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魔界の二柱  作者: 国見炯
第一章・誕生編・完
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 キィラの元に行く前に、精神力が根をあげる所でした……。


 何であんなに女王様好きなんだろう。勿論、私の隣に控えている真白に言えるわけがない。ファッションショー大好きな真白にかかれば、再び私で着せ替えを始める事は間違いない。


 そしてアスターニェ。流石女王様です。お似合いです。そちらも宜しいですが、こちらはいかがですか?何て始まるに決まってる。何でそんなに好きなんだ。女王だからか。魔界の女王というスペックが特別なのか。疑問はあれど、口に出すような愚かな事はしない。女王様大好きなアスターニェと真白にかかったら、いかに今の衣服が似合っているか。他にも飾り着せたいのを我慢しているのだと、色々と言われるのは既に決定事項だといえる。


 いい加減私にもそれは嫌という程理解出来る。まぁ……本音を言えば、この前世の記憶のおかげでそれはくすぐったいと言うか、違和感があるというか、勘弁してくれと口に出したい。が、我慢だ。我慢をするのが一番心の平穏なのだ。


 ガシガシと削られる精神力。


 それと同時に体力さえも失われていく褒め言葉。


 他人事だったら、それだけ可愛くて女王様だから我慢しなと言いたいが、残念ながら女王様は私自身なのだ。あぁぁぁぁぁあああ。恥ずかしい。居た堪れない。


 女王様が自分だという事がなんとも言いがたく、今すぐ顔を両手で覆って呻きたい。


 何でこんな事態に陥った。


 そうか。キィラの所に行くと言ったのが原因か。


 女王様を着飾らなくてどうするんですか、とばかりのアスターニェと真白のやる気スイッチを押したのは、外出の所為か。つまり、これから外出の度に着飾られるのは決定事項という事かと、今すぐ叫びたい。


 言わないけど。


 我慢するけど。


 だって言ったら終わりだと、妙に冷静な自分がこっそりと脳裏で呟く。


 溜息をつきたいけど、それも我慢をするのが懸命だと、冷静な自分が更に追い討ちをかける。そうだ。冷静になれ。色々と考えたら我慢しかない。


 過保護な二人は私の目の前にいる。過保護と言っていいのかも迷ったりするのだが、外出する服を選ぶだけでファッションショーを楽しむアスターニェと真白なのだ。溜息をつこうものなら、何故そっちに解釈するのかと叫びたくなる判断を下すだろう。


 それは容易に想像がつく。


 何度我慢だという言葉を呟けばいいのか。


 もう我慢しか詰め込んでないのだが、空飛ぶ馬車の中でぐったりとしながら考える。正直これにもつっこみたいのだが、そんな気力は今の私にはない。


 前はアスターニェと共に飛んでいったと思うんだけど、今回は何故か馬車に乗っている。翼が生えている馬はペガサスか。それとも別の不思議さんなのか。


 そんな突っ込み所満載なファンタジーを前に、押し黙る自分がいるのも違和感がある。


 寧ろ今の自分を筆頭に、ファンタジーが溢れかえっているのだ。全てにおいて今更なのだが、あえてその都度声を上げそうになるのは仕方ないだろう。前世の人間という記憶がある自分。


 ファンタジーいっぱいの転生を果たした今は、目に映るもの全てが新鮮で体験した事のないものばかり。それはくすぐったくもあり、心を躍らせるものも多い。


 目の前の馬車だってそうだ。


 テレビで見るような映画のように、漫画のように、全てがキラキラと輝くような何処か幻想的なもの。


 その都度感激の言葉をあげそうになるのが本音なのだが、今はファッションショーに疲れすぎてそれを口に出す気力もない。隣で我が主、お似合いです、と甘い言葉を口にする真白に、引きつった笑顔で応えるしか出来ていない。


 私の精神力を削る真白の言葉と、それに負けじと対抗するかのようなアスターニェの褒め殺し。


 いっそ一思いにやれ。


 私の本音はそれなのだが、今の二人にはそれが届かない。


 お願い勘弁して。


 キィラの元にたどり着く前から疲れ果てた私は、ぐったりと寄りかかりながら目を閉じた。




「お疲れですか? 女王様」




「大丈夫ですか? やはり日々のお仕事でお疲れなのでは」




「それはいけません、女王様。やはり日々の仕事は我々に任せて下さい」




「そうですよ、我が主」




「女王様」




「……」




 疲れているから話しかけないでね的な態度をしていたら、何故か明後日の方向に解釈され、頬が引きつるのを感じた。いやいやいや。ちょっと待とうか。そうじゃないから。


 寧ろ仕事は心の平穏だから。




「違うの。うん、お仕事は好きなの。心の平穏なの。だからそうじゃなくてね」




 何とか言葉を搾り出す。


 私からお仕事をとりあげないで。とっても大切な心の平穏はお仕事の中に存在しているから。なんだかんだといって、お仕事大好きなワーカーホリックな自分を実感しながら、そうじゃないと何とか頑張って訴える。




「女王様、無理なさないで下さい」




 アスターニェの言葉に、力なく首を横に振る。


 そうじゃない。どうしたら伝わってくれるのだろうか。心の平穏を奪わせまいと頑張る私。頑張れと自身にエールを送りつつ、私は閉じていた瞳を開けてアスターニェの顔をガラス球のような瞳に映す。


 あぁ、相変わらず綺麗な、可愛い顔がアスターニェの瞳に映る。


 まだ慣れない自分の新しい姿。


 寧ろ寝落ち希望で夢でも見ていたら良かったのに。


 そんな現実逃避の中、アスターニェの瞳に写る少女の表情が、決意したものへと変わった。




「お仕事は大好きだから。そうじゃなくて……うん、そうそう。どうしてキィラはあんなに買い物が好きなんだろうって考えてたの。今も手紙が凄いし」




 ファッションショーが疲れたの、という本音を飲み込み、これから会いに行くキィラの疑問を口にした。その途端、アスターニェがえ?という声を漏らしながら、私を凝視してきた。真白の声も聞こえた気がする。




「あぁ、流石は女王様ですね」




 そしてアスターニェの口から紡ぎ出された言葉は、何処かうっとりとしたような。甘美な響きを持った言葉。あれ? 今私変な事言ったっけ?


 思わず口から出そうになった言葉を飲み込む。


 いやいや。だって何でそんな言葉?


 流石は女王様って……え??


 疑問が次から次へと溢れそうになるのを、一生懸命飲み込む。




「ふふ。流石は我が主。魔王様といえども、我が主の手の平の上で転がすのですね」




 なんて感心したかのような真白の言葉に、疑問しか浮かばない。いやいやいや。ちょっと待とうか。私がいつキィラの事を手の平の上で転がしたというのか。


 初めて会った時からいっぱいいっぱいなんだけど。思わずそんな疑問を表情に出せば、本気ですかと言わんばかりの表情で返され、私の表情はいっきに焦りのものへと変わる。




「えっと。ごめん。本当にわからないんだけど」




 アスターニェと真白の瞳に写る可愛らしい女王の焦りの表情。


 あぁ、相変わらず可愛い。なんてちょっと現実逃避な言葉を思い浮かべ、それをすぐに却下した。落ちつけ。今可憐な姿を見せるこの女王は自分だ。そう思うと、少し冷静になれた。


 あくまで自分が浮かべている表情なのだ。


 それに見惚れるってどういう事だ。冷静になれ自分。


 何度かその言葉を繰り返し、アスターニェと真白を改めて自身の瞳に写した。そう思って二人を見たのが良かったのか。二人の瞳に写る少女の表情は冷静なもので、それにソッと安堵を浮かべながら二人をジッと見つめる。


 二人の返答を待つ、真面目な表情の自分と唖然とする二人。


 あぁ、美男美女はどんな表情を浮かべても様になるんだ。


 なんてそんな事を考えた。






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