case0-2.そして戦いは終わった
なかなか文字数のコントロールが難しいですね。
痛そうな表現が苦手な方は注意。
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転生してから30年…
体を鍛えスキルを磨き、異界の生物が湧き出す中心へ旅してきた。もうすぐ、歪みの中心に辿り着く。途中で現れる異世界の生物は、弱点を<<分析>>のスキルで解析し、<<全属性霊素操作>>で弱点を打って倒してきた。
そうそう、<<分析>>のスキルだが俺が予想していたものとは掛け離れていた。というか、『スキル』の在り方自体が思っていたものと違ったと言える。ゲームみたいに、詠唱したら魔法が発動するとかそういうものではなく、その行動をする際に補正がかかるようなものだったのだ。
例えば、何か物を分析するとしよう。すると、今までの自分の経験からもっとも似たものが思い出され、それに関する知識も思い出される。最初は、思っていたスキルとの乖離に愕然としたものだ。今考えると、突然自分の頭に知らない知識が生まれるのはおかしいという当たり前の話なのだが…
<<全属性霊素操作>>は、この世界にある不思議現象を起こす霊素を操作できる能力らしい。こう、具体的なイメージを考えると操作できるのだが、感覚的なもの過ぎて説明が難しい。<<分析>>のお陰で感覚的に霊素というものがわかったが、このスキルがなかったらもっとこの力を扱うのにもっと苦労していただろう。軽い気持ちで選択した割に大当たりを引いたようだ。
「もうすぐ、魔物共の巣の中心だな」
共に戦う戦士の男が話しかけてきた。
そう、俺はパーティを組んで、管理者からの依頼をこなしている。というのも、普通に考えて一人ではどうしようもない。男が魔物と呼ぶ異世界の生物は数が多く、この世界を瞬く間に侵食していった。
俺が子供の頃には、人類は既に瀕していたくらいだ。人類は弱く、小さな村はどんどん壊滅していた。
「あぁ、やっと根源を断てるよ」
そう、もうすぐだ。もうすぐ役目が終わる。そうすれば、救世の英雄として、余生を過ごせるし、次の転生にも期待できる。
「お前のお陰で俺たちも大分強くなったよなぁ」
斧を持った大男が遠い目をしながら話しかけてきた。
12歳の時、<<分析>>を利用していろいろな検証をしていた俺は、偶然にも効率的なスキルの強化方法を発見した。そう、スキルは強化することができたのだ。
俺の持つ管理人から貰ったスキルほど優秀じゃないにしても、スキルを持っている人たちは大勢いる。この強化法を発表した時は、これで魔物からの被害が減ると一躍注目された。このお陰で、国のトップもいろいろ便宜を図ってくれるようになった。こうして旅ができるのも国の援助あってのことだ。
「そうだな。出会った当時は弱かったもんなぁ」
こいつも含めて、この世界の人類は弱かった。肉体的なチートなんて無いと思っていたが、そこは管理者様がいろいろしてくれたのか超人スペックだった。当時、この大男とは10倍くらいは戦闘力に差があったと分析できている。それが、強化法を利用した修行を得て、4倍くらいまで差が縮まったのだ。平均2~3倍強くなる。如何にこの強化法が規格外かわかるだろう。
「いや、それはお前が強すぎるんだよ。出鱈目だよ、お前の肉体は…」
呆れたようにこっちを見る。懐かしい話をしながら歩いているとそれが見えてきた。
「あれか…」
全長は5mくらいだろうか。触手が蠢いていて気持ち悪い。なにか黒い瘴気のようなものを出しているようにも見える。<<分析>>を使用しているのだから、あれに触れるのがまずいことはわかった。
「よし、いくぞっ!」
大男が掛け声と共に戦斧を振りかざす。
「ま、まてっ…」
慌てて声を掛ける。瘴気に対する警告ができていない。
振るわれる戦斧。
千切れる触手。
溢れ出す瘴気。
そのすべてがスローモーションで見えた。
「ぐあぁぁぁぁぁ」
悲鳴が上がる。瘴気を腕に浴びてしまったらしい。
「おい、何をしているんだ。奇襲できる時は、こいつの<<分析>>を待ってから突撃する作戦だっただろう」
弓使いの男が声を上げる。そう、余裕がある場合は、<<分析>>してから戦うのがいつもの戦い方だ。もうすぐ、全てが終わると言う思いのせいなのか、大男は気が逸ってしまったようだ。
「あの黒い霧のようなものに近づくな!詳細はわからないが人体に害があるぞ!」
声をかけつつ触手の化物の<<分析>>を開始する。
(何だ、これは・・・何もわからん。)
それは、久しぶりの未知だった。
「とにかく、牽制するぞ!」
弓使いが弓を放ちながら退路を確保していく。剣士の男も大男に肩を貸しながら後退する。怪我人が出た場合、後方の補給部隊まで送ると決めていた。俺は、盾役の2人に触手を捌いてもらいながら<<分析>>を続ける。
(考えろ、管理者直々に選定したスキルなんだぞ。霊素に関係があるのは確かなはずだ)
こんなことなら、標的に関してもっと管理者に聞いておくべきだったと後悔しながら、ふと、本体ではなく周りに目をやると…
(ん、霊素が消えていく?つまり、霊素を消滅させているか、取り込んでいるのか。)
消滅ならば、管理者はもっと別のスキルを渡したはずだ。何故ならば、霊素を利用した直接攻撃は、全て無効化されるということなのだから。
(となると、取り込んでいる可能性が高い…。少し試してみるか)
霊素を操り、触手の魔物の周りから霊素を奪い去る。
すると、突然触手が大暴れを始めた。
「おい、盾役以外は全員直ちに後退。盾役は俺を守れ。」
この霊素操作はかなり神経を使うため使用中の守りは他の人に任せるしか無い。暴れまわる触手が盾役に襲いかかるが、なんとか体勢を維持している。問題は触手よりも瘴気だ。盾役の肌を焼いている。
「すまん。もう少し耐えてくれ」
<<分析>>しながら見ているが、かなり効いている。動きからすればもう少しで倒せるはず。
それから10分の攻防の後、触手の化物はついに動かなくなった。
「終わった・・・のか?」
触手はピクリとも動かない。本体を剣で刺しても動きはない。瘴気も消えた。
あぁ、ついに終わったのだ。後は余生を過ごすだけ。戦いばかりで女っ気もなかったが、偉業を成し遂げた今、俺にも春がくるはずだ。
「さぁ、皆のもとに帰るぞ!」
・・・・・・
補給部隊に辿り着き報告すれば皆から歓声が挙がった。
「「「やったぞぉぉぉぉぉぉ。」」」
疲れていたが、大男の容態が気になった。いつものように<<分析>>して、治療してやらなくてはと思い、救護用のテントへ向かう。
「全く、最後の最後で何やってるんだよお前は。ほら、腕を見せてみろ」
「す・・・すまん」
意気消沈する大男が素直に腕を上げたその時だった。
ヒュッ!ザシュッ!
突如あがった風切り音に俺は対応できなかった。
それは、男の腕から生えてきた触手が胸を貫いた音だった。
「あ…ぐっ」
胸に突き刺さった触手が動き回る。苦しい、痛い。
とにかく触手をなんとかしなくては…。そう思い、血を吐きながらも、彼の腕の触手をナイフで切り落とす…と同時に意識が遠くなった。
(あ…あぁ。こんな終わりなんてなぁ…)
最後に見た景色は呆然とした大男の姿だった。
次から本編の・・・予定