【うしろすがた】夏の夜に、怪談話を。
金曜23時。
“華金”なんて言葉があるが、都内のしょぼい1Kに三十路男がひしめいている光景は、華とはほど遠い。……むさくるしくて、少し汗くさい。
集まっているのは、俺の高校時代からの友人達だ。今でも月に一、二度は飲みに行く仲で、二次会は大抵、駅からアクセスのいい俺の家になる。
仕事も趣味も生活スタイルもバラバラな五人だが、一緒に居ると何故か心地が良い。酒があっても無くても、何時間でも中身のない話を続けていられた。
――だがこんな関係にも、いつかは終わりが来るのだろう。一人が結婚を決めたことで、俺は時間の経過を痛感してしまった。ずっと変わらないものなど無いのだ。俺達の連絡頻度も、年々減っている。
仕方がないことだとは分かっていても、寂しいものは寂しい。
だからせめて、今、この一瞬一瞬を大切にしようと思った。
この何気ない一晩を、残しておこうと。
「お、これ面白そーじゃん。ってなんだよ、今終わったとこかよ~」
コウジが勝手にテレビのチャンネルを回し、文句を言う。画面にはおどろおどろしい血文字で“真夏の最恐怪談特集”と映し出されていた。
が、すぐに二次元美少女キャラに変わり『今ならSSR確定ガチャ10連無料!』と、無駄にデカい胸を揺らしている。
「ホラーか。夏って感じだな」
「な~。ケンジ、サブスク入ってるだろ? なんかホラー映画観ようぜ」
ケンジ――こと俺は、頷きかけ……ちょっと変わったことをしてみたくなった。
「どうせなら、俺達で怪談話やってみないか? 一人一つくらいなら話せるだろ?」
「だるっ」
コウジはそう言いながらも、満更でもなさそうだ。他の三人もまあまあ乗り気である。
そんな調子で俺達五人は、酒のつまみに怪談話をすることになった。
「じゃ、はじめるか。誰から行く?」
コウジがポテトチップスの袋をパーティー開きしようとして、パン! と盛大にばらまきながら言う。ホラーのホの字もない始まりだ。
「あ、じゃあ僕から行くよ」
そう名乗り上げたのは、木村ミツル。
クルクルのパーマ髪に、赤ぶち眼鏡で、ひょろ長い。ロングスカートとかヒールとか履く系の、ちょっと気取った奴。“趣味はカフェ巡りです”って顔しながら、未だに“ウンコ”で数分笑い転げているようなところが、コイツの良さだ。
「これは……数年前の話なんだけどさ」
と、ミツルは話し出した。
――僕、前はカメラが趣味だったんだ。
え? 知らないって? そりゃ、お前たちなんて撮らないからね。
夜景とか、季節の花とか、そういうキレイなもの専属のカメラマンだよ。
ま、会社のイベントとかでは撮らされたけどさ。
……で、ちょっと遠出して、渓谷の写真を撮りに行った事があったんだ。
これがもう、滅茶苦茶に良い写真が撮れたんだよ。
あ、これSNSに上げたら絶対バズるな、って。
でもさ、残念ながら人が写りこんでたんだよな。
ま、後ろ姿だったし、許容かなとも思ったんだけどさ。
真っ赤なワンピースで、景色から浮いてるし、お蔵入りにしたんだ。
……おかしいな、と思ったのは、それから暫く経ってからだよ。
交差点とか、カフェとか、他の場所で撮った写真にも、時々似た感じの後ろ姿が写るようになったんだ。
無地の真っ赤なワンピースなんて、そう被るものじゃないだろ? おかしいよな。
でもあの時は、なんだか認めたらいけない気がして、偶然だって思い込もうとしてた。
だけど……正月に実家で、家族写真を撮った時にも、映ってたんだよな。
ああ、うん、家の庭だよ。家族の後ろに、立っててさ。
流石にヤバいと思って、慌ててカメラと今までの写真、お焚き上げに出したよ。
……で、写真をまとめている時にさ、気付いたことがあるんだ。
よく見たら、毎回少しずつ、変わってたんだよ、その後ろ姿。
写真を撮るごとに、
こっちに、振り返ってきてたんだ。
ほんとに少しずつ、少しずつ。
一番新しい写真だと、最初は見えなかった耳とか顎も見えてて……
……それ以来、僕、写真撮るのやめたんだ。
あのまま撮り続けてたら、どうなってたんだろうね。
――ん? ああ、これで終わりだよ。
ミツルが話し終えると、部屋の中がシンと静まり返った。全員、どこか顔を強張らせている。
まあ……思ったより本格的なホラー話だった。即興の作り話とは思えないから、どこかの有名な話を借りて来たのだろうか? ……そういえば、いつからかミツルは写真に写りたがらなくなったな。いやいや、流石に実話ではないだろうが……まさか、な。
俺の背中を、ゾクリと寒気が走る。
「はっ、振り返る幽霊か! もしかしたらそのまま、クルッと一回転するだけだったりしてな!」
コウジがあからさまな空元気で笑い飛ばした。
「だったら、いいけどね。さ、次は誰?」
「……じゃあ、おれ。ミツルの後は、やりにくいけど」
そう言って手を挙げたのは、佐々木ナオキ。
街を歩けば女に二度見される、憂いを帯びたイケメンだ。儚げな外見通りの繊細な中身で、学生時代は何かと欠席することが多かった。俺達以外に、友達も居なかったように思う。
社会に出てすぐに挫折し、数年の無職期間を経て、今は在宅エンジニアとして落ち着いているらしい。モテるくせに、彼女いない歴=年齢。非常に好感が持てる男である。
「これは……おれが、実家でニートしてた時の、話」
と、ナオキは話し出した。
――ニートってさ……まあ、暇なんだよ。
ゲームし放題とか……漫画読み放題とか……今だったらそう思うけど。
それって、ある程度忙しいから、したいって思えるのかもね。
本当に時間が余ってるとさ……何もできず、寝て、起きて……気付いたら、次の日だったりする訳。
そんな生活してたらさ……親に、せめて少しくらい日の光を浴びなさい、って言われて。
毎日、近所のスーパーまでお使い、頼まれてたんだよ。
……はは、ガキみたいだよね、うん。
その頃は昼夜逆転してたから、いつも夕方に起きて、それからお使いに行ってた。
家からスーパーまでに、すごく長い坂道があるんだけど……前を歩いてる人が夕陽で逆光になって、みんな黒いシルエットに見えるんだ。
なんか……絵みたいで面白かった。
……で、暫くして気付いたんだけど……毎日同じ人が、必ず前を歩いてたんだ。
仕事帰りとかなのかな、って思った。毎日居るのはおれもだし、別に変じゃない。
……けど、ちょっと変わってて。
その人、夏なのに、長いマフラーを巻いてるんだよ。だからシルエットでも、いつもすぐその人だって分かった。
え? ああ、女性だよ。多分。
……ま、別にそんな気にしてなかったよ。普通に、日常風景って感じで。
……で、なんとか今の仕事見つけて、お使いも行かなくなって、実家も出て……そんなこと、すっかり忘れてたんだけどさ。
昨年の年末に、久しぶりに実家に帰った時……近所で嫌な話、聞いちゃったんだよね。
『あの人、最近亡くなったらしいわよ。ほら、あのお宅の、病んでしまった娘さん』
『ああ……年中長いマフラーをしてた人ね』
『そう、あの……いつも後ろ向きに歩いてた人』
……ってさ。
うん、まあ、ゾクっとしたよね。
逆光ってさ……向こうからはこっちが見えるじゃん。
あ、俺、ずっと見られてたのかな……って。
――おしまい、だよ。
「うぉおおい! なんだよお前まで! 珍しくノリノリじゃねーか!」
コウジが引き攣った顔で、ナオキの薄い肩をバンと叩いた。
「ってかお前ら、作り話上手すぎじゃね?」
「……そういうの、野暮だよ」
ナオトが意味深な顔で言う。ふっと伏せられた目は、なんだか後ろめたいことでもあるかのようだ。――まるで、今の話が実話で、こんな場で余興にしてしまったことに罪悪感を覚えているみたいな。
「……先輩たち、流石ですねえ。じゃあそろそろボクも、いかせていただきますか」
「おー、タカシか。なら安心だ」
「ひどっ!」
山本タカシ。一学年下の後輩だ。
コウジの部活の後輩で、いつの間にか俺達の輪に入っていた。
ひょうきん者で明るく素直なタカシは、年上に好かれるタイプ。ガキっぽいクシャクシャな笑顔が時々うるさく感じるが、それが無くなれば寂しいだろうな、なんて思ったりもする。
誰とでも仲良くなれるタカシにとって、今の営業職は天職だったようで、仕事は順調らしい。
「さあさあ、それじゃあタカシ劇場、開幕ってことで。……ってコウジ先輩、あからさまに寝たフリしないでくださいよ。まだ始まってすらないのに!」
……と、タカシは話し始めた。
――先輩方、“合わせ鏡”って知ってます?
ちょっ、なんですかその「ああ~」って顔! え? ホラーの定番すぎる?
うーん……語り出し、間違えたかなあ。
とにかく、最後まで聞いてくださいって。
ボク、今の仕事、めっちゃ好きじゃないですか?
でも、最初の頃は正直、しんどかったんですよね。
接待続きで、いっつも二日酔いだったし。
土日祝日も普通に呼び出されるし。
無茶ぶりされることも多くて。
ま、最近はコンプラ厳しいですから、だーいぶマシになりましたよ! 今はノンストレスでやらせてもらってます!
でも、当時はストレスフルだったんで……
……できてしまったんですよ。
……そう……頭の後ろに……こ~んなでっかいハゲが‼
――いや、まだオチじゃないです。
当時はマジ絶望でしたね。え、ボクもう彼女できないんじゃ? って。
はは、治った今も居ませんけどねー……。
とにかく、本当に恥ずかしくて。
毎日必死で薬塗ってました。生えろ~生えろ~って。
ただ、後頭部だから……自分じゃ見えないし、塗りにくくて。
で、思いついたんですよ。合わせ鏡すれば、後ろも見えるなって。
え? 鏡なんて持ってるのかって? ひどい! ボクだって鏡くらい見ますよ。
『営業は身嗜みが命だ!』って、上司にでっかい全身鏡、買わされてたんです。
で、部屋の鏡と洗面所の鏡を、合わせてみたんですよ。
いや~、あれ、圧巻ですね。奥までずらーっと自分が映って。感動しちゃいました。
でも……肝心の頭の後ろは、見えなかったんですよね。
え? なんでかって? ああ……はい、それが……
なんか、鏡の中の自分、全部こっち向いてたんですよ。
……おかしいですよね。合わせ鏡なのに。
それ以来、鏡見るの苦手になっちゃいました。
――ボクの話は、これで終わりです。
「……タ、タカシのくせに」
コウジが悔しそうに呟く。ミツルが眼鏡をクイと上げ、ニヤッとした。
「コウジって、意外と怖いの苦手だよね」
「……その筋肉……飾り?」
ナオトも便乗する。
「うっせ! 別に怖いとかじゃねーよ。ただ、よくそんなペラペラ話せるなって、感心してただけだ!」
確かに、と俺も頷く。まさかこの三人が、こんなに話し上手だったなんて。練習する暇なんて無かったのに、語りに迷いが無かった。まるで、ずっと胸の奥に秘めていたことを、ようやく吐き出せたとでもいうように。
「うぉし! 見てろよ! オレが、とっておきの話でビビらせてやるからな!」
体も声も一番大きなコイツは、松井コウジ。
かなりガタイが良く、高校時代は柔道部主将だった。が、最近はその筋肉は多少なりとも脂肪に変わってきているらしい。下っ腹がベルトに乗っている。
そして、コイツこそが我らの裏切り者第一号だ。数年付き合っている彼女と、ようやく結婚を決めたらしい。……一途な奴だから、円満な家庭を築くだろう。今は置いていかれる寂しさで、複雑な気持ちでいっぱいだ。
「これはオレが、小学校に上がったばかりの頃の話だ」
と、コウジは話し始める。……お前も、実話形式なのかよ。
――ほら、なんだ、えーっと、アレだよ。
ツ~ルとカ~メがす~べったあ~ってやつ。
あ、そうそう、“カゴメカゴメ”だ!
なんか皆で手ぇ繋いで輪になって、真ん中に一人を座らせて、その周りを歌いながら回って……
歌い終わった時に、真ん中のやつが、後ろに立っているのが誰かって当てる遊びだったよな。
今思えば、何が楽しいのか分からんが……あの頃は、不思議とずーっとやってられたんだよ。
その日も、いつもつるんでた奴らと七人で、近所の神社公園でやってた。
で、帰りのチャイムが鳴ってさ。
もう、この一回で最後にしないとな~って思ってた時さ。
歌い終わったのに、真ん中の奴がいつまでも何も言わないんだよ。
オレはそいつの後ろじゃなかったから、声出してもバレないと思って「早く答えろ」って急かしたんだ。
そしたらそいつ「名前が分からない」とか言いやがってよ。
いやいやいや、いつも遊んでる友達の名前くらい、分かるだろって。
もし誰か一人くらい忘れても、他のやつの名前を言えばいいだろって。
で、輪になってるやつら全員、呆れて顔を見合わせたわけ。
……そこで、気付いたんだよ。
あれ、七人居るじゃん、って。
丸まったその背中、誰なんだ、って。
そこからはもう、全力疾走。
“八人目”のそいつを置いて、逃げたね。
……まあ今思えば、寂しいやつだったのかな? とか思うけどさ。
――どうだ? 結構、ゾクッとしたろ?
俺は、エアコンのリモコンをチラッと見た。設定温度はいつもと変わらないのに、どんどん冷えている気がする。
「……おれ、カゴメ……やったことない」
ナオトのちょっとズレた呟きに、皆は少し安心した顔をした。
「おお、それは人生損してるぜ! どうする? 今からみんなでやるか?」
「いい歳したオジサン達がカゴメって、それこそホラーだろ。……それにまだ、言い出しっぺのオオトリが残ってる」
ミツルが俺を見る。
……非常に、非常にやりにくい。もっと軽い、冗談半分のネタばかりだろうと油断していた。
皆の話の後、ラストを飾るには、生半可な話では許されない。俺は過去に観たホラー映画や、知っている都市伝説の中から、どれが一番マシかを考える。
この場に相応しいオチは、一体何なのか。
そこで俺はふと、四人の話にある共通点を見つけた。
写真に写る女性の話、坂道を歩くシルエットの話、合わせ鏡をした話、カゴメの輪の中に居た知らない子供の話。……合わせ鏡に関しては、結局見ることの出来なかったモノだが……共通して浮かび上がるのは、“後ろ姿”と言うワード。
……後ろ姿、か。
考えてみれば、後ろ姿って妙な存在だ。
見えているのに、見えていない。
確かに誰かの形をしていて、そこに何かが居るというのに、正体が決めきれない曖昧な存在。
だからこそ人は、勝手に想像してしまう。
期待し、恐怖し、魅入られる。
……ああ、とっておきの話があったなな。しかも俺のは、正真正銘の実話だ。
「じゃ……最後にして最恐の怪談話を、始めるぞ」
俺は声を低くして、話し始めた。
――これは、俺が大学生だった頃の話だ。
その日はバイトで遅くなって、日付が変わる少し前くらいの時間に、家に向かって歩いてた。
うちの近所、街灯少ないからさ。深夜の道は不気味で、いかにもな雰囲気だったよ。
そしたらさ、駅の方の道からサッと女の人が出てきて、前を歩き始めたんだ。
最初は幽霊かと思ってドキッとしたけど、すぐに別のドキドキに変わったよ。
芸能人みたいな、茶髪のロングの巻き髪でさ。
ぴったりしたワンピースを着て、こ~んな高いハイヒールを履きこなしてて。
歩くたび、大きめの尻が揺れて、なんかイイ匂いもしてさ。
後ろ姿だから顔は分からないけど、もう絶対美女確定だろ! って。
運命の人に会うと電撃が走るとかいうけど、まさにそんな感じで、心臓はバクバク、頭の中はまっピンク。
後にも先にも、あんなのはアレが初めてだった。
もう、当たって砕けろ! って、勇気を振り絞って声をかけたんだよ。
そしたら、その美女が振り返ってさ――
『ケンジ、あんた何してんの』
って。
それ、ライブ帰りの母さんだったんだ。ウィッグ付けてたから、全然気が付かなかった。
俺、思わず膝から崩れ落ちたね。
――これが、俺の人生で、一番怖かった話。
俺が話し終えると、先程までどこか張り詰めていた空気は和らぎ、すっかりいつもの雰囲気に戻っていた。
「確かに、ケンジの話が一番こえーな!」
「……でも、分かる。ケンジのお母さん……美人だよね」
「ナオト先輩が女性に興味を持つなんて……! 熟――年上好きだったんですね」
「おいおい、人の母親を熟女呼ばわりすんなって」
はははと笑いながら、俺達は再び酒をあおり、ツマミに手を伸ばした。
怪談話、中々面白かったな。もう、暫くやるつもりはないが。
「ケンジ」
「ん?」
俺を呼んだのはミツルだ。だがその視線は、俺ではなく別の方向を向いている。
「……本棚のアレ、なに?」
「アレって? ……ああ!」
俺は、その存在を完全に忘れていたことに気付いた。
いつ終わるか分からない、このくだらなく素晴らしい時間を残しておこうと、忍ばせておいたものだ。
「そうだったそうだった、カメラ、回してたんだった。こういう日常の動画、コウジの結婚式で流してやろうと思って」
「人の結婚式で怪談話流す気かよ!」
「いや、最初は怪談話する予定、無かっただろ?」
「えー……先輩、最初に言ってくださいよ! ボク、絶対変な顔してましたよね!?」
「……まあ、いいんじゃない。良い思い出……になると思う。ね、ミツル……ミツル?」
ガタン! と、テーブルが揺れた。
勢いよく立ち上がったミツルは、顔面蒼白で、本棚のカメラに飛びつく。
ピッ と、録画が止まる音。
「……そんなに嫌だったか? ごめんな」
俺は慌てて謝罪する。まさかこんなにも、嫌がられるとは思っていなかった。仲間の地雷は理解していると思っていた。……ミツルは写真だけでなく、写るという事自体が嫌いなのかもしれない。それにしても、ちょっと過剰反応し過ぎじゃないか?
ミツルは何も言わず、食い入るように、カメラの小さな液晶画面を見つめている。
「勝手に撮って悪かったよ。データ、消してもいいから」
「おいおい、ミツル、顔色悪いけど大丈夫か?」
俺とコウジが、ミツルに近付く。
ミツルは俺達を無視して、再生ボタンを押した。
カメラから、先程の俺達の声が漏れ聞こえてくる。
「……ミツル?」
青い顔で、微動だにしないミツル。
憑りつかれたみたいに、画面から目を離さない。
一体、何を見ているんだ?
俺はミツルの後ろから、画面を覗き込んだ。
見慣れた部屋。見慣れた友人達。その奥に、知らない後ろ姿。
真っ赤なワンピースの女性が、俺達の背後に立っている。
俺は、ミツルの怪談話を思い出した。
写真を撮るたび、少しずつこちらを向くという、後ろ姿。
……だが、これはビデオだ。
止まった一瞬ではなく、動く映像。
ミツルの手からカメラをかっさらい、慌てて停止ボタンを押すも、反応しない。
後ろ姿は
こちらを見た。