表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7話 砂塵に咲く、灰の誓い

この7話でレオンとカイルの出会いが出てきます。

このストーリーは権力、表面的な正義、政府がいかに腐敗してるかを描いていきます。

リアルを生きていてもそんなことをばかり感じます。

火の粉が、砂の上に降り注ぐ。

砲撃の余波で歪む空気の向こうに、焼け落ちた家屋が崩れた。



「ついて来いッ!! 遅れたら死ぬぞッ!」


カイル・マクレガーの怒号が、煙と叫びの中を切り裂く。

手には血塗れの大剣。鎧も衣も焼け焦げ、顔には煤と泥。


彼の背には、村人たちと、命を張る灰狼旅団の仲間達がいた。


カイルは剣を横薙ぎに振るい、道を塞ぐ騎士達を吹き飛ばす。


「邪魔すんじゃねぇ……ッ!!」


相手はアルザフル騎士団とノア連邦騎士団の混成部隊。

魔導兵器で武装し、連携された陣形と砲撃で、村を四方から包囲していた。


村は――完全に囲まれている。

だが、唯一の突破口があった。

カイルが一人で切り開いた“脱出路”。

そこへ、村人を導く。



「おい、そこのガキッ! そのまま走れッ!」


泣きながらついてくる少年の背に、灰狼旅団の兵士が盾となって矢を受け、膝をつく。

咄嗟に振り返ったカイルの眼前で、別の兵士が敵兵に突かれ、砂上に倒れた。


「……クソがぁぁ!!」


振り向きざま、敵の首筋へ剣を叩き込む。

血が飛び、砂に染みる。


 

戦場は、もはや“前線”ではなかった。

村全体が“戦場”となり、誰もが戦士で、誰もが犠牲者だった。


 

「こっちだ! 森側から回る!」


燃え落ちた木の残骸を跳び越えながら、レオンの怒鳴り声が響く。

灰狼旅団の隊長は最前線を抜け、後方から村人たちの誘導に回っていた。


「一人でも多く逃げろ!!」



カイルは背後を守りながら、一人、また一人と村人を通す。

その目に、涙はなかった。怒りでも悲しみでもなく――ただ、“必死”がそこにあった。



「守るってのは、全部を救うことじゃねぇ。

……生かすってのは、“選ぶ”ことじゃねぇんだよ!」



そのとき、空が光った。

魔導砲の音が響く。

次の瞬間、火の玉のような爆撃が村の北側を襲い、建物ごと吹き飛ばす。


「伏せろォッ!!」


爆風に吹き飛ばされながらも、カイルは地を転がって立ち上がる。


耳が遠のき、鼓膜が鳴っている。

それでも、走る。生きてる奴を、一人でも前に――。


 

「レオンッ! あと何人残ってる!?」


「わからねぇ! 多すぎる……くそ、数が足りねぇ!」


 

灰狼旅団の兵士の叫びが混じる。


「無理です、もう前に進めません! 仲間も村人も、死んでいくばかりですッ!」



だがカイルは止まらない。

この地獄のような戦場で、“助けを待ってる奴ら”がまだいる限り――


 

「止まるなァッ!! 俺が道を切り開く! 前だけ見て走れェ!!」


 

彼の剣が、再び唸る。

火と血と砂の中で、灰狼旅団の一団は“生き残る道”を繋ぎ続けた。

その時。


「誰か、あの家に子供の声が……!」


別の灰狼旅団の兵士の声に、レオンが即座に駆け出した。


燃え上がる屋根、崩れかけた壁。

既に家全体は崩壊寸前だった。


レオンは躊躇なく中に飛び込み、焔の隙間をくぐりながら倒れた小さな体を抱き上げる。



「しっかりしろ……! おい、目を開けろ……!」


息はあった。けれど弱い。

このままでは炎に飲まれる。


レオンは燃えた梁を背で押し上げ、子供を懐に抱えながら、がれきの隙間を強引に抜けた。


 

その瞬間――脳裏に、似た光景がよみがえった。


 

燃え盛る家屋の中――

レオンは倒れた子供を抱き上げると、胸にきつく引き寄せた。

その小さな体の熱さに、かすかに意識が遠のく。



その瞬間、脳裏に焼きついた記憶がよみがえった。

 


――あの時も、家の中だった。

腐った酒と暴力の匂い、泣き叫ぶ声。

倒れた男。

その足元で、拳の跡を顔に刻んだ少年が、ただ震えていた。


「父ちゃん……。」


少年が、血に染まった床の中でつぶやいた。


その時レオンは、剣を手にしていた。


……殺した。

この少年を救うために。


気づけば、その小さな背を抱えていた。

少年の体は細く、壊れそうだった。

その名は、カイル。



炎の音で意識が戻る。


今、腕にあるのは別の子供。

けれど、あの時とまったく同じ重さだった。



「……これが運命って奴かねぇ…。」


レオンは歯を食いしばり、火の粉を浴びながら、崩れかけた家から飛び出した。



仲間が駆け寄り、レオンの腕から子供を引き取る。



「この子、まだ生きてます!」


「医療担当のエリーザに回せ! 急げ!」


 

火の粉にまみれた顔で、レオンはただ立ち尽くす。

荒れる息の奥に、静かな呟きがこぼれる。



「……何人、こんな子供を見送ってきた……。

それでも、守るって言うしかねぇんだ。言わなきゃ、俺たちがやってることに意味なんてなくなる。」


 

空を見上げれば、赤く染まった雲の隙間に、わずかな青が残っていた。


レオンは剣を拾い直し、再び炎の中へ走る。


----


死の気配は、音もなく忍び寄る。


「こっちは制圧したぞ! 次、東側に回れ! 村人がまだいる!」


灰狼旅団の兵士が叫びながら駆ける。

レオンは剣を肩に担ぎ、手負いの仲間を背負ったまま、崩れた塀の陰へと身を潜めた。


「おい、まだ意識あるか?」


「へ、へい……すみません……俺、もう、足が……。」


「バカ、謝るな!てめぇはよくやった。最後まで足掻いた、それだけで上等だ。」


レオンは傷口を押さえ、兵士の肩に布を巻く。

だが彼の目が、もう焦点を結んでいないことに気づいていた。


その視線の先。

倒れた村人の父が、我が子をかばって倒れ伏している。


息子が、涙で濡れた手を父の胸に当てて、何度も揺らしていた。


「父ちゃん……っ! 起きてよ……!」


泣き声が、崩れかけた壁の向こうまで響いた。

敵兵の足音も近い。


 

レオンは歯を食いしばる。


目の前の命。背中にある命。

どちらかしか救えないと、戦場は選択を迫ってくる。


 

「誰が全部救える……そんなの、できるわけねぇだろ……。」


かつて仲間だった者の、今はもう動かない手を握りしめながら、レオンは目を伏せた。


砂に染みる血は、名前を持たない。

だが確かに、その命はここにあった。



「全員を救えなくても、逃げ延びた誰かが、こいつらのことを語る。

そいつが“騎士”でも“傭兵”でも関係ねぇ。

この命を忘れねぇ奴が、生き延びりゃそれでいいんだ。」

 


視線を上げれば、カイルの剣がさらに敵を切り裂いていた。


足を引きずる仲間たちが、カイルの後ろについて走っていく。

その姿を見て、レオンは立ち上がる。



「弱気になってる場合じゃねぇんだよ。

カイルのように今はがむしゃらに敵を斬ればいい!」



左腕の傷を押さえ、レオンは再び剣を構えた。


目の前に、盾を構えた敵兵が数人――

その先に、まだ逃げられず震える母子がいる。


 

叫びも、覚悟も、涙も、全てを呑み込んで、

レオン・ヴァルグレイはもう一度、剣を振りかざす。


守る者のために。

救えなかった者の想いを背負って。

そして――

まだ、生きている者たちのために。


 

炎の中で、それでもなお、人は走り、戦い、命を繋げようとしていた。


----


焼け落ちた倉庫の裏手、崖沿いに隠された古い排水口――

それが、灰狼旅団が村の有事に備えて密かに整備していた“脱出路”だった。

カイルはここまでの脱出路を一人で切り開いのだ。



「ここだッ! 全員、入れッ!」


カイルが叫び、崩れかけた通路の梁を肩で押し上げる。


瓦礫の隙間をかいくぐり、子供を抱いた母親、手負いの仲間、村の老人たちがひとり、またひとりと中へと消えていく。



「急げ、後ろに敵が来てるぞ!」


灰狼旅団の兵士たちが振り返りながら後退する。

魔導弾の閃光がすぐ近くの地面を抉り、砂と火花が飛び散った。



「援護する! 早く、全員通せ!」


カイルは剣を片手に、狭い通路の入り口を守るように立ちはだかる。

敵兵が次々と押し寄せる中、彼の大剣は風のように振るわれ、雷鳴のような打撃音が響いた。


 

「誰が、“ただの傭兵”だって?

誰が、“悪党”だって?」


怒りが、体の芯から噴き上がる。


「テメェらのしてることが正義だって言えるんだったら生きたまま狼に喰われな!!」

 


斬撃。

雷光のごとく、敵兵の槍を弾き、胸を裂く。

一歩踏み込めば、敵の包囲の一角が崩れ、そこに光が差す。


「……今だ! 抜けろ!」


レオンが背後から叫ぶ。

最後にレオン自身が負傷者を抱えて飛び込み、カイルは残る最後の仲間たちを無理やり通路へ押し込んだ。



その直後――


爆風。

通路の入り口付近が爆撃で崩れ、天井の一部が落ちる。

ギリギリで内部に飛び込んだカイルの体が、砂と土煙に包まれる。



「……くそっ、今ので完全に道が塞がれたな。」


背後で誰かが言う。


カイルは地面に拳を叩きつけた。


「クソが……! 全員なんて、救えねぇってわかってた。

でも、こんなもんかよ……!」



土と血にまみれた手を見つめながら、カイルは震える。


それでも、背後では村人の嗚咽と、旅団仲間の励ましの声が重なっていた。


 

「カイル、お前がいなかったら、全滅だったぞ……。」

「カイル、ありがとな……!」

 


顔を上げる。


通路の奥から、わずかに空が見える。

黒煙の向こうに、まだ太陽が沈みきってはいない。


「行くぞ……! まだ生きてる奴は、前に進め!」


カイルの声が響く。


それは怒りでも、希望でもなく――ただ、“進む者”の声だった。


--------


アルザフル政府軍・前線本陣、天幕の中――


砲撃音の残響がかすかに聞こえる中、部隊長のひとりが青ざめた顔で報告を上げる。


 

「灰狼旅団、及び村人の一部が地下の旧脱出路を通り、包囲を突破した模様……!

蒼井レイモンドとエリック・モーガンも、合流を果たした可能性が……!」



その言葉に、椅子に座っていたデラートが、ゆっくりと指を組む。


彼は報告を聞き終えると、無表情のまま立ち上がり、簡潔に命じた。 


「……ならば、村ごと“消せ”。

一人でも生かしてはならん。

焦土作戦を即時発動。すべて焼き払え」



静まり返る本陣内。

補佐官たちはその言葉を反芻し、一瞬の間を置いて魔導砲部隊への伝達を始める。


「村はもはや戦略拠点ではありません。

ここまでする必要が……!」



「構わん。すでにこの作戦は“国家間の同意”の下にある。

あの村は、ただの“土地”に過ぎん。」



そのとき、テントの奥から、もうひとつの重い足音が響いた。


グレゴール・ヴァルデンベルク。


ノア連邦元帥、蒼井の父、かつての英雄。

そして今や、自らの“名誉”と“威信”のために動く存在。


その鎧の一部には戦闘の傷が残っていた。

蒼井との一戦を経たその目は、静かに燃えている。

 


「息子に逃げられたようで……お疲れ様です、グレゴール元帥。」


デラートが皮肉を込めて笑う。 


グレゴールは無言で彼を一瞥し、

代わりに、報告官に向かって短く命じた。


 

「焦土命令に、私の名を加えよ!

“ノア連邦・ヴァルデンベルク元帥名義による共同掃討作戦”。

この作戦は、連邦の威信のもとで遂行される!」

 


本陣内が一瞬、凍りつく。


デラートが眉を上げたまま、半笑いで尋ねた。


「父としての情けは、ないのですか?」


その言葉に、グレゴールはようやく口を開いた。


「……あれはもう、私の子ではない。

国家に刃を向けた時点で、“裏切り者”だ」



そして静かに続ける。


「私は“英雄”として、信じたもののために剣を取ってきた。

だが今は違う。今の私は、“英雄であった”者として――威信を守らねばならん。」


「灰狼旅団、村、裏切り者……そのすべてを“歴史から消す”。」

 


デラートはその言葉に拍手すらしそうな笑みを浮かべた。


「ええ、ええ……まことに高潔で、国家的なご判断です。

さすがは“歴史に残る英雄”。」



グレゴールは一切反応を見せなかった。

ただ背を向け、天幕の外に向かって歩き出す。


その背中は、かつて“正義”を纏っていた男のものだった。

だが今はもう、“誰かを守る”ためではなく、“己の名を守る”ための背中だった。



そして命令を受けた魔導砲が再び起動し、炎の絨毯が無慈悲に砂漠の村を包み込んでいった。

ご拝読ありがとうございました!

このエピソードでカイルは虐待を受けており、レオンが父親を殺して助けた過去が明らかになりました。

ちなみにカイルの母親は責任を放り出し家から逃げ出しており、結局は盗賊に捕まり殺されています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ