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ちょっとだけ、RPGに出てくるような魔王だったらどうしようって思っていたけど、目の前にいる魔王はまさしく魔王とばかりの空気を纏ってる。
うん。想像していたのより、魔王っぽい。
私が純白の衣に身を包んでいるのと対照的に、漆黒の衣に身を包む。
今までにない美形オーラが。
アスターニェも半端な美形じゃないと思うんだけど、それに輪をかけてすごい美形だよね。
階段の上から私を見下ろしている魔王は、それ以上は動かずにただジッとしてる。私が動く事を待っているのか、あくまでも視線は私を捕らえてた。
ギュッと、気合を入れる意味を込めてはりせんを握る。やっぱり緊張するけど仕方ない。ここで目的を果たさなければ、何故ここに来たと自分でつっこんじゃうよね。
「アスターニェ」
私の後ろに控えているアスターニェに向かって手の平を見せる。ここに来るまでの間、はりせんを除く荷物は全部アスターニェが持っていてくれた。
女王様に持たせるわけにはいきませんから、と……胡散臭い素敵な笑顔で言い切ったから、遠慮なく資料の山を持たせる事にしたんだけど。
「一番だけちょうだい」
帳簿の数が多いから、城を出る前にそれに数字をつけたんだよね。
まさか全部並べて見ろって言ったって、見るかどうかもわからない初対面の魔王だし。私の言葉に軽く頷き、アスターニェが一と書かれた紙の束を私の手の平へと載せる。
丈夫な紐で結われ、そう簡単にはばらけない台帳。
一段落ついたらノートを作りたいよね。寧ろ異世界からお取り寄せするぐらいなら、便利用品をお取り寄せしようよとつっ込みたいけど、今それを言った所で通じるかどうか解らない。
まぁ、一番の理由としては、全部詰め込んだら私がパンクするし。
そんな理由で、魔王に尋ねるのは台帳の一番だけ。
ギュッと力を込めて台帳を掴んだ後、私はアスターニェをその場に留めつつ階段を上っていく。
しかし、遠くで見ても近付いてみても、美形だ。
地球の大多数の男性に喧嘩を売っているんじゃないかと思えるぐらい、ここは美形の宝庫。あぁ……ここまで顔の良すぎる連中が多いと張り倒したい!
天使の輪が出来まくっている艶やかな髪。
何その肌艶ってつっ込みたい。手入れなんかしてないくせに染みもニキビも無縁とばかりに輝いて嫌味か。
高い化粧品を使ってひーこら言いながら肌を維持しようと頑張っている女性に喧嘩を売ってるのか。
最終的にはコラーゲンを飲んでましたけど何か?
「…女王様。口は噤む割に何となくだだ漏れですよ?」
「うっさい。女の敵め」
私の不穏な空気を感じてか、アスターニェが後ろからしっかりとつっ込みを入れてくれる。脱・観賞用を果たしたとはいえ、アスターニェは十分すぎる程の美形。
魔王には及ばないものの、肌艶はやはり女の敵の称号に相応しい。
さて、改めて女の敵トップであろう魔王を見つめる。
くそぅ。天使の輪、いいなぁ。あの髪の艶やかさ。どんだけ高いトリートメント使ってもあんな風に綺麗に出た事なんてないわよ。
気分はどんなシャンプー使ってるの、後で教えてね。よね。まさしく。
「初めまして。魔王さん」
「……」
カツン、とヒールを響かせて、階段を一段上る。
「この度、女王として生まれた者です」
もう一度、音を響かせる。
「さて、じっくりとお話ししたいので、少しお時間よろしいかしら?」
右手にはりせん。左手に帳簿。
あら。何ていう無敵感。
「……」
私が近付いても、言葉を発しても口を噤んだまま無表情を維持する魔王。けれど、ほんの少しだけ表情が動く。
私が魔王の目の前に立ち、その綺麗過ぎる顔を瞳に映した瞬間に。
「さぁ、お話ししましょう?」
勿論、用途は何かジックリと聞くんだけどね。
少しの時間で済めばいいなぁ。




