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魔界の二柱  作者: 国見炯
第一章・誕生編・完
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 ここ最近の習慣として、というか生前?からそうだったんだけど、朝は日の光を浴びて、体内時計をリセットする事から行動を開始する。朝の起きる時間は固定。


 それが癖になってしまっていて、怠惰に朝寝坊をしようと思っても、つい決まった時間に起きてしまうのだ。ごろごろとするなんて素敵!なんて思ったりもするのだが、どうやらこの習慣は魂に染み付いてしまったらしい。始めの頃は人間でも魔族でもかわらないなぁ、なんてしみじみと呟く事数回。


 毎日変わらないので、呟く事もしなくなった。まぁ、朝の光は心地よいから良いんだけど。


 その後は洗面台で顔を洗ってすっきり。沢山ありすぎる服から機能的なものを選んで着込む。最初の頃はお目にかかった事のないような高級感たっぷりのドレスばかりだったけど、今はパンツが増えてきた。色合い的には落ち着いた。地味といえばそれまでだけど、しっかりとした生地で作られた事務服のようなもので溢れている。


 一言で言えばスーツだね。


 そしてそれは私の希望だから良いんだけど、幾つか疑問がある。


 まず一つ目は、洋服部屋が広くなってる。明らかに箪笥が増えているのだ。アスターニェに聞いたら、空間魔法です。の一言で片付けられえた。洋服も作ってくれるし便利だね。本当に。慣れないけど。


 へぇ、魔法なんだ。魔法って便利だね~、で終わった。


 そして二つ目は、どうして日替わりで着られる程スーツが増えているのか。普段着は元々私の好みであったけど、最初はスーツなんてなかった。

 これもまたアスターニェに聞いてみた。そしたら、女王様に同じ服ばかりを着させるわけにはいきません。安物なんてもっての外です。と言い切られた。クリーニングに出してもらえば十分だよ。2着もあれば、なんて私の言葉は、笑顔でサラリと流されて以来口に出す事はしていない。


 それ以上の言葉を許さない笑顔。


 アスターニェは残念なイケメンだという認識があるけど、残念だろうがなんだろうがイケメンである事は変わらない。つまりは美人さんの笑顔は時として凶器というか兵器というか、そんな感じだと心底実感させられた。まぁ、華美な装飾具はお断りさせてもらえたから、それはそれでよしとしておこう。


 スーツにゴージャスなネックレスとか王冠とか指輪とかブレスレットとか。


 お幾らですか?と聞きたくなったが、それも私の心の平穏の為にあえて言葉を飲み込んだ私の判断は、今も間違っていないと思っている。


 むしろ、このスーツお幾らですか?


 凄く着心地が良すぎるんですけど。なんてそんな事も聞いてはいけない。勿論私の心の平穏の為だ。一体女王様資産は総額幾らなのだろうか。疑問の一つでもあるけど、それも聞けていない。


 そんなのばかりだけど、気にしてたら負けだと思って、日々のお仕事に勤しんでいる。


 今日のお仕事のお供は紅茶とスコーンだ。サクサクのスコーンは堪らない。うぅ、美味しい。食べても太らない身体って最高。


 前世は脂肪の排出を促す的な飲料をお供にお菓子に挑んでいたけど、今はそんなもののお世話にならなくても大丈夫。幾ら食べても太りません。このナイスなボディ。ちょっと凹凸は少ないけど、お腹がでっぱるなんて事はない。むにっと掴めるお肉がない。


 それだけでも素敵だから贅沢なんて言わないのだ。お色気担当は真白に託しているからいいんだ。ちょびっとしょんぼりもするけど、そんな悩みは口に出す事は勿論しない。


 アスターニェの褒め殺しが襲ってくるのだ。恐ろしい事にアスターニェの言葉は無限かと思える程に私を褒め称えてくる。どれだけ女王が好きなんだと一回無謀にも呟いてしまったら、少なくとも三時間はずっと賛美の言葉が襲ってきた。くすぐったい。痒い。勘弁して!!


 と、逃げ出した私の行動は間違ってない。


 うぅ。こうして思い浮かべると、アスターニェに負けているような気がする。勝負をしているわけじゃないけど、なんかすごく負けた気分になってしまうのだ。


 10時と3時のおやつは作りたてほこほこ。


 それでお腹も心も満たされつつ、仕事に勤しむのは今となっては習慣だ。やっぱいいね、お仕事は。5時までだけど。その後は自由時間。まぁ、主に部屋で過ごすだけなんだけどね。お仕事の後は。


 アスターニェは居たり居なかったり。


 一人で食べるおやつは味気ないという話をしたら、その時間は一緒におやつを食べてくれるようになったけど。最初の時はいい年した大人がどれだけ寂しがりやだって思ったけど、やっぱり人と他愛もない会話をしながら食べるおやつは美味しいのだ。だからこれについては言っといて良かったな、なんて心底思ったりしてる。


 まぁ、アスターニェは毎日──週休二日だけど──仕事をしなくても大丈夫って言ってくれるんだけどね。でも魂に刻み込まれた習慣は今更変える事は難しく、心の平穏の為にもお仕事をさせてもらっている。外に出れるようになったら、沢山案内してもらうんだ。


 今はまだ駄目みたいだけど。どのぐらいで遊べるようになるのかなぁ。なんて今からそんな事を考え、ウキウキとしていたりするんだけどね。


 そんな平和な事を考えていたのが悪かったのかどうか……。




「魔王様からのお手紙です」




 と、アスターニェが何十通かのキィラからの手紙を持ってきた。


 あれ? 2日程前もキィラからの手紙を見た気がするんだけど、この量は何かなぁ。ていうか、キィラの直筆なあるんだけど、これを書いてるだけで一日が終わっちゃうよね。


 むしろこれしかしてないよね。




「……」




 思わず無言で手紙の山をじっくりと見ていたんだけど、アスターニェがそれを箱ごと机の上に置く。




「開封は女王様にしか出来ないようになっておりますので」




「それ一昨日も聞いた」




 その前も聞いたけど。




「キィラってこれを準備してて、お仕事って出来てるの?」




 欲しい物リストの作成だけで一日が終わる気がする。というか、あれだけ買っていてもまだ足りないのか。思わずそんな本音が口から出そうになるけど、それをなんとか押し留める。


 キィラに言ったのは私だから、この手紙を読んで返事を書くのは当たり前なんだけど……とまらない手紙に私は思わず溜息を漏らした。


 買い物依存症ってどうやったら治るの?


 手紙の山を前に、本気で項垂れた。




「アスターニェ」




 項垂れつつ、アスターニェの名を呼んだ。




「はい、女王様」




 顔は見ていないけど、おそらく笑顔でそれに応えるアスターニェ。




「キィラに会いに行くから」




「はい、承知致しました」




 声を弾ませながらそれに応えてくれるアスターニェ。




「真白」




 私の隣に立てかけてあったハリセン──真白に声をかけた。




「えぇ、我が主」




 真白も心得たとばかりに応えてくれる。




「手紙が埒があかないわ」




 本当に、埒があかない。もっとじっくりと話し合わないと。


 どうやら私は、あれで十分かと勘違いしていたのだ。寧ろ全然足りない。その事に今まで気づかなかった。




「直接会って話して解決しよう。それがいいよね」




 手紙が多すぎて、私の執務にも支障をきたす。


 今までよく手紙を読んでは書いて読んでは書いてをやっていけたものだと、私自身にも感心する。やる気満々の私を前に、アスターニェは美形らしく大体の人物が見惚れる笑みを浮かべ。




「その前に着替えましょう。真白、頼みましたよ」




 と、何故かそんな事言い、真白に任せたとばかりに笑顔を向けた。


 え? 今そんな流れだっけ?


 私の疑問に答えてくれるわけでもなく、さぁ行きましょう、とばかりに真白にお姫様抱っこをされて移動を始めてって……え? 何この状況??


 口をぱくぱくと動かすものの声には出ない私の困惑に応えてくれる存在はなしで、何故か私は真白とファッションショーをする羽目に陥った。


 何故!?


 疑問を浮かべる私を前に、真白はとっても良い笑顔だったのが印象的だった。






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