オカルト研究会
世には、オカルトと呼ばれる怪しいテーマを追求する人々が存在している。一言でオカルトと言っても、心霊写真、地球外知的生命体との交信、超能力、古代超文明などなど、その内容は多岐に渡る。いきなり講釈垂れて悪いが、そもそもオカルトとはなんだろう?直訳すれば「神秘的なこと。超自然的なさま」という事らしい。実に素敵な響きだよね?憧れちゃうよね?
だが無条件に憧れを抱くだけではオカルト求道者として一流とは言えないと思うんだ。霊的な壺を大枚叩いて高額で買って満足してるようでは、ただの可哀想な詐欺被害者だもんね。そもそも霊的って雑な表現すぎないか?厳密な定義を述べよ。
全てのことは疑ってかからねばならぬはずだ。例えクダラナイことでも疑問を持たねばならない。「あの世があるとして、死んでいく我々の赤血球はどうなるのでしょうか?細胞一個ずつあの世に行っているのかしらん?」「ティラノサウルスの心霊写真は何故撮れないんですか〜?」と言った内容のお手紙を、新聞の人生相談室に出した中学生の頃の俺は偉かった。まったくくだらない疑いは尽きない。尽きることはない。
どうでもいいって?そんな事はないはずだ。
やっぱりオカルト探求者たるもの、憧れと疑いの狭間で悶絶し抜いてこそ一流であると思うんだな。個人的に。
特に個人的な意見なのだけれど、清廉潔白にして科学的な知見も持ち合わせている素晴らしいオカルト研究者こそが、次の時代に必要とされる人材なんだと思うな。つまり俺。今の時代には誰からも全く必要とされていないが、次代の偉人になっているに違いなかろう。
とまあ・・・このようにストイックな姿勢でオカルト問題と向き合ってる俺が、部長を務めているのが「時大オカルト研究会」という大学サークルだ。ここでは質の高いオカルト研究を志し、科学的な見地に立ってオカルトにアプローチすることを研究の柱としている。一切の妥協は許さない素晴らしいオカルトサークルなのだ。全ての謎に合理的な答えを出す努力が嫌ならば、隣のファンタジー同好会にでも行くがいい。
ああ隣は繁盛してるさ。羨ましい限りさクソがっ!どういうわけか女子も大勢、在籍してるって言うじゃないか。彼女達に「悪いことは言わない。サークル活動などに熱をいれず学生は勉学に励むべきです。ただしオカルト研究会を除く」とアドバイスしてあげたことあったけれど、まったく相手にされなかった苦い思い出。
そもそも部員が少ないからなんだというのだろう。組織なんて3人いればいいんです。我がオカルト研究会のように。
やっぱり組織にとって大事なのは人数じゃない。メンバーの絆である。この点、我々3人の絆はダイヤモンドよりも硬いから素晴らしい•••というのは精一杯の強がりでした。(そもそもダイヤモンドって金づちで叩いたら割れるらしいね、これ豆知識)というのも3人しか部員がいないというのに、部長の俺を除く2人がサークル活動に疑問を持ち始めてしまったから、さっそくプチ危機が勃発。
暑くて狭い部室の中に3人もいれば、そりゃ色々あるけれど。今回もきっと俺の人徳で丸く収まる・・・はずだ。
「昔はオカルト研にも大勢の部員がいたんですねー。楽しそうだなあ。実に楽しそうだなあ」
プチ危機の発端は、窓際の机に座って先輩達が残していったアルバムをめくっている1学年下の後輩、弘崎和也という男の一言だった。彼は漆黒のマッシュルームヘアを持ち、その艷やかな髪は頭上の蛍光灯の光を反射して、天使の輪のような輝きを放っている。しかしながら、まったくオシャレ感の漂ってない素晴らしい男なんだ。モテる部類かモテない部類かで言うと「我々の仲間である」とだけ述べる。
彼は人文学部の2年生で考古学というノスタルジックな学問を専攻しているだけあって、いろいろと昔を懐かしむ傾向があるようだ。しかしそれは危険なノスタルジー。目を覚まさせてやらねばならないだろう。
「本当だね弘崎君。今とは全然違うよね。八坂君もそう思いわない?」
そして彼の肩越しにアルバムを覗き込んでいるのは同輩の柳玲奈という子だ。
彼女は5年ぶりに入ってきたオカルト研究会の女子部員である。彼女の加入は『何を考えてうら若き女子がこんな不毛な腐れサークルに入ってきたのだろうか?もっと楽しそうなサークルは他にあるのに』と、同輩の俺を真剣に悩ませるほど不可解なものだった。彼女は弘崎とは違った意味で艷やかな黒髪を持った女子だ。その綺麗なショートヘアは清涼感があり、暑苦しい部室と弘崎のマッシュルームヘアとの間で、ちょうど良いバランスが取れていると思う。我々のような男2人のみならば、この部室の室温が10℃は高くなりそうだ。
2人は先輩らが残していったアルバムをめくりながら、ロマンティックなノスタルジーに浸る。今にして思えば昔のアルバムなど焼却しておくべきだった。
「でも今じゃ僕と部長と柳さんの3人しかいないんだもんな〜。本当に我々の方向性はこれでいいんでしょうか部長?何か大きく間違っているんじゃないでしょうか?」
「俺たちは何も間違っちゃいない!我々は少数精鋭なんだ。もっと研究活動に自信を持て弘崎」
確かに過去の時大オカルト研究会は、大型サークルとして大学に君臨してきた。今では考えられないことだが、サークル棟の2階にある最も巨大な部室を陣取り、文系サークルの花形として栄華を極めていたらしい。女子もたくさんいたと伝え聞いた。許しがたいほど充実せし先輩方の充実っぷり。しかしそんな先輩方も今頃は社会の歯車となって、その心はギシギシと軋んでいることだろう。ザマァみろと言いたいが、オカルト研究意外の仕事ではまったく無能で、社会の歯車としてすら勤まらないだろう俺の将来を考えると、そんな事はとても言えない。
昔の賑やかさなどどうでもいいのだが、部員3名となった結果、オカルト研究会はクーラーもない狭い部室に追いやられてしまったのはちょっと困る。窓を閉めきっていればたぶん熱中症になるだろう。だが我々は過去の栄光などにすがりはしない。心頭滅却すれば火もまた涼しと誰かが言っていたはずだもんね。
「その考えを改めてくださいよ!我々の手でこの衰退傾向を反転させて、オカルト研究会中興の祖となりましょうよ!」
「私もクーラーは必要だと思うな。この部屋は暑すぎるから、この夏を乗り切れるか心配よね」
彼らはサークル活動に求めるものが多すぎる。
それに比べて俺は扇風機さえあれば、他にはなにもいらない。本当に人間として完成されているよね。じゃあ「机の上の四角いルーピックキューブもいらないのか?」と問われれば全力でNO!と叫ぶ。俺はいつだって前言撤回できるのが自慢です。話が脱線してしまったがルーピックキューブだけは俺の人生に必須の代物なのである。このプラスティックの感触がないとソワソワしちゃう。だが決して遊んでるわけじゃない。すべてはオカルト研究のためだ。
「柳さん、部長は四六時中ルーピックキューブやってますけど、そんなに面白いのでしょうかアレは?」
「私に聞かれても八坂君の拘りは分からないわよ」
「では直接ご本人に。僕は、前から部長にお尋ねしたかったのですが、ルーピックキューブってオカルトに何か関係してるんでしょうか?」
「いや全然」
「失礼しました・・・」
確かに俺という人間は、ルービックキューブさえあれば心頭滅却できちゃうような集中力を持っている。しかしあくまでも思考を研ぎ澄ますツールにすぎない。分かってもらえなくても、まあいい。研究活動を始めるとしよう。
「そんな事より弘崎。例の御斗簿気寺に祀られていた河童の骨の分析は済んだのか?俺が四国まで行って実物の写真を撮ってきたんだぞ」
弘崎は大学図書館から借りてきた巨大な書籍を次々に机の上に並べて広げてみせる。そこには様々な動物の骨格写真が載っている。
「結論から言わせて頂きますと、この河童の骨は偽物です。鳥類と獣の骨を組み合わせたものと見るのが自然だと思います。足の方はイタチの骨と確定しました。部長の四国遠征は無駄骨になりましたね。お疲れ様でした」
やはり偽物か・・・これで何度目のことだろう。いくら探しても本物など確認できやしない。今や我々はオカルト研究ではなく、ただのインチキ超常現象撲滅隊になってしまっている。これは残念なことだった。神秘的なものを追い求めて早2年半。未だ神秘的なものにはお目にかかれない。このままでは、俺は神秘的な物に出会う前に就職活動という恐るべき神秘に飲み込まれてしまう!
今にして思えばオカルト研究会と言えども、もう少しリアリティのあるテーマを追求すべきだったのではないかと反省している。河童て。よく考えたら緑色の肌をした泳ぎが得意な変態と変わらんじゃないか・・・。
「ライフワークの河童研究は諦めて、次は超能力研究はどうですか部長?これぞオカルト世界のメインストリームですよ。華やかじゃないですか」
「そんなことないよな柳」
「私としては、河童の老いてるような妙に露出の多い生々しい肉体の絵を見るのは嫌いではないけど・・・。そろそろ違うテーマでも良いんじゃない八坂君?」
むうう。河童研究に対する反対意見が多いな。
「でも超能力は駄目!それは却下!思い出すんだ弘崎、自称『ほんのちょっとだけ僅かにスプーンを曲げてしまう能力者』とかいただろ?あの最悪のやつ」
「思い出しました・・・あれは酷かったですね」
「握力でどうにかなるレベルの芸じゃ、否定も肯定もできないんだよね。唯一言えることはそれが超能力だとしてもクソだってことだけなんだが」
しばし考え込んだ柳は、メモ帳を取り出して、彼女なりにピックアップしてきたテーマを俺にぶつけた。
「じゃあ八坂くん向きに最近噂の『呪いのルーピックキューブの噂』なんていかが?」
んん?それは確かに興味深いテーマであるが、個人的にとっても怖いのでこれも却下してやった。




