もうとっくに始まってるぜ
格闘技素人。格闘技にわか。
というより、格闘技分からない作者です。
不明瞭な点は多数あると思いますが、ご理解頂ければ幸いです。
人志武志はヒーローだった。
弱きを助け、強きを挫く。
そんなヒーローだった。
中でも、小学六年生の時が絶頂期だったろう。
皆からの信頼はもちろん。女の子にもモテていたし、クラスの中心人物でもあった。
学校に侵入した刃物を持った男を倒したこともあった。
倒したあと先生に怒られたは怒られたが、皆からの信頼は厚くなった。
そして、そのまま中学にくりあがる。
それでもまだまだヒーローだった。
勉強は苦手だったが、持ち前の運動神経で部活のチームを県大会までのしあげた。
そして、その力を買われ、高校も推薦で合格を果たした。
薔薇色の人生であった。比喩ではなく、本当に幸せで薔薇色だった。
そう。中学までは。
高校生になり、事態は急変した。
親が死んだのだ。父母ともに死亡。
原因は自動車事故だった。
その日は人志の部活の県大会の日であり、人志が活躍する日だった。
父母はビデオカメラをもって張り切って車で来ている途中、後ろからの居眠り運転をしたトラックと前方の壁にサンドイッチに挟まれた。
父母は一瞬にして命を絶った。即死だった。
そのあと、人志の日々は壮絶であった。
親の遺産や貯金により学校へは行けるものの寮生にはならず、家で暮らしアルバイトと学校の日々が続いた。
親戚に預かるという意見も出たが、人志はそれを拒否した。
「俺の両親がいたこの家は。俺の父さんと母さんがいたこの家は、俺と両親の三人の家です。他の人には入ってほしくありません」
そう言い放った。親戚の中に両親の遺産などを狙う者たちがいたから人志は言ったのかもしれない。
ただ、分かることはもう人志は一人なのだ。
ひとりで、一人で、独りなのだ。
昔のような孤高ではなく、孤独になってしまったのだ。
変わってしまった人志の人生。
変わってしまった人志の生活。
変わってしまった人志の日常。
変わってしまった人志の事態。
そうやって、そうやり、そうなってしまった。
あるとき、人志のつまらない人生の変える出来事が起きた。
古くなった電化製品を買い変えようと思い、店へといったのだ。
そのときたまたまそこにテレビがあり、そしてたまたま画面を見たのだ。
そこには一人の男が映っていた。
決して若くない。そしてそれほど年も食っていない男だった。
テレビの内容はその男の武勇伝だった。
その男は体が小さく、体格も恵まれていない。そして言うほどの運動神経も元々持っていない男。
そんな男が虎を素手で殺したという動物愛護団体に非難されそうな武勇伝だった。
自分の習った武術を総て使い、虎を叩き殺したといったいう内容だったようだ。
それを見た瞬間、人志の体に電流が走った。
言うなれば憧れだろうか。
客観的にみればこれはおかしいかもしれない。
なぜならその男は単に虎を殺した男なのだから。
だが、人志の目には別の存在として映っていた。
虎を殺す。“虎をも”殺す男。
凄いと思ったし、これになりたいとも思った。
そう、そして、そのときにはもう勝手に体が動いていた。
すぐに空手を、ボクシングを、柔道を、始めた。高校は辞めた。
そして、あれから十年。
人志は成長した。年は二十七歳。
あらゆる武術を習った。あらゆる苦痛を乗り越えた。あらゆる修業をした。あらゆる技を習得した。多分、現代社会では受け入れられない生き方をした。
この物語はそういうような物語だ。
一人のそんな男がする。
がむしゃらで、むちゃくちゃなお話。
無謀で、阿呆で、馬鹿で、無鉄砲で、それでいて凄い。
そんなお話。
読んでくださりありがとうございました!