小さいチャンピオンですけど、何か?
裏格闘技トーナメント。
そんな名前の格闘技大会が存在する。
公では行われない試合ルールは“何でもあり”の裏格闘技大会。
その第一選手が人志武志であった。
身長は170㎝と格闘技をやるものとしてはかなり物足りない身長。
体重は70㎏。少し筋肉が多く、普通の170㎝よ
り体重は少し重かった。
ただ雰囲気は、というより見た目も少し子供っぽさがあり、客観的に言うと高校生か大学生と言ったところだった。
そんな人志は今は控え室にいた。
今、トーナメントは第一回戦を行っていた。
様々な選手、いや戦士たちの最初の、始まりの、スタートの、戦いが行われていた。
今は人志の番ではなく、他の者たちが切磋琢磨している。そのため、まだまだ試合まで時間のある人志は控え室でウォーミングアップをしていた。
「シュッ!」
空へとパンチ。キック。舞うように移動し、またキック。パンチ。
「シュッ!」
そして大きく後方へバックステップしその反動を使い、前方へと踏み込みながらの直突き。
「シュッ!」
クルリと一旋回し回し蹴り。そして続けざまに左フックと右フック。
そのあと、右足の前蹴りを打とうとしたとき。
「ふん。精が出ることだな」
急に背後から声が聞こえた。
その音源へと振り向く人志。
「あぁ。あんたか。」
「あんたか、じゃねぇよ。それくらい声で分かれ。あと気配くらいは感じろ。今から戦うんだろうが。気ぃ張っとけよ武」
その男の名前は田嶋戯作。
身長は180㎝と人志よりも大きい。
人志と違い、子供っぽさはないものの若くはある。
そして、腕や足も太く、木の根を思わせる。
だがそれは太っているという意味ではなか、肥っているという意味でもなく、締まりのある筋肉であるという意味だ。
見た目は普通に細い。
「それを言うならあんたもだろ。しかも俺よりも試合するのは早いはずだろ。良いのか?こんなところにいて」
頭に浮かんだ疑問を即座に問う人志。
「ん?あぁ。いやはや、それならもう終わったよ。ってかもうかなり試合は進んでるぞ。多分お前が思ってるよりは、な」
「は?マジかよ。ふーん。で?お前はどうだったんだ?勝ったのか?」
「いや、負けた」
やっぱりかと言わんばかりに人志は溜め息をついた。
「まぁ、相手が相手だしな。」
「そうか?俺はそうも思わないがな」
「負けたあんたがそれをいうか。しかしなー。お前の相手は身長あれだぜ?規格外の215㎝だろ?でかすぎだっつーの」
「それでも負けた理由にはならねぇな」
「確かにな。あえて理由を言うならお前が弱かったってことだろうよ」
「ちげぇねぇ」
クククと笑う田嶋。
そうして雑談をしている最中、放送が鳴った。
『人志選手。人志選手。試合のお時間です。東ゾーンよりお急ぎください』
試合の連絡だそうだった。
「もうきちまいやがったか。んじゃ、ちょっくら行ってくる」
「あぁ。に、しても。ホント不思議だよな。」
「は?何がだよ?」
「そんな小さいお前が。そんな弱々しそうなお前が。そんな優顔なお前が。そんな子供っぽいお前が。そんなお前みたいなお前が──────」
田嶋は悪びれもなくいう。
「─────この大会のチャンピオンってことがよ」
※※※
田嶋と人志はこの大会で出会った仲だった。
出会ったといっても、それは廊下でばったりとかトイレで挨拶して、とかではない。
単純に試合で当たったのだ。
その試合は人志の初試合(あくまで裏格闘トーナメントでの初試合である)であり、印象に残ったせいか田嶋のことはよく覚えていた。
(逆に言うと田嶋以外の他の人間はあまり覚えていなかった。)
そして、田嶋へと試合し勝利したのは人志だった。
そのあとも順調に勝っていき、人志は優勝を手にした。
裏格闘トーナメントの平均身長は約180㎝前後。
つまり、170㎝前後程度の人志は超もつくほどの小柄で、最がつくほどの小型だった。
故に優勝したときは観客たちは驚き、歓喜し褒め称えた。
そのあとの第二回第三回のトーナメントも優勝でおさめ、人志はこの裏格闘技世界のチャンピオンとなった。
『空前絶後のチビ』『小さき魔獣』『チルドレン』などといった異名もついた。
そうして今、現在も人志は優勝を目指し戦っている。
意味はないかもしれないし、無意味極まりないかもしれないが。
戦っている。
闘って、戦って、叩かって、多々勝っている。
それが不器用な男である人志の生き方であり、愚鈍である武志の人生でもあったのかもしれない。
だが何はともあれ試合場へと進む人志ではあった。
あんまりガチムチにしたくない。
この気持ちはなんだろう…