姿かえる少女
空は、その夜、昔の事を思い出しながら
日記を書いていた。
隣では、心が無邪気な寝顔を見せている。
―――
昔、3年ぐらい前だっただろうか。
真理亜からこんな話を聞いた事がある。
それは、昔、俺には2才年下の弟が居たという。
しかし、その弟は俺が6才ぐらいのときに
病気で死んでしまったという。
やはり、それは父親の遺伝からだったそうだ。
6才だと、記憶も所々かすれてしまっている。
弟がどんな性格だったかという事も、
ましてや、弟が居たということも、
微かに憶えているかいないかというぐらいだ。
しかし、そんな弟の夢を未だによく見る。
時には共に一緒に遊んでいたり、
また時には、手を繋いで歩いている夢を見る。
そして今、俺の元に【心】という存在が俺を支えている。
そして、たまにそんな、
弟と心を照らし合わせてしまう時がある。
しかし、照らし合わせてはいけないと
俺の心が勝手に制御している気がする。
それは、仕方ない、イノセントなことだと
心ではわかっているのに、
そう思うほど、胸一帯に霧が立ち込める。
ときには、なぜ僕が心と一緒にいるのだろうと
思うときもある。しかし、それが運命なのだ。
ただ、俺の役目は真理亜が気が済むまでに
心を見守ることなんだ。
俺のように不幸にさせてはいけない。
心は守らなければいけない存在だということ…
何を不満におもっても、心が感情を持とうとも、
ただただ、俺はその役目を果たすのみ。
それ以外のこと、余計なことはしてはいけないのだと。
―――
そこまで書くと、なぜか頬が熱くなっていた。
そして、小さく、色のない日記に
またもや色のない雫が滴り落ちる。
その雫が、日記を悲しい色に染めていった。
空「なんで…なんで俺なんだよ…」
震えて、声にもならない声で泣き叫ぶ。
空「なんで…心を守るんだよ…
なんで…俺なんだよ…
俺には重過ぎるよ…
俺が幸せになんかできるかよ…」
なぜか、心が憂鬱だと、
俺も憂鬱になってしまうようで、
なんだか眠たくなってきた。
そして、布団にこもると
徐々に記憶が薄れていった。
―――心…ごめん。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ん…んぅ…」
寝起きでボーっとしてる中、
空は霧がかかっている空を見上げ、
カーテンを開ける。
こんなに自然あふれ、開放感のある
家に2人で住んでいるというのに、
なぜか、心は曇りだった。
空「あ…れ?」
周りを見渡すと、
いつもなら隣で枕に抱きついているのだが。
空「心!?」
なんとか自分を落ち着かせようとするも、
なぜか落ち着かない。
何も問題ないことだと思いたくても、思えない。
下の階に降りて、リビングを見渡しても、
どこにもいなかった。
そう思うと、ソファの裏に
窓に向かって手を伸ばしたのだろうかと
思う体制のまま心が倒れていた。
空「心…?!」
抱き上げると、その体は
いつの間にか軽かった。
やせこけているようにも見えた。
体も冷え切っていた。
すぐさま空は、心を負ぶって
近くの研究所にまで走った。