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魔王。もといキィラとの話し合いは終わった。精神的には無事とは言えないけど、終わったならそれでいい。ちょっと頬の辺りがやつれているような気がしたけど、鏡を見たら美少女──…という年齢でもないような。でも美女というには幼すぎる。
まぁ、兎に角全然見慣れていない自分の新しい容姿は、やつれているなんてとんでもない。相変わらず麗しい程に可愛らしかった。
しかし、初めはどうなるものかと思ったよ。いきなり攻撃なんて仕掛けてきたし。そんなアクティブはいりません。ハリセンを作ってもらって、話し合いの場であんなに活かせるなんて思いもしなかったけど。ありがとうハリセン。助かりました。ハリセン様。ミニ布団──この世界はベッドなんだろうか。どっちでもいいけどハリセン様専用の簡易布団を作ってそこに寝かせて休ませよう。
2日目からは私の横に寝てもらうけど。防御も攻撃もいけるハリセン様。何があるか分からない異世界で、今の所一番頼りになるのはハリセン様と、一応アスターニェだ。
道案内だけしてもらって、その後はあまり役にたったとは思えないけど、アスターニェはやっぱり側近だけあって、他の魔族より頭一つ分所か二つか三つは飛びぬけている。
変態なのに。
……実力のある変態。ただの実力のない変態よりはマシ?
あれ? 思考回路がおかしい。今日はちょっと疲れ過ぎちゃったかな。変態は変態で実力の有無は関係ないはずなのに。
あぁ、そうか。疲れたのと、一応無事に話し合いがついた事で気が抜けたんだ。きっと。一応無事。一応大団円。
今更だけど無傷で済んで良かった。まだ自分の身体という実感がもてないでいるから、この容姿に傷がつくなんて国宝を傷つけるに値するんじゃないだろうか。
傍から見たらとんでもないナルシスト。
度の過ぎたナルシストは変態の仲間入りになるんだろうか。
「女王様。随分とお疲れのようですか……」
戸惑いの混じった声が聞こえた。そういえば玉座に腰掛けてましたね。女王様の定位置はここです!何て言われて座ったんだっけ。すっかり忘れてた。
「声が漏れすぎていて、思わず笑ってしまいそうでしたよ。女王様がハリセン様とお呼びになるなら、私もハリセン様と呼んだほうが良いのでしょうか?」
「……」
どうやら全部声に出していたらしい──が、それを恥ずかしがるような精神力は残っていなかった。
「そうそう。額縁ってある?」
そんな私は話題を変える為に、額縁があるかどうかを尋ねてみる。
「宝物庫……にあったような気がしますね。今とって……」
「興味があるから私も行く」
宝物庫なんて今まで見た事なんてないし、興味がないと言えば嘘になる。ぜひとも1回ぐらいは見てみたいと言えば、『こちらです』とアスターニェが前を歩いて案内してくれる。
キィラを見た後だと、あれだけキラキラとしていたアスターニェの美貌に陰りを感じた。それだけキィラが無駄に美形なんだって分かる。
しかし、魔王と女王は一心同体。すなわち、魔王の容姿を褒めるって事は、自分の容姿を褒めている事になるらしい。美形や美人の度合いも同じってどれだけ仲が良いんだろう。そんな事をたらたらと考えていたら、宝物庫にたどり着いたらしい。思ったよりも全然早かった。
アスターニェが案内してくれた宝物庫の扉が開かれた時、あまりの眩さに目を開けている事が出来なかった。
何これ? 金銀財宝の集まり??
貧乏人には全く縁のないものが揃いまくっているのは間違いない。これだけあれば、魔王領の赤字問題なんて簡単に解消出来るんじゃない? そう思ってアスターニェを見たら、首を横に振られた。
あくまで、魔王領と女王領は違う国の扱いのようだ。
「目がチカチカする」
連れて行ってと言ったのは自分なのに、既に見慣れなさ過ぎる物を前に、もう帰りたくなってくる。これは目的の物を見つけて早々に玉座に帰ろう。
「額縁は?」
私も女だから、光物に興味がないわけじゃないけど、ここまでくると目が痛くなるし、恐れ多くて触れないレベルまで達している気がする。しかし、管理の仕方はずさん……なのかな。ごちゃごちゃとした印象を受けるから。
「額縁はこちらです」
私がチカチカとする程光を放つ宝に目を奪われている間に、目的の物を見つけてくれたらしい。アスターニェは銀のフレームのシンプルな額を持っていた。
「シンプルで良いね」
これだったら合いそうだ。額縁はアスターニェが持ってくれて、私達は部屋に戻ってきた。 さっき玉座にあった広い場所ではなく、執務室。その隣りは寝室になっているけど、そこも豪華だった。屋根裏部屋を改装して使いたいぐらいには、庶民には敷居の高過ぎる部屋の数々。
盛ってきた額に、キィラがサインした原本を入れて飾る。その間、アスターニェがずっと無言だったのが気にならないわけじゃなかったけど、面倒そうなので放置しておく。
宙に浮く事が出来るから、自分で飛んで上の方にその額を取り付けて飾っておく。
「女王様……少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「いーよー」
魔王の城から殆ど言葉を発しなかったアスターニェ。一体何を考えているんだろう。放置しておくと決めたばかりだけど、アスターニェから来たのなら仕方ない。返事は軽くなってしまったけど、覚悟は決めておく。
「ひょっとしてそれ……魔王様にも言いました?」
飾った額を指先ながら言うから、勿論首を縦に振る。
「キィラにも言ったよ。でも側近のキアースっていう人がやるっぽいよね。あ、人じゃなかったね。まぁ……キィアは自分で動かない気がするよね。
笑い飛ばしながら言いきる。
「(寧ろ貴方もそれを自らやらなくていい立場です。魔王様と女王様は魔界の最高峰たる人物です。ナンバー1です。自覚は全くないですね。薄々というか初めてお会いした時からこの女王は何かが違うとはわかっていましたけどね。わかってはいたけど、規格外過ぎると言うか何というか。見てて面白いですよ。本当に仕える立場としては、見てて飽きる事はないでしょう。でもですよ。でも、魔王様に、同じ事を要求していたなんて──……あぁ、しそうですよね。あのハリセンと呼ばれる女王様の武器でつっ込みをいれてましたよね。パァァンと良い音をたてていましたけど、私がどれだけ笑うのを我慢していたかわかりますか? キアースのあの間抜けな表情も笑っちゃいましたけどね。ですが、何故ソレを
自ら飾り、魔王様にも同じ事を要求しているんですか)」
「うんうん。銀のフレームっていいね。シンプルな感じがまた映えるよね」
「(……映えてどうするんですか。そして何でそんなに満足気な……見てて面白いですけどね。飽きないですけどね。でも何か胃が痛くなってきたのは何ででしょう……)」
アスターニェが胃を抑えているけど、何か食べ過ぎたのか疲れたのか。今日はとりあえずおやすみさせた方がいいのかな。
そんな事を、アスターニェの引き攣る笑顔を見ながらそんな事を思っていた。