やーい、涙目オヤジ~
「ふざけるな!まったく、あの餓鬼ども!」
砂漠のオアシスにある町の繁華街の酒場で、一人の男が大きな声で怒鳴っている。他の客も店主も慣れているのか、あまり関心を示さない。すると一人の男が半ば笑いを堪えながら尋ねた。
「よう、伐折羅。またあの嬢ちゃん達にやられたのかい?」
伐折羅は残っていた酒を飲み干し、勢いよくテーブルにグラスを叩きつけた。
「ああ、そうだよ!いいかげんにしろってんだ。」
男は伐折羅の隣に座り、まぁまぁと言い彼の空いているグラスに酒を注いだ。
「おう、すまねえな。これで何回目だ? ヤツら採掘予定の所まで無茶苦茶にしていきやがる。これまでの損害金額を換算したら100万ギルはくだらねえ。」
男は目をギョっとむき、ヒューと口笛を鳴らして、酒をグビリと飲んだのち。
「でもよう、相手は小娘だろ?お前ら現場の男達にかかりゃ懲らしめられるだろうよ?」
伐折羅は男の顔にグっと近づき、酔った目で睨み付けた。男は苦笑いをして少し後ずさった。
「甘い!おまえは、ほんとーに甘い!あの餓鬼どもがなんて呼ばれてるか知ってるか?『拳骨の夜叉姫』と『男を喰らう羅刹女』だぞ。俺達が束になったって敵うもんか。そのせいで殆どの作業員は逃げていくし・・・」
「わかった、わかった。じゃあ俺はこれで帰るわ、明日早いんでな。あんまり飲みすぎるなよ。」
男はテーブルに金を置き、そそくさと店を出て行った。
伐折羅と呼ばれる男。
砂漠のはずれにある『ブルーメタル』採掘場の現場監督。
褐色の肌に男くさい体つき。今日も夜叉姫らに採掘場を荒らされヤケ酒を煽っている。
つい先日、彼女達を恐れた作業員達からストライキをくらい「なんとかしてくれ」と懇願されている。
そんな事言われなくても分かっている。これ以上被害が大きくなると本社から解雇されてしまうから。
かと言って何かいい方法がある訳でもなく、3ヶ月前に夜叉姫にむかっていって返り討ちにあっている。
きっかけは、彼が楽しみにしていた『サバクオオトカゲ』の干し肉を、夜叉姫らに無断で食べられたことだった。
やっとのおもいで『サバクオオトカゲ』を捕獲し、現場の事務所の軒下に熟成するまで吊るしていた。
毎日毎日、熟成具合を見るのが彼の楽しみになっていて、作業員がちょっと干し肉に触ろうもんなら烈火のごとく怒る。
そしてとうとう食べごろの時がきた。
いつもの様に干し肉の熟成具合を確認しようと事務所に行った所、あるはずの干し肉が無い。
え?え?半ばパニックになった彼は辺りを見渡し無くなった干し肉を捜している。
採掘場の廃棄された岩の上に、もう残りわずかになった干し肉をむしゃむしゃと食べている2人の少女達を見つけた。
それを見つけた彼は、落ちていたシャベルを持って獣の様な雄たけびを発し、一目散に岩の山を駆け上がった。
伐折羅は勢いよく持っていたシャベルを赤毛のショートの女の子に振り下ろしたが、ひょいと軽くかわされ、バランスを崩したところに少女の蹴りがはいり、ごろごろと岩山を落ちてしまった。
岩山の上では、きゃははと少女達が笑いながら彼を指差して笑っている。なんだか彼は情けなくなり涙が滲んできた。
それを見た夜叉姫は、伐折羅を指差して「やーい、涙目オヤジ〜」とゲラゲラとお腹を抱えて笑っている。羅刹の方も「だめだよ〜そんなこといっちゃ〜」と言いながらもクスクスと笑っている。
それ以来彼は、(特に夜叉姫には)殺意に似た感情を持っている。
「あーあ。誰かなんとかしてくんねぇかな・・・」とポツリと呟いた。
それを聞いた酒場の女主人が、グラスを拭きながらクスリと笑い。
「いいじゃないか、私は好きだよあの子達。可愛らしくて明るくてさ。」
「けっ!なーにが可愛いもんか、あの悪魔のような餓鬼。」
吐き捨てるように言い放ち、グラスに残った酒をちびりと飲んだ。
店の奥に座っていた男が立ち上がり、ツカツカと伐折羅の横に立ち。
「隣いいかい?」ポツリと言い放ち、伐折羅の返事も待たずにドカっと腰掛けた。
「なんだぁ?ここらじゃ見かけない顔だな。」
怪訝そうな顔して、伐折羅はジロジロと男を見ている。よく見ると男の向こうに小さな影がみえる。少女だ。
「おいおい、酒場に子供連れとはいただけないね。こんなとこに来ないでレストランにでも行きな。」
「こんな所で悪かったね。」
女主人が少しムッとして言った。そして少女の方を振り向きニコっと笑って。
「お嬢ちゃん何か飲むかい?」
少女は少し考えて、男の方を見たが男は振り向かない。
「・・・お水。」
下を向いて怯えたような震える声で女主人に答えた。
「俺がなんとかしてやろうか?」