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魔界の二柱  作者: 国見炯
第一章・誕生編・完
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20──アスターニェ視点


 目が覚めた。が、そこまでは良いとしましょう。


 この状況は何だと目を見開いて辺りを見回してしまうのは、きっと誰もが同じだろう。何故? どうやって? 幾ら疑問を浮かべて問いただしてみても、結論はただ一つだけ。


 同じ室内には私と──……認めたくはないものの、私の見間違いではなければ、女王様のお姿が見えます。毛布は掛けているものの、ソファに横になっている女王様を目の前に、どうすればいいのでしょうか。


 あのですね。


 大変無防備な姿を晒しているのは、解っていただけますか?


 わかりますよ。多分気を失った私を魔力で運んだ後にきっと、疲れを自覚したのでしょう。そして、こうやって横になって仮眠をとってみたら、思いの他がっつりと眠りに誘われてしまった。が正解でしょう。多分間違ってはいないと思います。


 ですが、その後の言葉が続きません。


 何をどう言えばいいのでしょうか。


 こうやって女王様を見ているだけでは、何の解決にも至ってはいない。


 それは解りますが、私如きが女王様の寝顔を見ていいはずがありません。


 女王様を筆頭とした魔界の領地では、私は女王様に継いで二番目の地位という立場にありますが、それでも女王様の無防備な姿を見ていいという事にはなりません。


 寧ろ見たら見たで、魔王様に消されるような気がするのは、私の考え過ぎでしょうか。昨日久しぶりに見た魔王様は、その……言いにくいですが、乙女にしか見えませんでした。


 それは、女王様の傍らに居たからこその乙女です。


 女王様の腹心である私に、そんな乙女で接してくれるはずもありません。




「……」




 ここは、名誉ある撤退が良いでしょう。


 そんな結論に至った私の考えは間違っていない。自信を持って言えます。


 だからこそ、私は女王様が掛けてくれた毛布をそっとたたみ、女王様の方に視線を向ける事もなく部屋から出て行こうと、ドアノブに手を触れようとした瞬間……。




「……ん」




 女王様から漏れた声が、静かな部屋に響きました。これはアレです。何てタイミングの悪い私を呪えばいいのか、それとも女王様に泣き言を言えばいいのか。


 どちらなのでしょうか。


 寧ろさめざめと泣きたくなった私の心境を理解してくれるのは誰──もいませんね。


 現在、女王様の領では私しか女王様には接していません。


 そして、キアースにはある意味恨まれているでしょう。


 ……誰にも言えないなら、私は何処で愚痴を吐き出して良いのでしょうか。


 私の部屋の片隅で、こそこそと独り言の愚痴を吐き出せという事なのか。表立って言える愚痴ではありませんから。


 とりあえずは女王様に、寝室で眠って下さい。仮眠もそれと同様に、寝室でお願いします。と、進言するぐらいならば良いですよね。ただの仮眠であったとしても、女王様のご尊顔を拝見するわけにはいきません。


 先ほどの声は寝言のようなものなのか、女王様が目覚める気配はありません。それに心底安堵しながら、丸まって眠っている無防備な女王様の旋毛を見ながら、私は表面上こそ冷静を保っているものの、心中では泣き言をたっぷりと呟いております。


 近付いて起こせば、女王様の無防備すぎる寝起きの表情を見る事になります。 


 ……それはどうなんでしょうか。


 そんな表情を私に見せても良いと、女王様はお考えなのでしょうか。


 いえ。そんなわけはありません。


 深く考える事などせずに、きっとソファで眠っているのでしょう。


 女性は、好きでもない相手に寝顔を見せる事を良しとはしません。つまり、近付いて起こすという選択肢は初めから存在していません。私だって命は惜しいんです。


 魔王様や女王様からしてみれば、私の存在などちっぽけな虫けら以下でしょう。


 実力面でいえばですが。


 破格過ぎる力をその身に宿す魔王様と女王様。女王様は気付いていないのでしょう。その存在に、慄いている、本来ならば拮抗の実力を持つはずである天王と天女王。それが、腹心である私やキアースと同等の力しか持たないという事に。それがどれほど凄い事なのか。


 あぁ、思考が脱線してきました。


 女王様の深い眠りは、目覚めたばかりだからでしょう。


 本来ならば、力を馴染ませる為に深い眠りに落ちなければいけないというのに、目覚めて早々魔王様と戦い、それほど眠らずに仕事をこなそうとする女王様。


 無理がたたりましたね。


 寝室で眠ってほしいですが、先ほども思ったように私が無防備な女王様を見ていいはずがありません。


 今度こそ音をたてずに執務室からそっと出て行くと、私は漸く肩から力を抜く事が出来ました。さて。今現在急ぎの仕事はありません。あるとすれば、もう少し力が馴染んだ所で、私以外に誰を女王様の近くに置くか。


 それを考えなければいけません。


 女王様の出現はきっと天界にも人界にも伝わっているはずです。


 ここで安易に喧嘩を売りにはこないとは思いますが、魔王様の行動で魔界は恨まれています。目覚めたばかりの女王様を害そうとする存在は少なくはないでしょう。そんな事は私がさせませんが。


 守りにも攻撃にも特化した者達は結界塔から呼び戻すわけにはいきませんから……。




 ふいに、先ほどの女王様のお姿を思い出し、思わず動きを止めて顔を両手で覆う。


 信頼されている。


 だからこその眠り。


 それに今更ながら行き当たり、甘美な感情に全身が震える。


 あぁ。女王様。


 300年待ち望んだ貴方様の存在を喜ぶのは、魔王様だけではありません。


 歓喜に打ち震える様を他の誰にも見られたくはない。私は歩く事を止め、城内にある私の部屋に転移する。漸く一息つけたような感覚に、私はどれほど自分が緊張していたのかを自覚しながら、部屋に置いてある器に水を注ぎ、それをいっきに飲み干した。




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