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人間の慣れって恐ろしい。もう人間じゃないけど。というつっこみは飲み込んで。
広すぎる私専用の浴場につかりながら、腕と足を伸ばす。おもいっきり伸ばしても浴槽に当たる事のない広さ。うーん、気持ちいい。
このお風呂のお湯は温泉をひいているらしく、日替わりで何処の温泉かを選べるようになっている。どういう仕組みなのかは知らないけど、魔法とか人外だとかそういうのだろう。檜風呂だし。なんて贅沢な。
懐かしの地球に手が届くのに、私の居場所はもうない。
時々、発作のようにそれを思い出しては泣きたくなるけど、それでも回数は減っていった。結局、慣れてしまったのだ。
女王としての暮らしに。
赤字工場の癖はまだまだ抜けていないけど。
それと同時に、タイミングよく届くキィラ手紙。
毎回却下の返事を送るんだけど、如何せんその量が多い。
ひたすらに多い上に、長い。
リストには地球で売っている物。ゲームとかそんなのばかり。最近は食べ物や飲み物が増えているけど、キィラにとって必要なものなのかどうか。
新作ゲームは常に発売されているから、やるなら気になるのはわかるんだけどね。
気持ちはわからなくもないが、キィラがゲームには手をつけないという裏は既にとってある。だからこれも却下。
却下却下却下……。
って、これって無駄遣いだよね。どうしてそんなに浪費が好きなのか。買い物依存症か。買い物依存症だよね。うーん。頭が痛い。
折角の温泉なのに、こんな事を考えるなんて勿体無い。
思考からキィラの手紙の事をポイッと投げ捨て、お湯をかき混ぜた。
うん。やっぱお風呂は日本人の醍醐味だよね。
この温かなお風呂。檜風呂。
贅沢だってわかっているけどやめられない。
日本にいた頃は、週に一回の贅沢で入浴剤を湯船にいれてのんびりとしていたけど、ここでは温泉の元なんて必要ない。なんたって天然の温泉が日替わりで楽しめるのだ。
気持ちいいなぁ。
うっとりと目を細めながら、檜のふちに手をかける。
今度はサウナに挑戦してみようかな。折角あるし。
なんていうか、日々色々なヴァージョンのお風呂が増えているんだけどね。
理由は多分、というか絶対に、アスターニェに私のお風呂好きがばれたから。そんな事にお金を使わなくていいって言ったんだけど、アスターニェににっこり魅惑の笑みでサラッと一刀両断された。
女王様の為に使用するお金があまりまくっていますから。使わないと逆に勿体無いというやつになりますよ。とか。これは女王様の為だけにしか使えません、とか。
なんか色々と言われて、おぼろげだけど頷いた記憶がある。
それ以来増え続けるお風呂。今度は温泉プールを作るとかなんとか言ってたけど、冗談ではなく本気なんだと思う。アスターニェは大体口にだした事は実行する。
冗談は冗談とわかるけど、大体本気だ。
侮れない。というのが、この短い間ながらもアスターニェに対する私の正直な感想でもある。なんて言うか……本当になんと言っていいのか。
ひたすら甘いのだ。
アスターニェは私に対して。残念なイケメンである事には変わりないんだけど。キィラの所はどうなんだろう。ナンバー2の人とかもアスターニェに似ているのかどうか。
なんとなく苦労してそうだけど。キィラの買い物依存症の煽りをくらうのはその人のはず。名前を覚えていなくてごめんなさい。キィラの腹心の魔族さん。
私からの同情なんていらないだろうけど。アスターニェが私に対してべた甘なのと同じく、多分キィラの周りもそうなんだろう。
妄信にも近いかもしれない。この短期間で、それだけはわかった。ただ、アスターニェ自身は私に対して程ではないけど、やっぱりキィラの事も尊敬というか、絶対的な対象にはしているという事がわかった。
つまり、魔界の住人にとって、魔王と女王は絶対的な存在なのだ。優先はそれぞれの王だとしても。
パシャリ、とお湯をすくって顔を洗う。
乳白色のお湯は、なんとなく肌に優しそうな気がする。
さて……。そろそろでようかな。このままだと身体全部がふやけそうだし。