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第4話 逆巻く咎火

この4話はこれからの物語において重要なターニングポイントになる話です。

蒼井がメインで動いていきますが、ちゃんとカイルがこの灰狼の誓いでは主人公です。

赤い閃光が、村の端を焼いた。

空に向けて火柱が立ち上がり、逃げ惑う村人の悲鳴と、魔導砲の着弾音が混じり合う。


砂漠の朝は冷たいはずだった。

だが今、そこには血と煙の熱気が充満している。


「くそっ……。このままじゃ、持たねぇぞ!」


灰狼旅団の団員たちが、村の防衛線で必死に食い止めていた。

魔導障壁は限界を迎え、木造の住居は次々と焼け落ちていく。


村を包囲する敵の数は、こちらの三倍以上。

しかも、連携された火力魔導兵器と騎士団の精鋭が揃っていた。


その場に、雷の魔導大剣を背負った男が歩み出る。


レオン・ヴァルグレイ――灰狼旅団の首領が、仲間たちに向けて静かに告げた。


「正面からぶつかっても、ジリ貧だ。敵の魔導砲陣と補給を潰す。

一撃、深く刺して混乱を起こす。時間は稼げる!」


「おっしゃ、任せてくれよ。暴れるだけなら得意中の得意だ!」


傍らで、片腕に包帯を巻いた男――カイル・マクレガーが、大剣を肩に乗せて笑う。


そのとき、背後から一人の影が現れる。

蒼銀の外套をまとい、傷だらけの鎧に砂がまとわりつくその男。


蒼井レイモンド。


「……俺も行く。村を守るために。もう、迷いはない。」


レオンが振り向き、彼を見据える。


「命令を捨てたか?」


「捨てた。“騎士”を辞めた。……今、俺はただの男だ。

誰かを守るために、剣を振るう。

たとえそれが、国家の敵と呼ばれようとも。」


沈黙。


そしてレオンが口元をわずかに吊り上げた。


「……なら、今だけだ。“剣”として認めてやる。俺の背中、預けても構わねぇ。」


カイルが肩をすくめる。


「ちょいと前までぶっ飛ばし合ってたのに、面白い展開になったな。

ま、背中くらい貸してやるよ、“元”国家の犬さんよ。」


蒼井はうなずき、剣を抜く。

その刃は、命令の剣ではない。自分自身が選んだ、守るための刃だった。


---


数分後。

砂丘の裏を回り込むように、三人は敵の後衛へ接近していた。


魔導砲陣と補給部隊の中枢。

そこを狙うのは、高火力兵器にとって最も盲点となる位置。


レオンが指で合図を送る。

三つ数えて、同時に動いた。


「――行くぞ!!」


カイルが突っ込み、豪腕で魔導砲の砲兵を吹き飛ばす。

続いてレオンが雷を纏った一閃で制御塔を一刀両断。


蒼井は、素早く砲陣の守備部隊へ斬り込む。

連邦の騎士だった彼の剣筋は、味方だったはずの兵士の隙を正確に突いた。


「ぐっ……レ、レイモンド!?てめぇ……!」


「俺はもう、そっち側の人間じゃない。

お前たちが守ろうとしてる“正義”が、民を焼くというなら――俺は、敵になる。」


剣が交わるたびに、蒼井の中で何かが剥がれていく。

騎士としての誇りも、父の名も、もう背負わない。


今、俺の剣は、ただの人間として――“守るために”振るわれている。


数分で魔導砲陣の制御が混乱。

補給部隊が壊滅し、アル=ザフル騎士団の前線がざわめき始める。


「なんだ!? 背後から……襲撃!? 内部に裏切り者が……。」


「いや、奴は……レイモンド!? 連邦騎士じゃなかったのか……!?」


蒼井は顔を覆うように兜のバイザーを下げた。

もう、何を呼ばれようと構わない。


この剣で、正義を貫くと決めたのだから。


--------


同時刻、本部指令幕舎――

グレゴール・ヴァルデンベルクとデラート・グレンシュタインが配置図を前に作戦の進行状況を確認していた。


「前線の第二砲陣が沈黙……? 何だこれは、報告が途絶えている」


幕僚の一人が、魔導通信端末を片手に駆け込む。


「し、失礼します! 緊急報告……!」


「……何だ、騎士たる者、慌てるな」


グレゴールが目線だけを向ける。


「報告によれば――敵後方にて、連邦騎士・蒼井レイモンドの姿を確認。

灰狼旅団と共に魔導砲陣を襲撃中……!」


沈黙。

次の瞬間、周囲の幕僚たちの顔が凍りついた。


「共謀……? まさか、蒼井が……?」


「確実に確認されたとのことです! 雷撃剣の男――灰狼旅団の首領レオンと、

もう一人、背中に大剣を背負った大男と共に……!」


ヴァルデンベルクは無表情に、ただひと言呟いた。


「……あの愚息、ついにこの私を“敵に回した”か。」


その目には怒りも動揺もなかった。

ただ、完璧に統制されていた冷たい意思――“排除”という決定だけが宿っていた。


デラートが口元を歪める。


「裏切り者が分かりやすく動いてくれるとは、助かりますね。

蒼井レイモンド、正式に“反逆者”として記録します。即時排除、でよろしいですか?」


「構わん。あれはもう、我が血を継ぐ者ではない。」


その会話を、独房の奥、わずかに開いた排気用魔導孔から、ひとり聞いていた男がいた。


エリック・モーガンは、背を壁に預け、低く笑う。


「……ついにやったな。俺も覚悟決めるか…。」


壁に凭れながら、彼は静かに目を閉じた。


「後は……思いっきり暴れてくれよ。騎士じゃない、お前自身のやり方で。」


---


前線の部隊は今か今かと突撃命令を待っていた。


アル=ザフル騎士団とノア連邦軍による合同部隊。

その中央本陣。

テントの奥では、地図と作戦図が並び、火晶ランプが沈んだ赤い光を灯していた。


「民間人の避難? 断る。あれは灰狼旅団に協力した者たちだ。

――協力者に慈悲は不要。」


騎士団司令のデラートが、涼しい顔で言い放つ。


「全方位から同時攻撃。魔導砲は村の中心、反応の強い拠点を狙え。

……子どもがいようが構わん。」


「構わぬ。全て“反乱者”として記録されるだけのことだ。」


その横で、まるで石像のように座していたのは、ノア連邦元帥――

グレゴール・ヴァルデンベルク。


誰もが沈黙する中で、ただ一人、静かに声を上げた者がいた。


「……失礼ながら、元帥。お伺いしてもよろしいでしょうか?」


テントの縁から現れたのは、若き副隊長――エリック・モーガン。

彼の表情には笑みがなかった。

瞳には、鋭利な冷たさと熱が同居していた。


「この作戦、明らかに“虐殺”としか言えないものです。

アルカセラフィム教は、“無抵抗の者を殺すな”と教えているはず。

ノア連邦の法もまた、“民を守る剣であれ”と騎士に誓わせている。」


周囲の空気が凍る。


「――貴様、何を言っている!」


「私は問うているのです。

“理想と教えをかなぐり捨てて、国家や宗教の名を使い、ただ命令に従う”。

それが本当に、騎士のあるべき姿なのかと。」


ざわめく参謀たち。

若い騎士たちの何人かが、一歩、後ずさる。


「……副隊長殿、それはさすがに……!」


「静まれ!」


ヴァルデンベルクの声が低く、重く響いた。

それだけで、誰もが口を閉ざす。


「貴様は何を騎士だと定義している? 誓いか? 慈悲か? 」


「“己の信念”です。

命令がどれほど高位のものであろうと、

それが人の道に背くなら、剣を止める勇気を持つ者――

それこそが、本当の騎士です!」


「……ほう。」


グレゴールの眼が細め、微かな笑みを浮かべた。


「ならば、貴様は“騎士失格”だ。

命令に従わず、勝手な理想を語る反逆者に、騎士の剣は持たせておけん。」


デラートが立ち上がる。


「反逆罪にて、拘束。尋問後に処分を決定する。連行しろ!」


周囲の兵が動いた――だが。


「来るなら、黙って捕まると思うなよ!」


エリックが拳を握り、最初の兵士の腹部に突き入れた。

鋭い膝蹴り、回し蹴り。

次々に兵士が倒れる。


「副隊長! やめろ、命令違反だ!」


「だったら、命令を止めろ!!」


殴るたび、彼の拳には迷いがなかった。

それは信念を通すための暴力であり、言葉を持たぬ訴えだった。


だが――数の暴力は、やがて彼を押さえ込んだ。


押し倒され、拘束具をかけられながらも、エリックはなお叫ぶ。


「俺は間違っていない!

正義を名乗る者が、人を焼き払うな!!」


「黙れ……やっぱり貴様、あの裏切り者の蒼井と繋がっていたな!」


アルザフル側の副官が吐き捨てる。


「こんな反逆者は、戦場に置いておけん。

地下に放り込め。封鎖陣付きの独房にでもな。」


--------


爆音。

火柱。

裂ける空気に、血と砂の匂いが混ざる。


村の北側、防衛線の最前で――蒼井、レオン、カイルが、まさに三方向から敵軍をなぎ倒していた。


「レオンさん! 魔導砲、こっちにもう一台ある!」


「任せろッ!」


雷光が弾ける。レオンの魔導剣が放つ一閃が、地面を伝い砲台ごと吹き飛ばす。


「おいレイモンド! 背中、預けるぞ!」


カイルが叫びながら蒼井の側面へ走る。敵の二人が挟み込むように向かってくる。


「来い……!」


蒼井が呼吸を整え、剣を逆手に構えると、敵の一人を流れるように崩し、カイルの大剣がもう一人をまとめて吹き飛ばす。


「……悪くねぇな。こういうのも。」


「自分が共闘という選択を選ぶというのに驚きだ。」


蒼井は低く応える。


彼の剣は、もう迷っていなかった。

振るうたび、守るべきものが見えてきた。


自分が“騎士”と名乗っていた頃には見えなかったもの――

この旅団の男たちが、命を懸けて守っている「日常」だった。


「レオン。北東に砲兵の本隊。遮蔽も薄い。

 狙える!」


「了解。そこを潰せば、村の裏道が生きる。避難ルー ト、確保できるぞ!」


その言葉に、蒼井はうなずいた。


「ここからが、正念場だ。俺は先に、北側の魔導遮蔽塔へ向かう。

砲兵の視界を潰す」


「おうよ! 好きにしな!」


「道を開け!」


カイルが咆哮と共に突撃し、蒼井がその隙を縫って疾走する。


もはや、“敵”だった者はそこにいなかった。

剣を振るう理由が交差した時――咎も名も超えて、ただ一つの意志が生まれた。


---


遠く、村の中央では、

旅団の一部が子どもたちを安全な地下避難路へ誘導していた。

空にはまだ煙が残り、地面には熱が宿る。


それでも、その中心には剣を掲げる者たちがいた。


「みんな、生きて帰るぞ!」


レオンの声が響く。

その声に、蒼井も、カイルも、言葉はなくとも呼応していた。


---


そして、作戦本部では――


「砲陣が、次々と沈黙……! 何が起きている……!? 包囲が……破られ……。」


幕僚たちがざわつく中で、グレゴール元帥はただ、地図を見つめていた。


「……やはり、あいつは逆らったか……。」


その言葉は、呪詛でも後悔でもない。

ただ、起こった事実を認めることしかできなかった。


---


地下牢では、エリックが薄く目を閉じてつぶやく。


「さあ、レイモンド……見せてくれよ。

お前が“守るための剣”で、この地獄をぶち壊してくれるところを……!」



灰狼旅団のボスであるレオンと蒼井の父のグレゴールのイメージビジュアルの作成が難しく、イメージは出来てるのですが、なかなか出来上がってない状態です。

蒼井とカイルは出来ていて、Xやカクヨムで公開中です!

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