13
「女王は変わっているな」
魔王に言われ、私が思った事はただ一つ。
「私から見たら、貴方も十分すぎる程変わってます」
魔王の言葉に遠慮なく返した。暫く、お金をこんなふうに贅沢に、湯水のように使う人間を見た事なんてない。人間じゃないけど。
でもこの数字の羅列は心臓に悪すぎる。けれど解ってもらう為にとりあえず帳簿を並べてみよう。
「何をやっているんだ?」
並べている私に、何を並べているか解っていない魔王が覗き込んでくる。
「貴方の無駄遣いの帳簿です」
「…何故女王が持っている?」
無駄遣いの自覚があるのかないのか。どちらか解らないけど、私が持っている事に疑問は抱いたらしい。
「生まれる女王の為に、記録だけはとってたみたいだよ」
アスターニェが嫌がらせのように、魔王サイドに協力を要請して溜めた記録。今こうして役にたっているから、アスターニェの判断は間違っていなかったんだけどね。
これを魔王に会う前に顔面蒼白になりながら見ていたら、尚更面白がって帳簿を持ってきたアスターニェの性格は心底悪いと思う。まだ短すぎる付き合いだけど、性格は悪い。それだけはきっぱりはっきりと言える。
「女王が生まれなかったから、暇つぶしでもしてたんじゃない?」
私はそう思っているけど、後ろで女王様酷いです──何てアスターニェが言ってるけど、そんなモノは全て無視。無視無視。
「本当に暇だったのだな」
「そうだね。暇だったんだろうね」
私と魔王の言葉に、アスターニェは完全に撃沈した。ちらりと周りと見てみたら、魔王の腹心だと思うキアースって魔族の人も何度も頷いている。
…何だろう。魔王の配下の人の方が気が合いそうな気がする。頬杖をついてアスターニェをジィッと見てみる。もっと見て下さいとばかりに復活したので、あっさりとそこから視線をはずした。あー。変態も怖い。
相変わらずアスターニェの事はほっておいて、魔王の視線を戻す。私の行動で解ったのか、あぁ…コイツか。という視線をアスターニェに向けている。ちょっと笑いそうになったけど、表には出さずに何とか内側だけで耐えた。アスターニェを見るのは止めてこう。私が吹き出す羽目になりそうだ。
私のそんな思考に気付いたのか、私に向かってものすっごく視線を向けてきたけれど、それに応えるはずがない。
無視だと決めたのだ。でなければ二次被害は自分にとっては黒歴史になるだろう。
「アレはほっておいて……取り合えず買う前に相談しません?」
始めの勢いは何処に行ったのか。私の側近で力が抜けたような気もするけど、それも部屋の隅っこに置いて、和解する方に持っていこう。
「どうして女王に…」
「運動というか身体を動かしたいんですよね。その運動、私も少しなら。本当に少しなら付き合います! でも、私を通さずに買ったのなら、この先ただの一度も魔王の運動には付き合いませんから!!」
思わず口走ったのは、そんな言葉だった。ちょっと緊張したのかテンパッタのか。どちらかよくわからないけど、よりによって口から出た言葉ってそれ?
流石にこれはないでしょ。
自分のお馬鹿加減を再確認する事になった言葉に、魔王は腕を組みながらソファにもたれかかり、悩んでいた……え? これって本気で悩む内容だった?
脅しにも何にもならないと思っていたんだけど、これで本気で考える魔王の精神年齢って何歳??
「……」
「………」
何を迷っているのでしょうか。目の前の魔王は。
「わかった。買う前にお前に相談する。これでいいか?」
「う、うんうん。そうして!」
多少言葉を詰まらせたけど仕方ない。
まさかあの脅しで承諾してくれるとは思わなかった。
「連絡手段も何とかなるよね…?」
勿論、携帯なんてない世界だろうし。
「あぁ。ゲートを繋げれば簡単に行き来出来るし、連絡も簡単に出来る」
「そうなんだ。それじゃあ繋げよう。で、今更なんだけど、自己紹介しよっか」
本当に今更なんだけどね。
「私はアリアーフィナール・レイメアル何とかってすごい長い名前なんだけど、アリアかフィナでいいよ」
自分で名乗っていても、舌を噛みそうな長い名前。こんな長い名前を何処で活用すればいいかわからない。
「…名前で呼ぶのか?」
戸惑い気味の魔王。
「え? 名前で呼ばないの? 女王とか魔王って役職でしょ」
「…そうか。俺の名前も長い。キィラでいい。女王の事はアリアと呼ぶ事にする」
どうしてか、魔王──キィラが笑った。目の保養になる美形の笑顔。しかも満面の笑みだ。
少し……じゃなく、かなり見惚れてしまったのは秘密にしておこう。