頑張りました
「よし、これで洗濯終了!
今日はユードラさんのお料理教室だから急がなきゃ!」
「ウォン!ウォン!」
この世界に来て、あっという間に一ヶ月半が立った。
レティの世話以外に任された洗濯も、だいぶ手際良くできるようになってきた。
時間に余裕もできてきたので、少し前から時々ユードラさんに料理も教えてもらっている。
洗濯かごを片付け、キッチンまで急いで移動する。
「おまたせしました!!
今日のメニューはなんですか??」
「ふふ、そんなに慌てなくても大丈夫よ。
今日はチキンの赤ワイン煮にしましょう♪」
「わあ!おいしそう!」
「赤ワイン煮は他のお肉でもできるけど、ぼっちゃまはチキンが一番好きなのよ」
「了解しました!
しっかり覚えます」
ユードラさんが教えてくれる料理はとても美味しいので、毎回どんなメニューなのかワクワクする!
教えてもらう中でクレイグ様について、野菜が苦手なこと、大食漢でものすごくたくさん食べること、ああ見えて甘いものが大好きなことなど知らないことをたくさん教えてもらっている。
「あとはことこと弱火で煮て完成よ」
「うーん!いいにおい♪
お昼ご飯にいただきますね!」
「んふふ、そうしてちょうだい。
いつか、ぼっちゃまにも食べてもらえるといいわね」
「....はい。
頑張ります....」
そう、料理を教えてもらっても肝心のクレイグ様がちっとも食べてくれないのだ。
朝はどうにかして彼より早く起きてご飯を作ろうと思っても、気づいたときにはキッチンでコーヒーを飲んでてそのまま出かけてしまうし、夜はご飯を作って待っているけど、いつも帰りが遅くて結局一人で食べるしかない。
私がこっちの世界に来た日以来休みもないので、まともに顔を合わせることもできていないのだ。
「まぁ、そんなに気を落とさないで。
時間がないだけで、食べることは好きな人だから。
繚の料理を食べたらきっと喜んでくれるわ!」
「ありがとうございます....私、頑張りますね♪」
「...じゃあ、私は本家に戻るわね」
「はい!また明日」
帰っていくユードラさんの背中を見送り、出来たてほやほやのチキンの赤ワイン煮を皿に盛り付ける。
ダイニングテーブルに移動し、ちょっと早めのお昼ご飯にした。
ユードラさんの指導のおかげで、我ながらとても美味しくできている。
「はぁ、美味しいけど、やっぱり食べてもらえないさびしいなぁー」
「クゥーン」
私の独り言を聞いて、レティが慰めるように足に体をすり寄せてきた。
「ありがとう、レティ。
さ、いつまでもうじうじしてないで、ご飯食べたら買い出しに行こう!」
「ウォン!」
その夜、いつものようにレティとお風呂に入ろうと準備をしていると、玄関の開く音が聞こえてクレイグ様が帰ってきた。
「お帰りなさいませ。
今日はお早いお帰りでしたね!」
「ああ、ただいま。
レティの世話で溜まっていた仕事が、やっと一段落したんだ。」
「それはよかったです♪
お食事はいががしますか?」
「悪いが、今日はもう食べてきてしまった....
明日は一日休みだから、食事を頼んでもいいか?」
クレイグ様の一言に私は耳を疑った。
明日、食事を頼むって!?
「繚??」
「は!
はい!任せてください!
ユードラさんに、たくさんクレイグ様の好きな料理を教えてもらったんです!
腕によりをかけて作りますから!」
「ああ、頼んだ。
では、明日は8時頃に起きるから朝食をよろしくな」
息巻く私を見て、過ごし表情を緩めるとそのまま部屋をでていった。
私の頭の中はもう、明日何を作るかでいっぱいになっていた。
その日は嬉しさのあまりなかなか寝れず、次の日はいつも以上に早起きをしてしまった。
横を見るとレティはまだ夢の中だ。
起こさないようにそっと部屋を抜け出して、キッチンへ移動する。
「よし!クレイグ様に美味しいって言ってもらえるように頑張るぞー!」
エプロンをつけ腕まくりをして気合を入れる。
今日の朝ごはんはガレット。
そば粉はなかなか手に入らないので小麦粉で代用する。
小麦粉と牛乳、塩をボウルに入れて混ぜ生地を作る。
ベーコンとチーズは食べやすい大きさに切っておく。
本当は、ほうれん草とかマッシュルームを入れたいけど、野菜嫌いなクレイグ様のために今回はなしにしてあげることにした。
「あとは焼くだけ!
あ、レティがいなきゃ火が使えないじゃない!」
ボッ!
私が一人で頭を抱えていると、急にコンロに火がついた。
私が驚いてキッチンの入り口へ目をやると、ラフな格好のクレイグ様が立っていた。
「あ、おはようございます!
すみません、起こしてしまいましたか?」
「いや、いつも早く起きていたから習慣で目が冷めてしまってな。
なんとなく廊下に出たらここに明かりが灯っていたから、来てみたんだ」
「今、朝食を作るのでもうしばらく待っててくださいね」
「私が勝手に早く起きただけだから慌てなくていい。
レティの代わりに助手をするから続きを頼む」
「はい!お手数かけますが、お願いします!」
クレイグ様は入り口からダイニングの椅子に移動すると、いつものように新聞を読み始めた。
なんだか緊張するけど、続き作っちゃおう!
コンロにフライパンをかけ、温まったらバターを溶かして先程の生地を薄く伸ばす。
焼けてきたところで真ん中にベーコンとチーズを乗せ、四方を折り曲げて四角く形を整える。
真ん中に卵を落とし、白身が白く固まってきたら完成!
お皿に盛り付け、ダイニングで待つクレイグ様のところへ運ぶ。
「おまたせしました。
ガレットです。クレイグ様のお口に合うといいのですが....」
「いただこう。」
フォークとナイフを使って、私の作ったガレットを丁寧に切り分け口へ運ぶ。
クレイグ様の口がゆっくりと咀嚼するのを見守りながら、私の心臓は大きく脈打っている。
心なしか眉間のシワがどんどん深くなっている気がする。
どうしよう、美味しくなかったのかな?
「....うまい」
「え?」
「すごくうまい!
この料理は初めて食べたが、君のオリジナルか?
ユードラの料理もうまかったが、繚は天才だな!」
いつもよりも饒舌になったクレイグ様はあっという間に一枚を食べ終わってしまった。
「まだ、材料はあるか?
もしあるならおかわりをいただきたい。」
「はい!まだまだたくさんあります!
今、作ってきますのでそれまでこちらを召し上がっててくださいね♪」
「ああ、ありがとう。」
昨日のチキンスープを温め直し、ガレットができるまでのつなぎに出すと、クレイグ様はうまい、うまいと食べてくれた。
ユードラさんの言ったとおり、大食漢な彼は朝ご飯でガレットを6枚、スープは鍋一つ分も平らげてしまった。
「今まで、この料理を無駄にしていたんだな。
すまなかった....」
「いえ、そんな!
こうやって食べてもらえただけで私は嬉しいです♪」
「仕事も落ち着いたし、今度からは食事は家で取るようにする。
また仕事を増やしてしまうが、頼んでもいいか?」
「もちろん!
クレイグ様のためにがんばります!」
「今夜のディナーも楽しみにしてる」
「はい♪」
今まで、こんなふうに誰かのために作ることなんてほとんどなかったから、喜んでもらえることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
今度からは食べてくれる人がいる。
なんだか嬉しくなって、私の頭はもう今日の夕飯のメニューを何にするかしか考えていなかった。




