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パリン、と何かが割れる音が響いた。
不快な音じゃなくて、澄んだ音。
初めて聞くわー。何か癒される。
って少し顔面が痛い……ん? 顔面が痛い??
「って私の顔面ッッ!!」
視界の確保はオッケー。包帯が巻かれてる形跡はない。
つまり私の顔面は無事という事だね。よしよし。
ん?
んん??
何でか視線が痛い…。
え?
どうして見目麗しい人たちに囲まれてるの私?
両手で顔を押さえつけていたんだけど、指の隙間から見えるのは色とりどりな人たち。尻尾があったり羽があったり角があったりと、ありえないものが生えていたりするけど見目麗しいからまぁいっか。
鑑賞する分には何ら問題なし。
そう思っていたら、その中でも一際輝く人が一歩分足を前へと踏み出し、私を真っ直ぐに見つめてくる。
ある意味、熱視線、とかいうヤツ。
「女王様。お待ちしておりました」
優美に微笑み、片膝を付く男性。ちなみに、この人は蝙蝠のような羽が生えている。
「顔面――と申しておりましたが、女王様のお顔は我等魔族の中でも一際美しく、大変感服です」
声も美声なんだけど、その中で気になる所が一点。
あれ?
私が観賞用?
とは言っても、見るに耐えない程じゃないけど、こんな美形を目の前に観賞用になるかと言われると、おもいっきり首を横に振る。
そんな容姿。
けれど、そこまで考えて違和感が幾つか。
目線を視線に落とした先にある私の両手。いつも見ていた両手のはずなんだけど、生まれたての赤ちゃんのように白く、柔らかい肌。ほっそりとした、指先。桜貝のような桃色の爪。
わきゃわきゃとぐーぱーを繰り返してみる。
うん。私の思うとおりに動くわ。
はてさて。これはどういう事かしら。
そして三段腹とまではいかなくても、ランニングしなきゃヤバイかなー、なんて思っていた腹肉は引き締まってるし。
んー…どういう事だろう。ちょっと理解の範疇を超えてるかな。
「鏡貸してくれる?」
見た方が早いよね。
「どうぞ」
「ありがとう」
目の前の男性が、人差し指を宙へと突き出したら等身大の鏡が目の前に現れた。色々と疑問はあるものの、とりあえず横へと置いておく。
そして鏡を見てみたんだけど…。
「あらら。別人」
こういう時、悲鳴をあげて気絶出来る様な可愛い性格だったら良かったのに。
テンパってる癖に、無駄に冷静な私。勿論自覚あり。
「さて……詳しく説明してもらえる?」
ひょっとして、若かりし頃に読んでいたアレかな?とは思ってる自分がいるんだけどね。
どうせなら夢オチ希望だけど…。
あのバス事故を考えると、色々と複雑なものがあるよね。