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『青プレスマンと雨漏り』

作者: 成城速記部

 ある山里に一軒の百姓家があった。じいさまとばあさまと、幼い孫で暮らしていた。その家には、大変によい青プレスマンがあった。もちろん、プレスマンは、規格品であるから、いいとか悪いとかいう差は出ないはずであるが、じいさまとばあさまは、その青プレスマンを、大層大事にしていた。

 一人のプレスマン泥棒が、この青プレスマンを盗もうとして、宵のうちから百姓家の屋根に上がって隠れていた。偶然、同じ百姓家に、オオカミが忍び込んで、じいさまとばあさまと孫を食べてしまおうと、百姓家の外で機会をうかがっていた。

 じいさまが、孫を寝かしつけようと、昔話を語っていると、孫が、何かおっかない話を聞かせてくれろとせがむので、じいさまは、そうさな、世の中にはおっかないものもたくさんあるけれども、人間の中では泥棒だと言って聞かせた。隠れていたプレスマン泥棒は、なるほど、俺は人間の中で一番おっかないのかと少し笑った。孫が、人間の中で一番が泥棒なら、けものの中では何が一番おっかないのかと尋ねると、じいさまは、そうさな、けものといっても、数が多いが、一番おっかないのは、まずオオカミだと言って聞かせた。孫が、泥棒やオオカミよりもおっかないものはないかと尋ねると、じいさまとばあさまは、顔を見合わせた後、そりゃ雨漏りだと答えた。

 プレスマン泥棒もオオカミも、雨漏りは知っていたが、雨漏りがとても怖いものだと思ったことがなかったので、同音異義語の雨漏りがあるのかと思って、どんなものだろうと考えていると、プレスマン泥棒が、うっかり屋根から落ちた。ただでは済まないところであったが、落ちたところがオオカミの上だったので、けがはしなかった。オオカミは驚いた。人間が一人自分の上に落ちてくると、大抵、驚く。そして痛い。疑う人は、誰かに頼んで、落ちてきてもらうとよい。ともかく、オオカミは驚いた。とてもおっかない気持ちになったので、これが雨漏りかもしれないと思って逃げ出した。オオカミなのに脱兎のごとく。泥棒は、驚いた。屋根から落ちて、想像したよりも痛くなかったのも驚きだったが、地面が突然動き出したのは驚きであった。とてもおっかない気持ちになったので、これが雨漏りかもしれないと思ってしがみついた。地面はどんどん動いていく。

 オオカミは、泥棒を乗せたまま、すみかの岩穴に戻った。岩穴の天井から、オオカミと泥棒の顔にも体にも、しずくがぽたぽたと落ちてきたが、オオカミも泥棒も、おっかない思いをし通しだったので、そのことには気がつかなかった。



教訓:岩穴の天井から落ちてくるしずくは、雨漏りではない。雨漏りの同音異義語は、人名くらいしかないが、甘盛り、は、スイーツ盛りのような、もっと盛るべきなのに盛れていないような、で、少しおもしろい。

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