出逢い
戦士の方は脳筋のつもりで書いてます(汗)
魔法使いの方はひきこもりすぎて性格がひねくれてるけど多分いい子なんです…(筆者ですら断言出来ない)
鈍い音を響かせて、男は落ちた。
名をローク。銀髪を短く整え、碧眼を持ち、片耳に紅い石がついたピアスを付けているばk…脳筋だ。
それなりに大きな音がしたのだが、彼は平然と立ち上がる。脳筋だからダメージなんてないのだ。さすが脳筋。
戦闘面では頭はキレるし外さないのだが、それ以外がてんでダメで正直親友である彼がいないと生活できないぐらいだ。ゲームでいう全てのパラメータを戦闘に振り切ったと思ってもらっていい。
やはりというか、全然知らない(?)世界にいきなり飛ばされたロークは迷子になり、直感に任せて進むことにした。
自分の失態で彼を、親友をあの世界に置いてきてしまった。悲しい気持ちと悔しい気持ちがごちゃ混ぜになり、気持ちが悪くなるが立ち止まっていても何も変わらない。その切り替えの早さは彼の取り柄のひとつだった。
自分の赴くままに。そんなふうに進んでいると上から鳥がこちらに向かって落ちてくるのがわかった。
ロークはさらっと回避し、がしっと鳥の足を掴んで地面へと下ろす。
捕まった手から逃げようとバサバサと羽をはためかせていた鳥ははてなマークを浮かべ、ロークを見上げて問うた。
「なんで私を殺さないんですか?」
「うわっ喋った。なにこれ鳥???ちゃんと鳥???」
「どういうことですか。ちゃんと鳥ですよ」
「だって言葉話してんじゃねぇか…。それで、殺さない理由?んなの別に俺怪我してないし理由ねぇじゃん。あ、ならここどこ」
「…ふむ。あなたなら…」
「おーい。えぇ…」
「いいです。こっちに来てください」
「えっおい待て、ちょっ…ぐえ」
何かを決めたのか鳥はずるずるとロークを引きずっていく。ちなみにロークは引きずられている間ずっと首が締まっており泡を吹いていたそうだ。
「起きてください。名も知らぬ戦士よ」
「…はっ!ばばあが手を振ってた気がする…」
「ここです。あなたなら、若しかしたら辿りつけるかもしれません」
鳥に引きずられて死にながら連れてこられた場所。それはなにもない草原だった。
色とりどりの花が咲き誇り、小さな妖精たちがふわふわと舞い踊っている。
ここまで精霊がいる光景をロークは見たことがない。精霊達は綺麗な場所を好み、その場所を破壊している者達には滅多に近づかないので姿を見せることもない。それゆえに精霊を認識できるものも少なくなっていた。…全て彼の世界では、という前提になるが。
珍しいものでも見るかのように近づいてくる精霊にロークはやんわりと潰さぬように触る。少しびっくりしたようだが、怖くないとわかってくれたのかすりすりと指の腹に頭を擦り付けてきた。
それだけでロークは「あぁ、やっぱり自分はあの世界ではないところにきたんだな」と再認識することとなる。
ちゃんと強くなって彼を助けにいかなければ、と固く意思を固めたところで鳥につんつんとつつかれた。
「?なに」
「なにか、感じることはありませんか」
「うーん…?」
そう言われるとこの世界にあるもの全部不思議なんだけどな。と思っていると少しだけ、本当に少しだけ気流の流れが妙なところがあった。
スタスタと歩き、その場所の近くまで行くと違和感が強くなる。ロークは無意識に魔力の波を放ち、それを破壊していた。
パリンと乾いた音と共にひとつの扉が現れる。鳥が驚き目を見開いている間にその扉をロークは躊躇なく開けた。
開けた先には玄関。
「普通の、家…?」
「人を、人を探してください!!赤髪に紫色をした眼の青年です!」
「えっ、お、おおう」
鳥の慌てように成り行きでうなづいてしまい、扉の中へと足を踏み入れる。
ロークは普通に入れるが、なにかに阻まれているのか鳥は入ってこれないようだった。
魔力感知は下手なので気配で人の位置を把握する。うっすらとだが感知することができ、心配そうにこちらを見てくる鳥に手を振ってその反応がある場所へと歩き始めた。
人気のない廊下をわざと足音を立てながら進む。そうした方が誤解を産まないだろうという無意識の配慮だ。
目的の部屋までつくと、一応ノックをする。やはりというか反応は返ってこないので力技で押し通らせて貰った。
「おい。お呼びだぞ」
鍵もかかっていない扉を開け、中へ入る。部屋は様々な書物の積み上がり床が見えなくなっていた。天井まで積み重なっている書物を避けながら奥まで進むと、ベットの上で丸くなっているそれに気がついた。
その気配は、死ぬ直前のものに似ていて…。
「っおい!!起きろバカ!死ぬな!」
飛びつくようにものに近づき、応急処置として魔力を流す。体力も必要だが魔力があればある程度は持ちこたえられると親友から教えられていた。脳筋の彼は体力さえあればいいと思っていたバカだ。脳筋だからな。しょうがない。
意識がないからなのか魔力は拒絶されることなくものの体に行き渡り、染み入っていく。
「ん…」と小さく声をあげて動いたそれは赤毛だった。片耳に蒼い石のついたピアスを付けている。もしかして、鳥が言ってたのはこいつ…?とロークは首を傾げていると、それは静かに目を覚ました。
「……」
「……」
互いに見つめ合い、空気が硬直した。そして。
「…おまえ、誰」
赤毛は初めて言葉を発した。
「ローク…。お前、体は大丈夫か?」
「死なせてくれればよかったのに…」
はぁ、とため息をつく赤毛はリェットと名乗った。
「はぁ?俺の前では死なせねぇっつうの」
「ふぅん、君のエゴでしょ?それ、僕に押し付けないで」
「知らねぇよ。俺は鳥にお前を助けてくれって言われたからやっただけだし」
ここで見直してみよう。確かに鳥に探せとは言われたが助けろとは言われていない。全てロークの勘違いなのだが、リェットは鳥という単語に聞き覚えがあったのか「そうか」と呟き、ムクリと起き上がった。
その途端ぐらりと体は傾く。咄嗟にロークが受け止めたものの、すぐに振り払われてしまった。
「なんで、お前僕に触れる。あいつら以外俺に触れないようにしてるのに」
「知らん。ほら、鳥んとこ行くぞ」
「…うん」
恐る恐る床に足を付けるリェット。やはり力が入らないのか立ち上がることもできなかった。リェットがチッと舌打ちしていると、それに気づいたロークはえいしょとリェットをお姫様抱っこする。
「なっ、なんでこれなんだ!」
「ちゃんと顔が見れるから。おんぶだとお前の変調にすぐに気づけないしな」
「…別に、僕のことなんて気にしなくていい」
「お前は良くても俺は気にする。諦めろ、性分だ」
「ぐっ…」
反論する気も失せたのか、リェットは首に腕を回しぐったりとロークの腕に身を委ねる。やはりさきほどまで死にかけていたからだろう。リェットの顔はまだ青白く、浅い呼吸を繰り返していた。
大丈夫かこいつ…とますます不安が募り、ロークは鳥が待つ場所に向かいながら微量の魔力をリェットに供給し続け回復が早くなるように促す。鳥の元につく頃には顔色も少し良くなり、呼吸も安定してきていた。
「よかった…なんであなたはそう一人で全て抱え込むのですか」
「だって…お前らには迷惑かけたくない。これは僕の責任なんだ」
「でも!私たちはあなたが死ぬことを望みません!嫌です!!頑固拒否します!」
ばっさばっさと羽を動かし、リェットの頭をこつこつと嘴で叩く。本当にリェットを心配していたようだ。
それが伝わっていたのだろう。リェットは気まずそうに目をそらし、小さく悪かった、と言葉を零した。
リェットの言葉に落ち着いたのか鳥はため息をつきながら一回だけ羽で頭を軽く叩くだけで終わった。そのままロークの方を向く。
「名も知らぬ戦士よ。此度のこと、深く感謝致します」
「いや、いいってことだよ。俺馬鹿だからはっきり言ってくんなきゃわかんないんだ」
「なにをお希望になります?」
「??どゆこと?」
「此度のお礼、なにが欲しいですか?」
「リェットと友達になりたい」
「っ!?」
ロークの願いを聞き、リェットは信じられないという目でロークを見る。そして、ロークを平手打ちした。
平手打ちといっても本気ではなく、力が入っていないのは当たり前である。
「っ…」
「いい加減にしろ貴様!!どれだけ、どれだけ俺を侮辱すれば気が済む!!」
「は、ぁ?」
「その手には乗らない。何度、何度俺を裏切った!?何度あいつらを傷つけた!?もううんざりなんだよ!死なせてくれよ!!」
死なせてくれ、と悲痛な叫びを上げるリェットにロークはコツンと軽い力で頭突きした(本心では殴りたかった。だがリェットを横抱きにしているので手が使えなかった)。
なぜ頭突きされたのかわからず呆けているリェットにロークは怒鳴るように自分の心をぶつけた。
「何言われてるかわかんねぇんだよ!俺はお前のこと侮辱もしてねぇし傷つけるってなんだ!!死ぬなんて言うなよ!生きたい奴だっていたのに!!俺は、俺はなにもかもわかる善人じゃねぇんだよ…。ちゃんと言ってくれなきゃわかんねぇバカなんだよ…っ」
ぐすぐすと涙を零しながら言いたいことをズバズバと吐露していく。
それは羞恥で顔を赤くしたリェットが物理で止めてくるまで続いた。
「というよりですね?あなたがはった結界を素通り出来てる時点で少しは信用なさい」
「…!そう、か」
「(…結界って俺が無意識で破壊したやつじゃねぇよな。言わなきゃバレねぇよな)」
「あの結界は意志を持っています。あなたに害するものを近づけるわけないでしょう」
「…ずこしは、っわがってぐれたが??」
「…少し、はな。でも、下心なしで僕に近づいてきたのは君で2人目だ」
「改めて聞きますよ。あなたの願いはなんですか。名も知らぬ戦士よ」
「…すん…。何度だって言うさ。リェットと友達になることだ。あと俺の名前はロークな。鳥」
「鳥ではない鴻だ」
「コウ?(ニッコリ)」
「ごめんなさいリェット。コウと言います」
「コウか。よろしくな」
「それで…ローク。その言葉、偽りはないよね?今まで散々痛い目あったから今回からは契約しようかと思ってるんだけど」
「おー。いいぜ。どうすりゃいい」
お気楽なロークの言葉にリェットは(こいつ馬鹿なのか。馬鹿だったわ)と頭を抱えながらもこの契約の危険性を一から説明するハメになった。脳筋に一般常識期待しちゃダメ、絶対。
要点だけ掻い摘んで説明し、リェットは念押しをするようにもう一度ロークに問う。
「すっごく簡潔に説明したけど。それでも、君はこんな僕と友達になってくれるのか?」
「何度も言わせんな。そうだって言ってんだろ。やるなら早くやろうぜ」
「後悔しても知らないよ」
「なにを後悔するんだよ。いい加減しつこいぞ」
「お前、よく向こう見ずって言われない?」
「バカとか脳筋とか脳筋とは言われる」
「それより酷いことになってるんだな。なんとなくわかった」
リェットが手を出せ、と言うのでロークは大人しく両手を出す。
無条件に信頼されているというのがはっきりと分かり、リェットはくすぐったい気持ちになりながらも人差し指を魔方陣を描くように手のひらの上で動かしていく。
準備が終わったのかリェットはロークの手を取り、一つ、軽くキスを落とした。
するとなぞられていた場所が淡く光り、体全体に根のようなものが広がったかと思えばそれらは心臓の上で収束し、消える。
きょとんとしているロークにリェットは触れ、軽くだが自分の魔力を流した。その瞬間先程の光の筋が青白く発光し、ビリッと電流が走る。
目を白黒させているロークにリェットはニコリと笑った。
「保険だよ。お前が僕を殺そうとしたら、僕の魔力を流す。そうすればお前は死ぬ。僕と共に。そういう、願い。いや、呪いかな」
「なん、いや、待て待て。なんでお前まで死ぬんだよ。俺だけならわかるぞ」
「…君が最後ってことだよ。こういうことをするのは。僕の想像を超えてきた君までが、僕を裏切るというならば僕はもうこんな世界いらないし、期待もしない。それに、これなら君とともに死ねるから」
ずっと不機嫌そうな顔をしていたリェットが無邪気な笑みを浮かべてそう言う。その、儚い笑顔と歪んだ考えにロークは深い闇を感じた。
「お前は…そっか。俺が知らないようなことされたんだな」
「うん?」
「ううん、何でもねぇ。それでお前は満足か?」
「…正直やってみたいことはある。この何百年は一人でこうやって引きこもって眠っていたからな」
「うえぇ…お前何歳なんだよ…」
「お前の祖先レベル」
「マジか。まぁ別に気にしねぇけどさ。んじゃま、まずはお前の家掃除するぞ」
「うへぇ…」
「あと」
「?」
「もう無理しなくていいぞ。そうやって僕っていわなくても、丁寧…じゃねぇけどなんか喋り方も違和感ある。自分がしたいように振舞ってくれていい」
「…わかった」
コクリと小さく頷き、本当に少しだけ心の底から笑ってもらえた気がした。女の子耐性がほぼない脳筋が笑顔に見惚れたぐらいにはかわi…素敵な笑顔だったとだけ言っておこう。
ぷいっと顔を逸らし、ロークはリェットの髪をかき混ぜるように撫でる。
「おら、早く片付けんぞ。俺の寝る部屋ねぇ」
「!?お前俺の家に泊まんの?」
「当たり前じゃん。俺、この世界のこと全然
わかんねぇし」
「…お前、魔力の流れが微妙に違うと思ったらまずここの世界出身じゃなかったのか…」
「俺の話を信じる…だと!?」
「別に世界ぐらい何個あっても驚かねぇよ。ただ、狙ってその世界の枠を超えるにはそれ相応の代償が必要だがな」
「…」
「ほら、片付けるんだろ。ローク?」
「あ、あぁ。そうだな、ならどこからやってやろうか…」
「お、おおおお俺の部屋はいいからな!!絶対やんなよ!!」
「お?ふりか??ならお前の部屋からな」
「やめろ(ゲシッ」
「いたぁ!?」
そんなこんなで世界(?)超えちゃった系アホの子バカ戦士と、世界が嫌いで嫌いで仕方がない引きこもり系ニート魔法使いの共同生活(笑)は始まりましたとさ。
この長さのものをどーんするか、いくつかに分割して書こうか迷った挙句今回はどーんしました。
次からは程度を見て細かく分けようかと思ってます。