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当初の目的。
はりせんを持っていってるけど、あくまで話し合い。
そう。あくまでも話し合いのはずだったのよ。それなのに、何故こうなった!?
階段を登り、魔王と対峙した。それまではいいよ。それまでは。
けれど、何故か魔王は唇の端を吊り上げ、ニィ、とちょっと怖い笑みを浮かべると、突然右腕を振り払う。
勿論、魔力の塊付きで。
咄嗟の事でも女王という身体が反応させるのか、私は魔力を纏いつつガードしながら後ろへと下がった。
いやビックリ。
ホントビックリ。
え? 何この子。好戦的過ぎない?
「ほぅ。これを避けるか」
…避けきれてないよね。魔力でガードしたからぶち当たったよね。感触あったでしょ!
そんな私の心の叫びなんて軽ーくスルーするとばかりに、魔王は更に好戦的な……凶悪な笑みを浮かべて右腕を振り上げる。
……何その凶悪なのに子供っぽい無邪気さを兼ね備えた笑みはっ!
一瞬別の意味でときめいちゃったじゃない、なんて音に出さずに呟くんだけど、そんな事を考えている間も魔王の攻撃は続いてく。
始めは力試しだと言わんばかりに割合魔力だけを使った雑な攻撃だったのに、こっちがヒーヒー言いながら何とか避けてたら、段々と複雑なものへとかわっていってね。
ちょっと冗談じゃないって。
こっちは素人。
戦い慣れてもないのに、魔力の高さだけで数百歳の魔王と同列に扱われても困るから!
「中々やるな。ここまで持ち堪えられるとは思わなかった」
「……」
何か魔王がぶつぶつと言ってるんだけど、そんな言葉を聞く余裕なんてこっちにはまったくない!
というより、はりせんというある意味武器は持ってたけど、一応話し合いましょ的な空気を全面に押し出してたでしょ。
……あぁ。なんかイラッとしてきた。
話し合いに来たって言ってるのに。
問答無用な攻撃の数々。
こっちはある意味生まれたてなんだから、その辺りは考慮してくれてもいいんじゃない…?
「ったまきたこのクソガキ」
「…?」
思わず切れて漏れた言葉を聞き取れなかったのか、魔王が首を傾げた。
女王としては生まれたてだけど、多分きっと、精神年齢は寿命が短い人間だった私の方が成熟されてるはず。
つまり、魔王はまだ青年?
きっと青年。多分青年。思春期真っ最中。だと思い込みながら、私ははりせんを握り締めた。
悪戯?が過ぎる子供には、偶には実力行使も必要だと思うのよね。
桁違いの魔力で人を攻撃してくるような魔王って子供には特にね。
「いい加減にしなさいよ馬鹿魔王ッッ!!!」
あぁ。ある意味初志貫徹。
そうね。はりせんはこの為にあったのよね。
フルスイングしたはりせんが魔王の横っ面を捉え、そのまま城外へと吹っ飛んでいく。
「……え?」
けれど漫画なんかではよくある光景。つまり空中にキラリ、と光を瞬かせて魔王の姿が消えた。吹っ飛んだだけだけど、そんな馬鹿力を保有したつもりはまったくない。
「流石は女王様。容赦の無い攻撃です」
「……は?」
いつのまにか戦いをやめたアスターニェにそんな事を言われたんだけど…。
「魔力による完膚なきまでの一撃。見惚れてしまいました。次からは参考にさせていただきます」
「……え?」
「はりせん、というものでしたね。ぜひとも量産体制に!」
珍しくアスターニェが握り拳付きという気合の入った表情を浮かべたんだけどね。
でも……人が思いっきり戸惑ってんのに畳み掛けるように…!!
「……それでは女王様。あの程度では魔王様は死なないので、頑張って下さいね」
私から流れる不穏な空気に気付いたのか、アスターニェは相変わらず綺麗な笑みを浮かべ、優雅に一礼して瞬時に姿を消した。
逃げ足は速いよね。
「さて……星になっても死なないって流石魔王。人殺しにならなくて良かったという事にしておこう」
魔王を空の彼方に吹っ飛ばす事になった私の心の拠り所であるはりせんを握りなおし、私はアスターニェの言う通り死ぬ所か無傷のまま帰還した魔王を見つめる。
さっきは若い子にペースを掴まれたけど、はりせんの一撃で仕切りなおし。ここからは私が実権を握らないとね!