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あなたが知ってるようで知らないおとぎ話

桃姫

作者: シャム吉
掲載日:2026/07/04

ーーこの話は、あなたが知ってるようで知らないおとぎ話ーー


挿絵(By みてみん)


 ランプの精霊・ジンは、木こりの娘・アンの料理修行の旅に付き合わされています。そんな二人の旅に、剣の腕が立つ家出姫・ローズと、眠ったままの王子・アクアの心が入ったシロネコを加え、河辺で休息していました。


「アンの作る料理は旨いな。こんなあり合わせで美味しいもの、城のコックでもなかなか作れないだろう。凄すぎるよ」


 ローズがそう言うと、アンは真っ赤になりました。


「お前、まだ褒められ慣れてないのか?」


 ジンが呆れた調子で言います。


「“美味しい”って言葉は、何回言われても嬉しいものなの!」


 アンは、少し頬を膨らませます。


「それに、ジンは一度も“美味しい”って言ってくれたことないしね」


「そうなのか? だったら、この精霊は味覚障害だな」


「何だと!? 俺はグルメなんだよ! アンのためにも、簡単に“美味しい”なんて言えるか!」


 ローズとジンは睨み合います。この二人、何だか似ているところがあるな、とアンはぼんやり思いました。

 そんな中、「モラハラ」とポツリとアクアが言ってましたが、皆聞こえてないようです。


「アクア様のお口にも合いましたか?」


「私も、ローズ姫と同じように、アクアと呼んで下さい」


「わかりました!」


「それと、私も素直に、とても美味しいですよ」


「……ありがとうございます!」


「おいおい、王子様もかい? もっと、食を極めた方がいいぞ」


「それも良いですね。ですが、私はここ何年も、鼠や鳥を生でしか食べていなかったので、とても手料理が嬉しいのです」


 アクアは爽やかに言いましたが、三人はギョッとしました。


「あっ、ジン! 何か川から流れてくる!」


 アンが指差す川上の方から、大きな桃がどんぶらこっこどんぶらこっこと流れて来るのでした。


「でっかくて、みずみずしい桃だな!」


 ローズが桃を引き上げ、アンの前に置きます。早速アンは包丁を出しました。そして、振り上げます。


「ちょと待て、アン! 何か、嫌な予感がするから慎重に……、ゆっくり上の部分だけ割ってくれ!」


 ジンの発言にアンは不思議そうにしましたが、言われた通りに割りました。

 すると、中には小さな美しい女の人がいました。

 4人はポカンとしました。


「わらわは、この地域に住む鬼を懲らしめに月から遣わされた姫である」


 小さな女の人は、桃から出ると、たちまち人の大きさになりました。


「さて、わらわは腹が減っておる。きびだんごを所望する。持ってまいれ」


「はあ? きびだんごですか?」


 アンが首を傾げると、女の人は呆れたようにため息をつきます。


「なんだ、知らぬのか?」


「調べてきます!」


 アンはハッとし、ジン達が止める暇もなく、慌てて駆け出しました。

 近くの民家に行くと、優しいおじいさんとおばあさんが作り方を教えてくれ、台所を貸してくれました。

 アンは早速作っただんごを渡します。


「だんごとか、今まで見たことも聞いたこともなかった……」


 姫はだんごを口に運びます。


「うむ。これはだんごとしては不味いな。こんなもの、わらわに食べさせるとは……」


 アンの顔が青ざめます。


「おい! 桃姫! アンは、初めて作ったんだぞ! 得体の知らないお前のために!!」


 ジンは怒鳴ります。


「……今、何と言った?」


「は?」


「桃姫と? よくも、そんなセンスのない名前を!」


「桃から出てきて、姫と名乗るんだ! 桃姫で充分だろ!? だいたい、何様のつもりだよ! アン、行くぞ!」


 怒っているジンを見て、ローズは微笑みました。逆にアンは、ジンが怒っているのに、不思議そうです。


「待て、猿」


「猿!?」


 ジンは桃姫を振り返ります。


「それと、雉」


「私のことか!?」


「お前は犬だな」


「いえ、猫ですが?」


「これから鬼退治に行く、わらわのお供の任につかせよう」


 桃姫の言葉にまたしても、4人はポカンとするのでした。


 桃姫は、歩き出しました。ジンとローズは放っておく気でしたが、アンがその後をついていこうとするので焦りました。


「アン、そんなやつ放っておけよ!」


「うーん。それも考えたんだけど、どうしても、ちゃんとしたきびだんごをマスターしたいから、桃姫には無事でいてほしいんだ。鬼退治って、危険なんでしょう?」


「別に、こいつじゃなくてもいいだろう? 俺が食べてやるよ」


「いや、だって、この人が食べたいって言ったんだよ?」


 ジンはため息をつきます。


「……。わかったよ。じゃあ、俺達がついてくから、お前は戻ってくるまでに完成させろ!」


 ジンの提案に、ローズとアクアは驚いていたが、何も文句は言いませんでした。


「よくぞ言った、猿! 娘、期待してるぞ」


 桃姫はそう言って、ジンとローズとアクアを連れて、鬼ヶ島に向かいました。



 一行は鬼ヶ島に着きました。


「なぜ桃姫は、月からこの鬼ヶ島の鬼退治に来たんですか?」


 アクアの問いに、桃姫は不敵に笑います。


「月で少々罪を犯して、罰として鬼退治になったのだ」


「退治する鬼は、ここの鬼と決められてたんですか?」


「いや。だが、鬼ヶ島には確実に鬼はいるだろう?」


「ここの鬼は悪さはするんですか?」


「鬼だからしてるんじゃないか?」


 いい加減な征伐に、三人は言葉を失いました。


「おや? いらっしゃい! この鬼ヶ島に、お客人なんて珍しい!」


 赤鬼が、鍬を持ってやってきました。


「ここはオイラ達が、畑を耕してるだけで何にもねぇ田舎だが、ゆっくりしていってくれ。向こうには、茶屋もあるからな」


 赤鬼はニコニコしながら、示した方には畑を耕す鬼達と、それにじゃれつく犬や小鳥達がいて、とても平和そうでした。


「出たな、鬼! 征伐……」


「ストップ! これ、ただのイジメだから!!」


 刀を抜こうとする桃姫を、三人で抑え、鬼ヶ島から急いで出ました。



 鬼ヶ島から出ると、もうすっかり辺りは暗くなり、月が出ていました。すると、月から宙に浮く牛車がやってくるのが見えました。


「姫、お戻り下さい」


 牛が言いました。


「長老達が反省しております。姫を地上に降ろしたら、地上の者に多大なる迷惑をかけると……」


「まったくだよ……」


 ジンはため息をつきました。


「申し訳ありません。さあ、姫! 一刻も早く……」


「嫌じゃ」


 桃姫は言い切ります。ジン達はウンザリした表情をしました。


「桃姫、早く帰られた方が……」


「だって、あの娘がわらわのために、きびだんごを作ってくれているのだろう? それを食べてから帰る」


 牛は不思議そうにしていましたが、ローズは苦笑し、ジンは真面目な表情でうなずきました。


 桃姫達が戻ると、アンはきびだんごを完成させていました。


「さっき作り方教えてくれた、おじいさんおばあさんにも協力してもらっちゃった! さあ、桃姫、今度はお口に合うでしょうか?」


 桃姫は一つ食べると、満足そうにうなずきました。


「旨い! よくやった! 礼を言うぞ」


 桃姫はそう言って、アンから残りも奪い取って、さっさと牛車に乗り込み、月へ帰っていきました。

 アンは首を傾げます。


「あの人、なんだったのかな?」


「さあ? お月さんでの罪人らしいが……。それにしても、食い意地のはった奴だな。まあ、とにかく良かったな。旨いって言ってもらえて」


 アンはうなずきます。


「次は、ジンに言ってもらわなきゃね」


 ローズがそう言い、ジンは慌てます。


「アンを天狗にさせないために……」


「少しは、桃姫の素直さも見習った方が良いかもしれませんね」


「王子さんまで?」


「うん。ジンに美味しいって、言ってもらうのが私の目標なんだ!」


 アンは晴れ晴れした表情で、歩き出しました。


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