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一回は静かになったけど、この後の話し合いでまた2人が険悪な雰囲気になるかも、と予め危険予知をして、2人をソファに座らせる事にした。
ふかふかな高級ソファに身を沈めて、穏やかな気分になればいい。そう思っての事だったのだが、何故か2人は私の様子を伺っていた。どうしてだろう。思わず疑問符を浮かべそうになったけど、進行役の私がここでこの疑問を口にして、静かな雰囲気が台無しになっても嫌だしと思い直し、私は上座に腰を下ろす。
真白の隣りに座っても、アスターニェの隣りに座っても争いが勃発しそうだと、危険予知をしてみた。工場勤めだからね。この辺りの危険予知に抜かりはないのよ。
思わずふふっと笑いそうになった表情を、改めて引き締める。ここで笑ったら変な人決定だ。耐えろ私の表情筋。改めて自分の表情筋に喝を入れた。
さてさて本題ね。
「紹介したけど、昨日作ってもらったハリセンが、何故か真白になりました。材質は何?って聞いてもいい??」
出来れば分かりやすい説明でお願いします。
そんな眼力で言いたい事がわかったのか、アスターニェは改めて真白を見た後、項垂れた。ぼそぼそと何かを言っているけど、何を言っているかはわからない。
残念な美形になっているけど、いいのかな。
まぁ、アスターニェが残念な美形になるのは今更かと、ある意味容赦のない判断を下しつつアスターニェの言葉を待つ。すると、熱視線に気付いてくれたのか、アスターニェが顔を上げてから少しだけ息を吐き出した。溜め息が出る材質なのだろうかと、不安になる私に気付いてほしいけど、残念ながらそれには気付いてくれたなかった。
真白自身はわかっているのか、特に興味もなさそうに私を見つめながらうっとりと、蕩けそうな笑みを浮かべている。そんな姿も美人さんですね。真白さん。
「真白と言いましたか。材質は、女王様の卵石です。卵石は何があっても女王様を守れるようにと、この世界で一番硬い材質となっています。意志が宿る、とも言われています。
加工する際、女王様の武器になるという事を語りかけて、漸くはりせんとして生まれ変わってくれました──が、まさか魔族の形態をとるとは思いませんでしたが」
「……へぇ、そうなんだ」
語りかけてはりせんに加工したんだ。
なんだろう。色々とん?と思う事を聞いたような気がするんだけど、如何でしょうか。けれど真白は自分の事は既に理解していたのか、特に興味もなさそうにしていた。ソファに身を沈めて寛ぐ姿が本当に様になる、ゴージャスな美人さんになってる真白に、特に言うべき言葉は見当たらない。
「女王様を守りやすい形態をとったのでしょう。名を付けられた事によって。まさかハリセンに女王様が名を授けるとは思いもしませんでしたが」
アスターニェの言葉に、私はそうなんだとばかりに、きょとんとした表情を浮かべてしまう。割と名前をつけちゃうんだけど。前世から。
型の古いパソコンだったけど、私の仕事に欠かせないパソコンに名前を付けたりしてたんだけど。あれ? うちの工場じゃ珍しくないから、当たり前だと受け取っていたんだけど、世間の常識とは違ったのだろうか……。
こほん。と、誤魔化すように咳払いを1つ。
「キィラとの手合わせでも助かったし、これからもお世話になるから名前をつけてみたんだ」
だから、特に深い意味はないんですよ。
直接は言わなくても、言葉にそんな意味合いを込めてみる。
アスターニェは前髪をかき上げ、もう一度真白に視線を向けた。それに真っ向から受け止めて、尚且つ眼差しを返す真白。段々と目力が強まっているのは、私の気のせいじゃないですよね。うん。怖い。
「アスターニェ。真白」
魔力が高まる前に、にっこりと微笑みながら2人の名前を呼ぶと、その途端静かになった。まるで恐怖政治を強いているような雰囲気なのは何故だろう。まぁ、静かになって良かったけど。
「こほん……まぁ、真白についてですが、原材料が卵石ですから、女王様に害する事はないでしょう」
「勿論。それと残りの卵石は私が預かります。これから形を変えるのに必要になるかもしれませんから」
第一形態ははりせんだから安心して下さい。我が君我が主アリアーフィナール様。と言い切る真白。うん。そろそろ照れくさくなるから、その呼び方も何とかしようか。
それと第一形態はハリセンって、これからどう進化していくつもりですか。
つっ込みが追いつかなくなった所で、私はつっ込み事を諦めた。白旗状態ですよ、真白に関しては。だって材料が卵石っていうのも驚いたし、形態の話もどうつっ込んで良いかわからない。
とりあえず真白はどんどん強くなってくれそうだし、とりあえずそれなら問題ないだろう。そう思っておく事にした。