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英雄物語  作者: ポコマル
1/1

異端


第一話: 劣等なエルフ



エルフは、

生まれた時から “魔力” を持つ。


森と語り、風を従え、

世界に選ばれた種族の証。


だが、その日。


「……魔力反応が無い」


静寂が落ちた。


精霊の泉の前。


族長の声は、冷たく、

迷いがなかった。


「ありえぬ。

エルフに “魔力無し” など存在しない」


幼い少年は、自分の手を見つめる。


何も感じない。

何も流れていない。


その瞬間。


「排除する」


族長の一言で、空気が凍りついた。

「この者は異端だ。


 種の純血を穢す存在。


 生かす理由などない」


ざわめきは、すぐに “同意” 


 へと変わる。 


誰も、止めなかった。 


ただ一人を除いて。


「お待ちください」


一歩、前に出たのは母だった。


静かで、しかし揺るがない声。

「この子は、私の子です」


族長の視線が突き刺さる。


「ならばどうする。

 責を負う覚悟はあるのか」


母は、迷わなかった。

「はい」


そして、少年の肩に手を置く。

その温もりだけが、

世界で唯一の優しさだった。


「この子に何かあれば

 すべての責任は、私が背負います」


それは懇願ではなかった。


宣言だった。


「この命をもって償う覚悟で、

 この子を生かします」


沈黙。

長い、長い沈黙のあと

「……好きにしろ」

族長は背を向けた。


「だが忘れるな。その選択が、 

 一族に災いをもたらすならば

 貴様ごと切り捨てる」 


その日から、少年は

 “名前” では呼ばれなくなった。


「おい、劣等種」


「魔法も使えないくせに

 エルフを名乗るな」


「恥さらし」


石が飛ぶ。

罵声が飛ぶ。

かつて一緒に笑っていた

仲間たちが、同じ口で吐き捨てる。


それでも

「大丈夫よ」

母は、いつも変わらなかった。

傷ついた頬に手を当て、優しく笑う。

「あなたは、あなたのままでいいの」


小さな家。森の外れ。

そこだけが、少年の“世界”だった。


夜になると、母は物語を語った。


「昔々、この森とは違う世界で――」


暖かな灯りの中。

少年は、母の膝に頭を乗せて耳を傾ける。

語られるのは、英雄の物語。


弱くても、諦めず。

傷ついても、立ち上がり。

大切なものを守るために戦う者。


「どうして戦うの?」

幼い少年は尋ねた。

母は少しだけ考えて、こう答えた。

「守りたいものがあったからよ」


その言葉は、静かに胸に落ちた。

「ぼくも、なれるかな」

「ええ」

迷いなく、母は言う。

「なれるわ。あなたはきっと――」


その言葉の続きを、

少年は何度も夢に見た。


数年後。


その“日”は、あまりにも突然だった。


――夜。


森が、悲鳴を上げた。

「魔族だ!!」

叫び声。炎。崩れる家々。

黒い影が、森を侵していた。


魔族。

人ならざるもの。

破壊と殺戮を本能とする存在。


少年は、ただ立ち尽くしていた。

(どうして)


足が動かない。

(どうして)


手が震える。


「逃げなさい!!」

母の声で、現実に引き戻される。

振り向いた瞬間


魔族の魔法が、母を貫いた。


「……え」


時間が、止まった。


血が、溢れる。


倒れる。


伸ばした手は、届かない。


「……母さん」

声が、震える。

何もできない。

魔法が使えない。

守れない。

「……ぼくが」

喉が締まる。


「ぼくが、劣等種だから……」


その言葉を、口にした瞬間――

母が、微かに笑った。


血に濡れた手で、頬に触れる。

「違うわ……」

かすれた声。

それでも、はっきりと届く。

「あなたは……劣等なんかじゃない」


涙が、溢れる。

「いつか……」

呼吸が浅くなる。

それでも、母は言葉を紡ぐ。

「皆の……英雄になれる……」

震える手が、少年の頭を撫でる。

「私の……自慢の、息子よ……」


その手が、落ちた。

炎の中。


少年は、立ち尽くしていた。

何もできなかった。


守れなかった。

ただ、失った。


それでも

拳を握る。

震えながら。

涙を流しながら。


「……なる」


誰にも聞こえない声。

それでも、確かに。


「ぼくは……英雄になる」


その日。


“魔力を持たないエルフ”は


“誓いを背負った者”になった。


まだ幼い体では、何もできない。

力もない。技もない。


だが――


その身体には、既に“異質”が宿っていた。 


常人を超えた反応力。


異常なまでの運動能力。


魔法の代償のように与えられた、

その力。


まだ未熟。まだ未完成。

それでも


「守るために、強くなる」


少年は、歩き出す。

影の中へ。

血の中へ。

そして――


英雄を目指す道へ。



第一話 劣等なエルフ  End





第二話: 武器と龍人



龍人族は、“拳”で語る。

武器は不要。

技も不要。 


ただ拳ひとつで

叩き伏せることこそ、誇り。


武器を持つ者は、弱者。逃げた者。


龍人の名を汚す者。


それが、この国の絶対だった。


だが、その中に一人だけ。


「……やめてくれ」


拳を振るえない少年がいた。


訓練場に響く、

肉と肉がぶつかる音。


子供同士の殴り合い。

泣こうが叫ぼうが関係ない。 


立っている者が正しい。

「次!」

呼ばれた少年は、足を止めた。

目の前には、同じくらいの体格の相手。

震える拳。


踏み出せない足。


「どうしたァ!?殴れ!!」

教師が怒鳴る。


周囲が笑う。


「怖いのかよ」 「龍人のくせに?」

「気持ちわりぃな」


少年は拳を下ろした。

「……できない」


その瞬間。

殴られた。

顔が歪む。血が飛ぶ。地面に叩きつけられる。


「なら殴られる側でいろ」


冷たい言葉。

笑い声。


その日から、少年は“臆病者”と呼ばれた。


だが。彼には、ひとつだけ

 “逃げなかったもの” があった。

 


武器。 



夜。

誰もいない鍛錬場の隅。

少年は、一人で剣を振っていた。

ぎこちない動き。

未熟な足運び。

それでも、何度も、何度も。


「拳から逃げて、今度は武器か」

振り向くと、そこには父がいた。


巨大な体躯。無数の傷。

この国でも名の知れた拳闘士。

少年は、思わず身構える。


だが


「……振ってみろ」

予想外の言葉だった。

打ち込む。 


遅い。甘い。隙だらけ。


それでも父は、避けなかった。

受けて、見ていた。


「……なるほどな」


小さく頷く。

「まだ話にならん」


やはり、そう言われると思った。

だが、次の言葉は違った。

「だが」

父は、静かに言う。


「武器を持ったお前を

 拳で止められる奴は、そう多くない」


少年は、目を見開いた。

「武器は、弱者のものじゃない」


父は、遠くを見るように続ける。

「“使いこなせぬ者”が弱者なだけだ」


それが、少年にとっての“救い”だった。

それからの日々は、変わった。


殴られることは変わらない。

罵られることも変わらない。


「武器なんかに頼るクズ」

「龍人の恥」

「卑怯者」


何度も言われた。

それでも――


少年は剣を振るう。


槍を持つ。


弓を引く。


斧を扱う。


手にできるすべてを試した。

(どうすれば強くなる)

(どうすれば届く)

拳ではない“戦い方”を、探し続けた。


やがて、気づく。

武器ごとに違う。


重さ、間合い、使い方。

それぞれに“最適”がある。


「……面白い」


初めて、笑った。

さらに少年は、もう一歩踏み込む。

壊れた武器を拾い、分解し、組み直す。

叩き、削り、試す。


「何してるんだ、それ」

父が呆れたように聞く。


「……もっと使いやすくしたい」

真剣な目だった。

父は、少しだけ笑った。

「……好きにしろ」


父は、昔。

外の世界を旅していた。

その話を、時々してくれた。

「この国の外にはな」

見たこともない武器がある。


しなやかな剣。


遠くを射抜く弓。


仕掛けのある武具。


「強さの形は、一つじゃない」

その言葉は、少年の中で広がっていった。


青年期。

少年は、もはや“異端”として

 完全に孤立していた。


拳は振るわない。

武器を持つ。 


それだけで、

排除の対象だった。

ある日。


訓練場で、囲まれた。

「いい加減にしろよ、卑怯者」


数人の龍人。

拳を鳴らしながら近づく。


「武器なんか捨てちまえよ」


少年は、ゆっくりと剣を構える。

震えはなかった。


「……嫌だ」


短い言葉。

次の瞬間、突進。


拳が振り下ろされる。


――だが。


届かない。


一歩外す。


柄でいなす。

足を払う。


倒れる。

「なっ……!?」


混乱が広がる。

少年は、一切深追いしない。


ただ、全員を“倒す”。


殺さず、壊さず。

完全に無力化する。

沈黙。

誰も立てない。

その中心で、少年は立っていた。


「……卑怯者、か」

自分で呟く。

「それでいい」

初めて、そう思えた。


その夜。

少年は、国を出た。

誰にも見送られず。


ただ一人

父だけが、そこにいた。


「行くのか」


「……うん」


短いやり取り。

だが、十分だった。


父は、背を向けたまま言う。

「武器を極めろ」


少しだけ、間を置いて。

「中途半端なら、ただの逃げだ」


そして最後に。


「だが――極めたなら」

振り返らずに、言い切る。

「それは、お前だけの“強さ”だ」


少年は、歩き出す。

外の世界へ。


見たことのない武器を求めて。

自分だけの戦い方を求めて。


こうして、


“拳を恐れた龍人”は


“すべての武器を扱う者”

へと至る道を進む。


そしていつか、


 “守るための力” を持つ

  英雄になるために。



第二話  武器と龍人   End





第三話 :ヴァンパイア✖️聖職者


ヴァンパイアは、“夜”に生きる。


血を糧とし、影に潜み、


人から恐れられる


魔族寄りの種族。


太陽は敵。

聖なる力は毒。

人とは相容れない存在。



それが、常識。 



「いやいやそれ、マジで古くない?」



その常識を、

軽々と踏み越える少女がいた。


幼年期。


古びた館の一室。

「血を飲みなさい」


厳格な声。


長い食卓。並べられた赤い液体。


少女は、じっとそれを見て

「え、ムリなんだけど」


即答だった。

「なんかさ、味がさ……鉄って感じで無理」


空気が凍る。

「……ヴァンパイアが血を拒むなど、ありえぬ」


「いやいやいや、普通のご飯でよくない?

 パンとかスープとかさ」


「それでは力が」


「いや全然いけてるし?」


そうなぜか

元気いっぱいである。


結果。


「……出来損ないめ」


「伝統を汚すな」


「ヴァンパイアの恥だ」


「イカれてんのか」


完全に、つま弾きにされたのであった。


「はぁ〜……マジでしんど」


館の屋根の上で、少女は寝転がる。

星空を見上げながら、足をぶらぶら。


「なんでみんなそんな血にこだわるん?」


答えはない。

でも

彼女は、ひとつだけ


 “憧れ” を持っていた。


それは、ある日のこと。

館に “侵入者” が現れた。


白い服。銀の武器。祈りの言葉。


聖職者。


ヴァンパイアを狩る者。

「そこにいるな」

低く、静かな声。


少女は、影からひょこっと顔を出す。

「ねえ」


場違いな声だった。

聖職者の動きが止まる。


「それ、なにしてるの?」


「……ヴァンパイアの討伐だ」


「ふーん」


じっと見る。

その姿。

迷いなく、まっすぐに進む姿。


「かっこよ」

ぽつりと呟いた。


数分後。

少女は、捕まっていた。


「……なぜ逃げない」


聖職者は困惑していた。

普通なら恐怖で逃げる。抵抗する。


だがこの少女は

「ねえ」

キラキラした目で見てくる。


「わたしもそれなりたい」


「は?」

理解が追いつかない。


「聖職者。めっちゃかっこよくない?」


沈黙。

そして

「……イカれてるのかお前は!!」


全力で怒鳴られた。


「えー、なんでよ!」


「お前はヴァンパイアだぞ!?

 狩られる側だ!!」


「でもさー」


ケロッとしている。


「血とか別に飲まなくても平気だし」


「は?」


「普通のご飯で全然いけるし」


「は??」


「あと太陽もさ、出れるよ?」


「灰になるだろ!!」


「いや、日焼けするだけなんだけど」


「は????」


頭を抱える聖職者。

情報量が多すぎる。


「てかさ」


少女は続ける。

「心臓に銀の杭とか言うじゃん?」


「……弱点だ」


「逆にさ、心臓に杭刺されたら

 死ぬとか弱点として弱くない?」 


「何言ってるんだお前は」


「いやだってさ、

普通に心臓に杭ブッ刺されたら

誰でも死ぬじゃん。

ヴァンパイア関係なくない?」


ぐうの音も出ない。


「お願い!」


両手を合わせる。 


「弟子にして!」


「断る!!」


即答。


だが。

なぜか。


本当に“なぜか”。


その聖職者は

彼女を見捨てなかった。


「……ついてくるな」


「えー無理無理、もう決めたし」


「帰れ」


「帰る場所ないんだよね~」


「……」


完全に詰みである。

こうして。


ヴァンパイアの少女は、


“自分を殺しに来た聖職者”


の弟子になった。


旅の中で。

少女は、祈りを学ぶ。

人を助けることを知る。


命を救う意味を知る。


「ねえ、これってさ」


ある日、少女が言う。


「血吸わなくても、生きていけるならさ」


聖職者は黙って聞く。 


「誰かを傷つけなくても、いいってことじゃん」


その言葉は

軽いようで、重かった。


彼女は “異常” だった。


ヴァンパイアなのに血を欲しない。


魔属側なのに人を助ける。

狩られる側なのに、救う側に立つ。


聖職者「..........」


「わたし、ゼッタイ聖職者になるから」

 笑って言う。



「聖職者」


 胃が痛くなってきた



そして――

「ついでに、英雄とかもいいよね」


軽いノリで、とんでもないことを言う。


聖職者は、深くため息をつく。

「……お前は、本当に」


言葉を探して。

諦めたように言う。

「異常だ」


だが。

その“異常”こそが――

世界を変えるかもしれない。


こうして、

聖職者に憧れたヴァンパイアは


“救う側”として歩き始める。



第三話  聖職者✖️バンパイア End



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