01 始まりは・・・。
えーっと?
一体全体何がどうなっているのでしょうか?
私、リース・オーディオスは混乱していた。
「盗み聞きはよくないぜ?侍女さんよぉ?」
こ、この人は本当に『あの』グラディアス・ローディなのでしょうか?
そう。それはつい数分前の出来事でした・・・。
その日、リースは、いつもの通り仕事に励んでいた。
リースの仕事は、このアイヴィー国王宮の侍女だ。
・・・とっても落ちこぼれだが。
いや。リース自身はとても頑張っているのである。
だが、彼女は少々・・・とても、ドジだったのだ。
例えば、花瓶を毎日、割ってみたり。
例えば、ベッドのシーツを変えようとしたらグシャグシャになったり。
例えば、食事を運んでいる途中につまずいて、食事をお客様の頭の植えに零してみたり。
・・・よく今まで侍女を続けられているな、という感じである。
そのおかげで最初は後宮で働いていたのだが周囲から嫌がられ、今では王宮の隅っこで洗濯物女として働いているのであった。
そんなリースは今日も朝から洗濯物を干していた。
リースが全ての洗濯物を干し終わったとき、どこからか声が聞こえた。
「・・・?」
・・・誰の声だろう?
リースは不思議に思い、声のする方へ近づき、耳を澄ませた。
「グラディのバカ!ドジマヌケノロマ、バカバカバカ!」
「ろ、ローラ。今バカって2回言ったよっ?」
「バカだからバカって言ってるのよ!バカ!」
「また言った~!」
・・・あれ?あの人達って・・・。
そこにいたのは、女官のローラ・ハナナスと彼女の幼なじみだという王宮魔術師のグラディアス・ローディだった。
魔術師とは、まぁその名の通り、魔法を使う人たちのことで、1級魔術師から5級魔術師までランクがある。
そんな魔術師達は、様々な分野で活躍し、その中でも彼らは王宮で使えることが最大のステータスなのだという。
・・・どんなお仕事でも王宮で働くのって嬉しいことなんですね。
今、この王宮には三十名の魔術師達が仕えている。
グラディアスもそんな王宮魔術師の一人なのだが・・・。
彼は、なぜこの王宮で仕えているのだろうというほどに、魔法が使えず、落ちこぼれの中の落ちこぼれと言われている。
性格も、至って温厚で、気弱で、結構なドジらしい
・・・なんだか親近感わくなぁ・・・。
リースがほのぼのとそんなことを思っていると。
「もう!なんであんな風に言われて黙っているの!」
「だって、僕が魔法をあんまり使えないことは本当だし・・・。」
「だからって好き勝手言われて悔しくないの!」
「んー・・・。」
「グラディ!」
どうやら、グラディアスが周りに自分の能力のことをからかわれ、ローラはその事で怒っていたらしい。
「大体ねぇ・・・」
「ローラ。」
「何よ!」
「ローラは僕のこと心配してくれているんだね。」
「・・・っ!な、な・・・」
「ありがとう。」
にっこりと笑うグラディアスにローラは一気に顔を赤く染め。
「・・・っ!わ、私はあんたに構っている暇はないの!もう行くわ!」
「うん。お仕事頑張ってね。」
「・・・・・・っ」
ローラは、何も言わずに去っていった。
・・・私も、戻らなきゃ。
リースも踵を返そうとすると。
「・・・バカじゃねぇの。」
・・・なんだかおかしな言葉が聞こえた。
え?今のグラディアスさんの声だよね?
「なーぁにが、『好き勝手言われて悔しくないの!』だ。お前なんかに心配なんかされたくないってーの!」
・・・どうしよう。絶対に今の言葉、聞いてはいけなかったよね。
・・・うん。逃げよう。そうしよう。
そろー・・・・っとリースがその場を去ろうとした、その時だった。
―ズベシャァァッー
「あきゃぁっ!」
・・・何もないところでこけた。
それはもういっそ見事なほどに。
・・・お約束な感じで。
「・・・!」
・・・やばいやばいやばいやばいやびゃい!・・・
焦りすぎて心の中でかんでいる。
そして。
「盗み聞きはよくないぜ?侍女さんよぉ?」
冒頭に戻るのである。