11
私の質問に、魔王はあっさりと言ってのけた。
あっさりし過ぎて聞き間違いをしちゃったかなぁ、何て思える程さらりと言ってのけたんだよね。
「別に、天界や人界を半分程滅ぼす頃には解消されてるだろう。そんなもの」
魔王の答えに、胃の辺りがキリキリとするが、それはきっと気のせいではないだろう。何て物騒な事を平然に、さも当然とばかりに言い切るのか。
あのですね。元々日本という場所に住んでいた私は、割合平和主義者なのよ。降りかかる火の粉を払うんじゃなくて、火の粉自体発生させないように生きてきたっていうかね。
というか自分で作った赤字を解消する為に攻め込むな。
流石のお姉さんも怒っちゃうよ?
「そんなもの。そんなもの、ねぇ。この赤字が」
「……何か問題でもあったか?」
私の機嫌が急降下した事に気付いたのか、魔王が聞き返してきた。
「問題でもあったか?ねぇ……」
あぁ、額がぴくぴくとする。
年とって随分丸くなってきたと思ってたのに、やっぱ赤字は駄目。給料ボーナスに直結しすぎる赤字だけは駄目。
ある種のトラウマだといっても差し支えがない程、赤字には抵抗力が働きすぎる。
そういえば、そろそろボーナスの時期だからかなり頑張ったよね。皆で。食事代程度でいい。ささやかなものでいい。いいから、気持ちボーナスを貰うぞってはりきってたよね。
……貰い損ねたけど。
「必要じゃないものを買わない! それは基本です。
欲しいものを吟味して吟味して吟味しまくって、一週間程それが本当に必要か審査して、部下に聞いて購入するか決めなさい!!」
「吟味が多いですねぇ」
後ろでアスターニェが何か言ってるけど、無視を決め込む。
「……ひょっとして、女王はそれを言いにきたのか?」
戸惑いながら魔王から発せられた言葉。
…今更気付いたのか、少し呆れたが混ざった眼差しを私に向けてくる。
「それ以外に何を言いに来るのよ。この赤字! 本人さえも覚えていない衝動買い! なんて羨ましい……のはあるけど、自分の所の経済ぐらい安定させなさいよ。
特産品や売れるものはあるんだから!!」
新しい服を買ったのはいつだっけか。
そんな事も覚えていられないほど、慎ましい生活を心がけてた。
ちょっとやっかみが混ざったような気がしないでもないけど、元人間の私としては、赤字で戦争を仕掛けるなんてとんでもない。
「…歴代の女王では初めてだろうな。女王、お前は何者だ?」
何を思ったのか、思いついたのか。
魔王は至極真面目な表情でこちらを見てくる。
そうやって好戦的じゃない真面目な表情はやっぱり美形。
美形過ぎて嫌味だけど、鑑賞用としては悪くない。
けれど、魔王の質問を前に、私の表情に疑問が浮かんだ。
何者って……元人間でただの事務員なんだけど、それが通じるのかな。