1章 ー邂逅ー 4話
"それ"はゲアンからのもので、やけに整った字でこう綴られていた。
『我は隣国のゲアンである。我が国はサラサを攻め滅ぼした。サラサと同じ目に遭いたくなければ、ナキの皇女を我が国の皇子のもとへ嫁がせ友好関係を結べ。10日後に我が国の使者を送る。』
手紙を読む父と臣下の顔は、みるみるうちに悲壮なものへと変わっていった。
わたしは戦慄した。
手紙の内容にではない。"色"にだ。
その手紙は、今まで"視た"ことのないほど黒い"色"に染まっていた。まるで小さな闇のようだ。
わたしの眼には、そう"視えた"。
そして、それだけではなかった。"色"が突然溢れ出したのだ。
手紙の闇はどんどん溢れ出て、尽きることは無く、あらゆるものを真っ黒に染めていった。
床を柱を椅子を人を。
誰も気づかない。
"黒く染まっていく"。
闇はわたしの足下まで伸びてきた。音も無く、実体も何も無いが、"視える"
わたしは怖くなり、後ずさるが、闇は止まることなくやって来る。
「あっ。」と思った瞬間、自分の足は黒く染まっていた。手で払おうにも、"色"は物体ではないから触れることはできない。この不可解な出来事に、わたしはどうすることもできなかった。漠然とした恐怖だけを心の内に押し込める。
どうして皆には"視え"ないの?
大広間も目の前で話をする父も臣下も床に横たわる使者もその手当てをする医者も衛兵も黒く染まっていく。
どうして皆は気づかないの?
どうしてわたしだけ"視え"てしまうの?
黒く染まっていく。この国が闇に飲み込まれる。早く手紙を遠いところへやらないと。遠いところって何処へ?
それともこれは夢?
自分の体がだんだん深い闇に飲み込まれていく。
大丈夫なの?このままわたしは闇に飲み込まれてどうなるの?
叫び出しそうになるのを、わたしは必死で堪える。
"誰かが、この世界を黒く塗り潰そうとしている。
誰かが、この世界を酷く憎んでいる"
わたしの視界は、真っ暗になった。