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『ASHURA』  作者: 鵺 伯啄
一章 羅刹 夜叉姫 そして般若 
8/20

ASHURAを探しに行くんです




 3人は、おもいっきり嫌な顔をしながら、ぶーぶーと文句を垂れている。弥勒は耳を押さえて、聞こえない振りをしている。

順風耳は、3人に向かって両の手を広げ、おさえておさえてと彼女らをなだめている。

「なにも闇雲に探せと言ってるわけじゃないんですよ。」

夜叉姫は口を尖らせて、文句を言っている。

「でもさーどんな物かもわからない物をさー探せって言われても、何年かかるかわかんないよ。あたしたちおばあちゃんになっちゃうじゃん!」

羅刹と般若が、うんうんと頷いている。

「ですから、手掛かりが全然無いわけではないんですってば。私達が知ってるのは『ASHURA』の存在だけなんですが、他の大賢者様たちが何か情報を持ってるかもしれません。その大賢者様たちにお会いして情報を集め、あなた達で探し出してもらおう、というわけなのですよ。」

般若がちょっと面倒くさそうな顔をして、弥勒にくってかかった。

「だったら、弥勒じじいがさがせばいいじゃん!あんた大賢者なんでしょ?不思議なちからで簡単に見つけられるじゃない。」

弥勒は、ん?わしのこと?といったとぼけた顔で3人に答えた。

「だって、めんどくさ・・・じゃない。これもおめえらの修行のためじゃ、この広い世界を周って見聞を広め、心身ともに素晴らしい女性になってもらおうっていう、わしの親心がわからんのか!それをぶーぶー文句たれやがっておめえらは・・・」

3人が口をそろえて怒鳴る。

「わかるかー!」

「なんだとてめえら!上等だ表でろ!まとめて相手してやる!」

 そこへ順風耳が割ってはいる。

「もう、いいかげんにしなさい!なんですか弥勒様、女の子相手にむきになって。あなた達もあなた達ですよ!これは弥勒様があなた達の事を思っての修行なんですよ。感謝こそすれ文句を言うなんてもってのほかです。」

 順風耳に怒られて、3人はしゅんとなっている。それを察した順風耳はなだめる様に。

「それに『ASHURA』を手にした者は、3つの願いを叶えてくれるといいます。願いはあなた達が叶えてかまいませんから、『ASHURA』の現物だけを持って帰ってきてください。」

それを聞いた3人は、目をきらきらさせて口々に話す。

「本当ですか?だったら私は、お金だな〜1億ギル。いや、100億ギルもあれば、あれも買ってこれも買って・・・」

「あたしは、胸がぼん!腰がきゅ!お尻がぷりっ!の女の子になりたい!」

「わたしは、とりあえず記憶を取り戻したいわ。」


 弥勒は現金なやつらだな、と呆れた顔をしている。そこで、こほんと咳払い。

「よし、おめえらが承諾したところで、明日にでも出発してもらうぜ。そうだな・・・まずは西へ向かってもらうか。そこにわしと同じ大賢者の『観音かんのん』がいる、そいつに会っていろいろ話を聞くといいぜ。」

3人は、べつに承諾したわけではないんだけどな。と思ったが、口には出さない。

「まあいいですわ、その『ASHURA』を探しに行きます。とりあえず西へ向かって『観音』様にお会いすればいいんですね?」

羅刹がため息混じりに話す。夜叉姫と般若も、半ばあきらめたように、しぶしぶ納得したようだ。

順風耳は、にこりと笑い3人に話す。

「よかった、それでは行ってくれるのですね。『観音』様がおられるのはここから西へ行った所に、霊峰『須弥山しゅみせん』が見えます。そこの山頂におられるので、訪ねてください。事前に話は通しておきますから安心して行って下さい。」

弥勒は、すっと立ち上がり。3人と順風耳に話す。

「じゃあ、長旅になるんで色々準備しねえとな。順風耳よ、こいつらを蔵まで案内して色々役に立ちそうな物を見繕ってやんな。」

「はい、かしこまりました。それでは3人ともこっちへきて下さい。」

順風耳が歩き出す。それにつづいて羅刹、夜叉姫、般若と歩き出した。そこで弥勒が般若を呼び止めた。

「おっと、般若。おまえさんには話がある、ちょっとこっちへ付いてきな。」

般若はおもいっきり嫌な顔をしている。

「なによー話って。ま、まさか、誰もいない所でわたしを襲うつもりじゃないでしょうね?」

警戒心を強めた口調で弥勒を、じとーっと見ている。弥勒はすこし、むっとして。

「ばかやろう。誰が襲うか!いいからこっちへ来いってんだ。」

般若はわかったわよと言い、しぶしぶついていった。



 般若が弥勒に連れてこられたのは、庭だった。弥勒は小さな石を拾い数歩あるいた所に、ぽんと置く。

「動かしてみな。」

般若は、訳がわからず置いてある小石の所へ歩き、手でひょいと拾った。

「ばーか、手で拾ってどうするよ。手を使わずに拾うんだよ。」

「はぁああああ?そんなこと出来るわけないじゃない!馬鹿も休み休みいいなさいよ!」

と言い、持っていた小石を弥勒に投げつけた。弥勒はそれを、ひょいとかわす。

「いいからやんな、おめえさんにはその力がある。できるまで飯くわさねえからな。」

般若は、ぶつぶつ言いながら仕方なく始める。目を閉じて意識を集中させる。が、小石は、ぴくりともしない。そこで弥勒が話しかける。

「おいおい、ただ意識を集中させれば良いってもんじゃねえぜ。おまえさん『動くわけ無い』って心の何処かで思ってるだろ?それをとっぱらいな。『絶対動く』って念じれば、おまえさんだったら簡単にできるさ。」

彼女はもう一度意識を集中させる。さっきまでは、動け動けと念じていたが、今度は動く動くと念じた。すると暫くして小石がカタカタと震えだした。

「う、動いた!動いたわよ!」

般若は、きゃっきゃっと騒いでいる。それを見て弥勒は微笑んでいる。

「ほう、意外と早かったな。これがおまえさんが持っている力だ。『念動力』という。だんだん力が強くなれば物の重さに関係なく自在に動かせるようになるぜ。」

般若はふと思った、この感じどこかで・・・だがそれがなにか思い出せない。なぜか初めてじゃない気がしている。彼女は弥勒にたずねた。

「ねえ、じいさん。この力って、わたしが記憶を無くす前から持っていたの?」

「ああ、そうだ。」

 般若は自分の手を見つめて、悲しそうな顔をしている。

「なんだか、怖い・・・」

弥勒は彼女の頭を、ぽんぽんとたたき、優しく語りかけた。

「心配いらねえよ、そんな悲しそうな顔するなって。どんな力も正しく使えばいいのさ、おまえさんはこの力を正しく使える。さあ修行の続きだ、まだまだこんなもんで満足してもらっちゃこまるぜ。」

般若は、うんと頷き、小石の方を向いて再び意識を集中させた。



 弥勒が住んでいるこの空間は、日が暮れない。そして常に春の日の様な心地よい気候になっている。外界ではもう日が暮れている頃に、蔵から荷物を担いだ夜叉姫と羅刹が出てきた。

「これくらいあれば、当分大丈夫ね。」

羅刹は背負った荷物を、ゆさゆさとしている。夜叉姫は羅刹の倍はあろうかという荷物を軽々と背負って、両の手に着いている小手を、にこにこと見ている。

「そうだね、武器も貰ったし。あたしはこの小手が気に入ったな、カッコイイよこれ。」

「私は銃にしたわ。体術は夜叉姫に負けないけど、実は射撃の方が自身あるのよね。」

「気に入ってくれてなによりです。夜叉姫ちゃんの小手は、昔、弥勒様が使っていたものなんですよ。羅刹さんのは私が製作した銃です、ちょっと癖がありますがあなたなら使いこなせるでしょう。」

3人が、わいわいと話しながら庭先まで来た時。夜叉姫が、ぎょっとした顔で羅刹の肩をばしばしと叩いている。

「羅刹、羅刹!ちょっとちょっと。あれみてあれみて!」

「痛い、痛いってば〜なによ?」

羅刹が夜叉姫の指差した方を見た。羅刹は大きく見開いて、口をあんぐりと空けている。

「な、なにあれ・・・あの子、いったいなにしてるの・・・?」


 庭の真ん中に般若が立っている、その傍らに弥勒が胡坐あぐらをかいて座っている。

般若は右腕を上げ、人差し指を立てている。その指先の上には、こぶし大の石が浮いている。

「じいさん、いつでもいいわよ。」

彼女が見つめる先には、大木がる。その幹には9つの穴が開いている。弥勒が指を、ぱちんと鳴らすとそれを待っていた様に、般若が大木に向かって腕を振り下ろす。指先に浮いていた石が大木めがけて放たれた。轟音をあげ、石は大木に命中した。

「やったあ!これで10連続命中!どんなもんよ、じいさん?」

「ほえーたいしたもんだな〜短時間でここまで成長するとはな〜」

弥勒は感嘆の声を上げ、般若をみつめている。

「まあ、わたしにかかればこれ位は朝メシ前よ。自分の才能が怖いわ・・・ほほほほほほ!」

「調子に乗るんじゃねえ、このばか!まだ第一段階が終わったところだ。」

弥勒が、こつんと般若の頭を叩いた。

「いったーい。なにすんのよ〜いいじゃない別に。いーだ!」

 するとそこへ、夜叉姫、羅刹、順風耳が駆け寄ってきた。夜叉姫が般若のまわりを、ぐるぐる回って興味深そうにみている。羅刹も驚いた顔で彼女を上から下へ、じろじろと見ている。般若は照れくさそうに。

「な、なによ〜2人とも。そんなに見ないでよ!恥ずかしいじゃない。」

「へー、あんた本当に超能力者だったんだねー。」

夜叉姫が頭のうえに大きな『?』をつけて、順風耳に尋ねた。

「ね、ね。先生、ちょうのうりょくしゃって何?」

「超能力者と言うのはですね、人が稀に持っている特殊能力のことです。物を手を触れずに動かしたり、未来を予言したり。等の力を持った者を称して超能力者と呼ぶんです。般若ちゃんは手を触れずに物を動かせる『念動力』者のようですね。」

夜叉姫が、ほえーと感嘆の声をあげて感動している。

「すごいねー般若は。かっこいいねーすごいねー。」

 弥勒がみんなをみて、手をぱんと叩いて言った。

「おめえら準備が整ったようだな。それじゃ今晩はゆっくりして、明日に備えな。それじゃ飯にすっか〜」

夜叉姫と般若が両手を上げて、喜んでいる。

「やったーもう、おなかぺこぺこだよ〜」

「わたしもー念動力って意外と力使うのよね。ていうかここ最近なにも食べてない気がする。」

順風耳が、にこりと微笑んで言った。

「それじゃ今日は般若ちゃんの歓迎もこめて、ご馳走にしましょう。羅刹さん、お手伝い願えますか?」

「はい、もちろんです。」

羅刹は、にっこり笑って答える。5人は小屋へ向かって歩き出した。


 うたげが始まった。食卓の上にはご馳走が並んでいる、夜叉姫と般若が我先にと手を伸ばした。弥勒は順風耳に行儀が悪いと叱られ、夜叉姫は、羅刹の分のおかずを食べてしまって激怒されたり、般若は水とお酒を間違い弥勒に絡んでいる。

わいわいと騒ぎながら、楽しい宴が終わっていく。そしてみんなが眠りについた。



 そして一夜すぎ、出発の日。

羅刹、夜叉姫、般若が荷物を持って小屋を後にする。夜叉姫は見送りにきている弥勒と順風耳に手を振っている。

「それじゃ、じっちゃん、先生いってくるね!」

羅刹は、ぺこりとお辞儀をして、旅立ちの挨拶を丁寧にしている。

「弥勒様、順風耳先生、お世話になりました。必ず『ASHURA』を持って帰ります。」

般若はそのまま行こうとしたが、2人が挨拶しているので、しょうがないと言った感じで振り返って挨拶をする。

「順風耳様、いってきますぅ〜、ついでに弥勒のじいさん、わたしが『ASHURA』を見つけ出してやるから、その時はあがたてまつりなさいよ〜」

弥勒は苦笑いをしながら見送っている。順風耳は、にこにこと微笑みながら手を振っている。

「おー行ってこい。大丈夫だと思うが気をつけんだぜ〜それと般若よ、念動力の修行さぼるんじゃねえぞ〜」

「いってらっしゃい。まずは西に向かうんですよー『観音』様に必ずあうようにねー」

3人は、はーいと言って歩き出す。暫くあるきだすと、夜叉姫が止まって大きな声で呼びかける。

「おーい、宮毘羅くーん。おねがーい。」

すると、とーんとんと音がして夜叉姫の目前に大きな穴が開き、そこからは外界が見えている。3人は穴をくぐり、外界へと出た。

そこには宮毘羅が立っていて、優しい目で3人を見ている。

「もう、お帰りですか?もう少しゆっくりしていけばよろしいのに。」

宮毘羅にそう言われると、夜叉姫が、へへっと笑って答える。

「そうしたいんだけどさ、じっちゃんに頼まれ事されちゃって。これから西に行くんだ。」

「ほー西ですか・・・道中大変でしょうがお気をつけて。」

彼は、羅刹の後ろに恥ずかしそうに隠れている般若を見つけた。

「おお、この方が般若様ですな。順風耳様から伺っております、我は宮毘羅くびらと申します。以後お見知りおきを。」

宮毘羅は般若に深々と頭を下げた。般若は羅刹の後ろに隠れて、もじもじしている。羅刹に、ちゃんと挨拶なさいと促されて羅刹の前に出た。

「よ、よろしく・・・」

宮毘羅はにこりと笑って、腰にある巾着に手をいれて、ごそごそと何かを探し出して般若に渡した。

「般若様、これをお納めくだされ。」

般若が手渡されたのは、4本のクナイの様なものだった。ごつごつとしていてお世辞にも綺麗と呼べるものではなかった。

「それは我が『メイカイオオトラ』を退治したときの骨で作ったものです。形は不恰好ですが、切れ味と丈夫さは保障しますぞ。ぜひ、護身用としてお納めくだされ。」

般若は、嬉しかった。人に何かをもらった事なんていままで無かった気がする。記憶を無くしているが、なんとなくそう思う。

そして、満面の笑みで宮毘羅に答えた。

「あ、ありがとう。すごく嬉しい!大事にするね、宮毘羅のおじさん。」

般若と宮毘羅は笑いあっている。そして宮毘羅は羅刹にたずねた。

「西へ行って何をなさるのです?」

「『ASHURA』をさがしに行くんです。弥勒様の命令で。」

宮毘羅はちょっと難しい顔をして、ぶつぶつと呟いた。

「『ASHURA』?『ASHURA』ですと?また、弥勒様も難儀なことを・・・」

 3人は、ん?と思い顔を見合わせている。でもいそがなくちゃと思い、枯れた大木の前に停めてある車に飛び乗った。

運転席には夜叉姫、助手席に羅刹。そして後部席には般若が乗り込み、車が発車した。

宮毘羅が大きな手を振って、見送っている。

「いってらっしゃいませー、ご無事でお帰りになるようお祈りしておりますぞー!」

羅刹と般若が、窓から顔を出して答える。

「はーい!いってきまーす!」


 出会うべくして出会った3人を乗せた車が、西へ向かう。まずは霊峰『須弥山』に住むという『観音』に会うために。




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