第一王子派と第二王子派で王位を奪い合い、内乱が勃発するかもとの噂が耐えない。
そこで、今回はラルフに隣国の様子を探ってきてもらったのだ。
「とりあえず、俺は偵察頑張ったご褒美で一日休暇をもらうからな!」
「ああ、ゆっくり休むといい。
報告書提出してからな。」
「な!鬼か!
休暇明けでもいいだろ?」
「そう言って、休み明けに出したことなんてないだろ?
私はこのあと帰宅するから、オリヴァーに監視を頼んでおくよ」
「自分だけ帰るなんてずるいぞ!
最近はなるべく早く仕事を切り上げて帰ってるそうじゃないか。
さては、これか?」
小指を立てて見せるラルフに、女で間違いではないが
お前が思っているような関係じゃないことを首を横に振ってつげる。
「ただ家で食事を取っているだけだ。」
「ああ!噂になってるレティ専属のメイドちゃんがご飯作ってくれるの?」
「ああ、しかもプロ並みに美味い。」
「いいなぁ!
今度食べに行ってもいいか?」
「いや、お前が来ると騒々しいから遠慮する」
「なんだよ、ケチー!」
子どものように頬を膨らませて拗ねるラルフを置いて私は帰り支度をする。
家で読めそうな報告書をまとめ、マントと剣を身につければ帰る準備は完了だ。
「じゃあ、ラルフ。ここを使っていいから、報告書頑張れよ」
私の声に顔も向けずに手をひらひら振って返事をするラルフを部屋に残し、私は出口に向かって歩き始めた。
帰る途中に執務室に寄り、その中かからひょろりとした翠の頭を探す。
「おーい、オリヴァー!」
「はーい!あ、隊長!
今からご帰宅ですか?」
翠のくせ毛を無理やりなでつけオールバックにした人懐っこい笑顔の青年は、私のところまで走ってやってきた。
彼はオリヴァー・ルドマン。
魔剣士団の中では若手の方になるが、魔剣士として結構腕が立つので私も頼りにしている。
「私の部屋でラルフが報告書を書いているから、逃げ出さないように見張っておいてくれ。
書き終わったら帰して構わない。」
「御意。
ラルフ先輩また報告書サボろうとしてたんですね!
任せてください!しっかり見張ります!」
「ああ、頼んだ。
では、私は帰宅する。」
「行ってらっしゃーい」
帰ろうとする私を何故かみんながニヤニヤと見つめてくる。
それに帰るのに行ってらっしゃいとはなんだ?
理由はなんだかわからないが、ランチを作ってくれているであろう繚を待たせないように本部を後にした。
このときの私は、残された者たちが私達の噂をしていたなんて全く気づかなかった。
「今日はメイドさんの買い物に付き合うって、朝から嬉しそうだったんだよねー隊長。」
「ここ最近は機嫌もいいし、表情も柔らかいよな!」
「よほど、新しく来たメイドがお気に入りなんだよ」
「あの鉄仮面な隊長をあそこまで飼い慣らすなんて、どういう手を使ったんだ?」
「今度偵察してみようぜ!」
「「「「さんせーい!」」」」
帰りながら今日の昼食のメニューは何かと考える。
はじめは異世界がどうのと言うおかしな子かと思っていたが、話せば気さくで明るく仕事も真面目に取り組む姿に警戒心はなくなっていった。
彼女の話す異世界の話は信じられないことばかりだか、嘘を言っているようには見えない。
それにこの短期間でレティだけでなく、ユードラや街の人たちとも打ち解け好かれる彼女の魅力に私も惹かれている。
そして何よりも料理が美味い。
料理をしているときの繚は心から楽しみ、美味しく食べてもらおうとしているのが伝わってくる。
そんな姿をダイニングから眺めるのが最近の私の楽しみの一つになっている。
もっと繚のことを知りたい、その気持ちが私の足を自宅へと向かわせるのだ。
「さて、もう少し早く帰るか。」
家で待つ繚を思い、スピードを更にあげ家路を急いだ。




