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魔界の二柱  作者: 国見炯
第一章・誕生編・完
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「流石は女王様です。そんな焦らし方も素敵ですね」




 と、無駄にキランと光り輝くようなイケメンスマイルで言い切ったのはアスターニェだ。勿論、どうしてそんなに無駄にイケメンなのか。そんなに無駄にイケメンなのに、残念なのか。


 そんな言葉を思い浮かべたけど、勿論口には出さない。言えば、言った事を後悔するようなテンションで言葉を返されるからだ。あぁ、言っても疲れるだけだなと思えば、口元の端を多少引き攣らせながらも見なかったふりを決め込む。わかっていてこれも焦らすのですね。流石です女王様。なんて言葉も聞こえない聞こえない……。


「女王様。流石は私の女王様」


「……」


 アスターニェの言葉に、流石につっこみをいれようと、真白に手を伸ばそうとしたが、それよりも先に真白が動いた。右手にはミニサイズのハリセンが握られている。


「……」


 あくまでもデザインはハリセンなんだ。純白に光り輝くハリセンは神々しく感じてしまいそうになるけど、落ち着け──あくまでもあれはハリセンだ。キィラの攻撃を防ぐわキィラを吹っ飛ばしたハリセンの威力は、通常仕様ではないだろうとは思うけど、形はハリセンだから。安易な考えでハリセンを作ってもらったけど、まさかこんな結末があるとは思いもしなかった。なんて脳の片隅でそんな事を思い浮かべる。


 そんな私の目の前で、スパーンと良い音を響かせた。勿論、真白がハリセンを使ってアスターニェの頭に小気味良い音をたてながら振り下ろしたのだ。なんとか膜を張って防御したらしい。まぁ、キィラでさえも吹っ飛ぶからね。


 アスターニェにしてみたら命の危機なのかも。よくよく見れば、冷や汗が見える。然程表情を変えるようなタイプではないアスターニェの冷や汗。ぎりぎりの所だったのかと傍で見ていて気付いた。


 やっぱ卵石って凄いね。一番硬い物質で出来てるって言ってたし。まぁ、今の私が卵から生まれたっていう衝撃の事実から始まるんだけど。その卵石に関しては。


「何をするのですか。女王様になら喜んでしばかれますが、貴方にされたいとは言っていません」


「貴方はあほですか。我が主にしばかれたいだなんて贅沢な。身の程を知りなさい!!」


 はい?


「身の程を弁えるのは貴方の方ですよ」


 えと……。


「私は主に一番近しき存在ですよ。その私の一撃をその身に浴びる事ですら身の程知らずだというのに。そんな事もわからないのですか?」


 あのですね……。


「わかっていないのは貴方の方ですね。私は女王様の側近中の側近。卵石は女王様が生まれるまで守るもの。その後の事は私の役目ですよ。おとなしくハリセンに戻って女王様の背で黙っていなさい」


 ……。


 私の声が全く届いていないよねー。


 うん。火花がバチバチと散ってる。比喩的表現じゃなくて、本当にバチバチと青白い火花が散っているのが洒落にならないね。そして色々と見逃せない発言もあったような気がする。


 こっそりと魔力を練り上げ、一振りの鞭を作り出す。剣だと当たる気がしないけど、鞭なら振り回せば当たるような──……気がしないでもないような。自分にあたらないように気をつけないと。


 相手にあたってスルッと手の中に納められたらかっこいいよね。


 パシン、と鞭を引っ張る。その音に、どうやら漸く二人が私の存在を思い出してくれたらしい。議題は私だけど、私という存在は無視というか、完全に忘れていたし。


 美男美女は、多少表情が崩れても美男美女のままでした。


「私の存在を思い出してくれた所で……冷静になろっか」


 にこにこと、私の表情筋は笑顔を浮かべたまま固定されてる。時として、人の笑顔は怒った表情よりも恐怖を与えると思う。2人の顔色が段々と青ざめたものへと変わっていくのが、その証拠だと思う。


「このまま続ける? それとも黙る? 好きな方を選んで良いよ」


 私はどちらでも構わないよ。


 笑顔のままで言い切れば、2人はソッと、同時に顔を伏せる。


 うん。良い判断。わかってくれる2人に、私は満足気に頷いた。












 そろそろと魔王様の城に着きます、とアスターニェが教えてくれた。


 そっか。馬車の方が早いんだ。と呟けば、飛び方次第ですね、とアスターニェが言う。


「女王様が本気で飛べば、馬車などとは比べ物にはなりません。この馬車は女王様用のものですから、ランドディア一の駿馬でもありますから、女王様には敵わなくてもその他には追随を許さない走りを誇ります。とは言っても、ゲートを繋げてありますので、馬車に乗る時間は短いですが。その分前回よりも時間は短縮されていますけどね」


「そっか。うん。でも馬車って楽だね」


 魔力云々には随分慣れたから、前よりももっと楽に飛べるとは思うんだけど……。そして本当に繋げたんだ。ゲート。気付かなかったよ。


「馬車の方が楽でいいかな。そんなに時間もかかってないし」


 思わず本音を漏らせば、アスターニェはそうですか、と頷く。多分、キィラの所に行く時とか。他にもこの馬車で行くんだろうなと思いつつ、窓から外を覗き込んでみる。


 空を飛んでいるだけあって、風景は抜群だ。飛行機にすら乗った事のない身としては、初めての光景に見惚れながら目を細めた。最初にここまで来た時は、そんな余裕なんてなかったから。あぁ、でも随分この世界に馴染んだなぁ、なんて何処か他人事のような事を思ってしまう。


 知らないってすごいね。


 今の知識があったのなら、女王として生を受けた直後に、あんなふうにキィラの所に気軽に乗り込む事なんて出来ない。今は話が通じるとか仲が良くなったとか思うから、こうして行く事も出来るけど。


 なんといっても文通しているから。キィラとは。ちょっとした世話話なんかも書いたりするし。ご飯はちゃんと食べてる? 運動は? 風邪はひいてない? なんて日常的な事だけど。


「キィラと会ったのが随分前に感じられるね」


 然程時間は経っていないはずなんだけど。


 でも印象的な出会いだったなぁ。初対面で戦って防戦一方で真白をふるって……吹っ飛ばしたね。


 それも今となっては良い思い出になったのかどうか。とりあえずあれだけ吹っ飛ばされても大丈夫な魔族って凄いね。魔王だからかな。その対の私もキィラと同じ事が可能なはずだから、あそこまで吹っ飛ばされても無傷な防御力を持っているはず、なんだけど怖いなぁ。魔界に留まらずに最強と名高いキィラ。


 そのキィラに害せる存在はいないっていう事。イコール、私にもそうだと当てはまる。実際、それを自身で味わってみたいとは思わないけど。


 しかし前より仲良くなってるから、いきなり攻撃を仕掛けてくるなんてないよね。ちょっとドキドキとしながら、近づいてくるキィラの城を視界の隅に捕らえた。





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