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魔界の二柱  作者: 国見炯
第一章・誕生編・完
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 鳥の鳴き声が聞こえた。朝日がカーテンの隙間から入ってくる。アラームは音をたてていないけど、そろそろ起きようと思って体を起こしてから思い出した。

 人の頃の私は死んで、魔界の女王になったんだった。

 魔界の女王。魔界の女王って……。

 キランキランと光る金髪に碧眼の大きな瞳。何もしなくてもパッチリ二重。品の良い鼻筋に小さな口はぷるんぷるんとしている。口紅を塗らなくても桃色の小さな口。

 あぁ。全然慣れない。

 身長は160cmぐらいかな。当たり前だけど別人の顔。この姿になったのは昨日。改めて見ると高校生でも通るかも。あぁ、でも可憐な容姿。自分の顔だと思えていないから、鏡を見てもそんな感想しかもれないんだと思う。


「今日の服はどうしようかな。あぁ、その前に顔も洗いたい」


 寝室にも金のノブがついた扉があって、そこを開ければ洗面台がある。隣の扉はトイレ。歴代の女王様は割合近くに集めていたらしい。寝室から何処にでも行ける。その気持ちは良くわかる。

 人間界の私の部屋から持ってきてもらった、お気に入りの洗顔フォーム。怪しまれないように、買い溜めしてあったものだけを持ってきてもらった。後、家族に見られたくないものも回収した。


 流石に泣いた。


 新しい命を授かったのが嫌なわけじゃない。

 でも、家族とこんな形で別れ、泣かないはずがない。

 それを無理やり水で顔を洗って、全てを洗い流す。

 その後は化粧水と乳液で終了。流石若い肌。手入れに使うものが少ない。メイクが嫌いなわけじゃないけど、この顔にする必要は感じない。逆にメイクをしてどうするんだって感じ。十分過ぎる程綺麗な顔。タオルを肩にかけて服を見に行く。

 洋服箪笥だけの部屋。これって何畳あるんだろう。一通り見るだけでも結構時間がかかるんじゃないかなぁ、と横目で見ながら、私は普段着を取り出す。ドレスみたいなものから、私の好みを考慮してか地球で売っている洋服も既に出来上がっている。

 ジーパンに白いシャツ。上には淡いピンクの緩く編まれたゆったりニット。髪は左耳の下辺りで緩く縛る。日本人には見えない色彩だけど、地球人には見える容姿。とんでもない美少女だけど。

 ここに見えるものだけではなく、異空間にも箪笥を収納してあるとか。365日日替わりで着れるだけの服がある。そんなに必要ないんだけどと思うのは、私が庶民だからだろうか。

 キィラが300歳で若造。私は生まれたて。これからどのぐらい生きるか分からないけど、生きている間には一通り着れるんじゃないかとも思えた。

 でも、なんか可愛いふわふわの服が多いな。実の所洋服に興味のない私は、ジーンズにシャツ。パーカー。そんな感じの服ばかりを着ていた。これだけあると、少しぐらい興味を持って時間を費やしてもいいかなと思う。何たって何百年も生きるからね。

 しかし、パーカーを着るといっても、このもこもこうさぎ耳付きのパーカーは誰の趣味だろう。この容姿には合うだろうと作ってくれたのか……。

 まぁ、大体のものは着こなせるであろう姿だから問題ないけど。

 最後に鏡で確認してから、執務室に行く。そこには、既に許可を出したアスターニェがいた。


「……私、寝坊した?」


 時間を見れば朝8時。地球と同じ24時間だと聞いて、時計を買ってきてもらったのだ。ひょっとして、仕事の時間が地球とは違うのかもしれない。


「いえ。女王様が早すぎるんです」


「早いの?」


 朝の8時が早いんだ。ちょっと吃驚。


「それじゃあ何でアスターニェがいるの?」


 純粋な疑問を口に出せば、私が動く気配がしたから来たらしい。


「私はこれに慣れちゃってるからだけど、アスターニェは無理しなくて大丈夫だよ。早くお仕事に慣れてお給料を貰いたいっていう野望があるだけだし」


 洋服代はどうやらただ、で良いと解釈しておこう。


「……お給料をもらう? ですか??」


「うん。働いてお給料貰うのは当然でしょ。頑張るからね!」


「……はぁ。女王様が頑張るなら頑張りますが」


「お仕事教えてね」


「はい」


 明らかにテンションの高い私と、早起きしたからなのか、何処かぼーとしてるアスターニェ。話が微妙にかみ合っていない事に気付かず、腕まくりをして椅子に座ろうとしたけど、それをやめて給湯室へと向かい、コーヒーを淹れに行く。

 寝室も衣裳部屋も女王が使う部屋全部に言える事だけど、私が部屋の内装や場所をリクエストすると、その通りにリフォームされるのだ。執務室の隣りには給湯室。これは譲れない。

 ちなみに、この飲み物セットは怪しまれる事を覚悟して持ってきた。コーヒーメーカーに紅茶を淹れるガラスのセット。その他色々な茶葉。集めに集めたお宝だ。これがないと生きていけないというのは大げさかもしれないけど、飲み物依存症の私にはないとキツイ。既にリクエストを出したから、地球以上に増えるんじゃないだろうか。

 コポコポと聞き慣れた音を聞きながら、給湯室をドンドンと自分の使いやすいように位置を変えてもらう。

 温めたカップにコーヒーを注ぎ、アスターニェの前にも置く。ちょっとしたお菓子の入ったバスケットも前に置いておく。


「苦かったら、これがミルク。こっちが砂糖。好みで淹れてね。味が嫌いだったら残していいから」


 コーヒー豆は私ブレンドだ。電気も通してもらったから、豆を挽いてからコーヒーを淹れる。

 私の場合、仕事中はポーションだけ。家に戻るとカフェオレの頻度が高い気がする。


「何もいれない方がいいですねぇ。色々な種類がありますね」


 棚を見て驚いているアスターニェに、私は笑みを浮かべる。


「いっぱいあるよ。凝り出すと大変だけど、美味しいし私は楽しかったかな」


「へぇ。そうなんあですか。ちょっと興味がわきますね。いや……かなりですか。これははまりそうです」

 

 どうやらコーヒーの味は気に入ってくれたらしい。


「地球の外貨さえ稼げれば、お勧めがあるから教えるよ。日本限定だけどね」


 地球や他の異世界からもキィラは買い物をしていたから、何らかの方法でお金を稼いでいるんだと思う。商売でもしてるのかな。私の地球で見かける服の準備の早さとか。

 コンセントを差し込む先もあるしね。

 色々と不思議だけど、考えないようにしておく。深く考えたらきりがないし、私的には助かってるから口にも出さない。


 さて。日課の朝のコーヒーは飲んだし頭はスッキリしたし、お仕事でも始めましょうか。






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