第24話 裏切りの先に立つ者
後何話で灰狼の誓いは終わるのか構成していますが、まさか10万文字を超えるとは思ってもいませんでした。
連合騎士団の中央塔と別棟を結ぶ、宙に浮かぶ橋の上。
赤く沈みゆく太陽が、砂塵の向こうに揺れている。
その夕焼けを背景に、二人の男が向かい合っていた。
一方は、レオンの大切にしていた魔導大剣《蒼雷》を携える灰狼の《カイル・マクレガー》。
もう一方は、黒い刀身の大剣の剣先をカイルに向ける《レオン・ヴァルグレイ》。
先に動いたのは、カイルだった。
「いくぞ!!」
叫びと同時に、大地を蹴るような音が橋を鳴らした。蒼雷をまとった大剣が唸りを上げ、上段から叩きつけられる!
レオンは黒鉄の大剣でそれを受け止める。その衝撃で両者の足元の床が砕け、石片が宙に舞う。
カイルは叫ぶ。
「仲間を裏切ってまで……てめぇ、クズ共の言葉信じてザフィーラ復活のために灰狼をぶっ壊す気かよッ!」
「っ黙れッ!!
お前にはわかねえだろ!本当の絶望を!」
レオンの斬撃が、風を裂いて横に薙がれる。剣筋は鋭く、正確。だがそれを、カイルは髪一筋分だけの回避でかわす。
そこから二人は矢継ぎ早に斬りかかり、剣を打ち合わせる。
金属がぶつかる音が、連続する稲妻のように鳴り響いた。
カイルの一撃にレオンが体を捻って応じ、次の瞬間、回し蹴りがカイルの腹部を直撃する!
「っのやろう……!」
吹き飛んだカイルは、橋の縁で足を踏みとどめ、息を吐いて顔を上げた。
「今までどういう気持ちだったんだよ!
テメエが率いてきた灰狼はあちこちで人を助けて、悪党と戦ってきた。
それは全部政府とのくだらねえ金稼ぎのためか!?」
「そうだ!
お前はまだガキだからわかんねえ。
金がなくては灰狼の皆も養えなかったし、ましてや生きていくことすら不可能だったんだ!
いくら俺達が街や村を救ったって貧しいこの国じゃ大した金にもならねえ。
政府と繋がらなきゃ、やっていけねえんだ!」
その言葉に、カイルの表情が強張り、呆れ返る。
「まったく情けねえよ……。
俺は小難しいことはわかんねえが、これだけはわかる!
テメエは情けねえよ!」
「言ってな…そういうことは俺を倒してから言え。」
レオンの剣が地を裂くような勢いで突き出された。カイルは斜めに身を引き、ギリギリでかわすと、反撃の一撃を叩き込む。
剣と剣が打ち合わされ、火花が飛び散る。
二人の戦いは、剣術だけではなかった。
カイルの右ストレートをレオンがかわし、左肘で打ち返す。
レオンが前蹴りを放つと、カイルはそれを受け流して足を払う。
互いの肉体全てが激しく交錯する、まさに死闘──
だが、わずかに──本当にわずかに、カイルの方が上回り始めていた。
レオンの動きに、疲れが見え始めたのだ。
「はぁ……はぁっ……っぐ……。」
「息、上がってんぞ。昔のお前なら、こんなモンじゃなかったろうがよ……。」
「……フフ、そうかもな。」
その瞬間、レオンは懐から禍々しい黒い魔導石を取り出し、剣に嵌め込む。
次の瞬間、黒鉄の大剣が唸りを上げ、禍々しい漆黒のオーラを吹き出す。そのオーラはレオン自身をも包み──
彼の両目が、紅に染まった。
「ぐおぉぉぉ!!これが……封印されていた禁忌の力!! 黒き力よ……俺にすべてを与えろッッッ!!」
「マジかよレオン……!
地に落ちたな…。」
カイルの言葉と同時に、レオンの動きが一気に変化する。速度、重さ、切れ味──全てが桁違い。
鋭く振り抜かれる斬撃は、カイルの防御を容易に崩す。
だが──
「蒼雷、こんなレオン呆れたろ!もっと速く動け……!!」
カイルの剣もまた、応じるように雷を纏い、より鋭く閃いた。
今や二人の剣戟は、視認すら困難なほどの高速でぶつかり合う。
「うおぉぉぉおおおおっっっ!!」
「死ねぇぇぇええええッッ!!」
狂気にも似た叫びが橋を揺らす。
そして──
カイルは最後の一閃で、今までにない雷を纏った斬撃が繰り出された!
その刃が、レオンの黒鉄の大剣を砕く。
すかさずカイルの鉄拳が、レオンの顔面に炸裂。
レオンの体が吹き飛び、橋の中央に転がる。
苦しげに血を吐きながら、レオンは膝をついた。
「まだだ!! まだ終わっちゃいない!!
俺は負けてない!」
膝をつき取り乱すレオンを見つめるカイルはゆっくり歩み寄りながら口を開く。
「なあ…こんなことしてまで政府に従う理由はなんだ?
金とザフィーラを生き返らせるためだけなんて、いくら俺でも信じらんねぇ…。」
レオンはその言葉に少し焦りの様子を見せる。
「世界ってのはな…。お前が思ってるよりもずっと危険なんだ…。
正義を貫くことの難しさは雷に当たるより難しいのさ…。
いいか…カイル。アルザフル政府のカシアンには気をつけろ!関わるな!
……奴は…!」
その刹那──
「──おやおや?愛する者のために愛する者を殺そうとする……それもまた人間らしく美しいですね。
話はここまでです。
レオン…退っていいですよ。」
凍るような声が、橋の反対側から響いた。
暗黒の外套に身を包んだ男、カシアンが姿を現す。
その背後には、唸り声を上げる複数の強化ゾンビ兵──
レオンはカシアンの一瞥にその意を察し、カイルに背を向けて、ふらふらとカシアンの方へ歩き出した。
「おいっ、レオン!! 戻れ!! テメェ、逃げんのかよ!!」
叫ぶカイルに、返答はない。
カシアンの冷たい笑顔はカイルを見た途端、悪魔のような形相に変わった。
「出来損ないの虫けらの分際でザフィーラのお気に入りか…。
早く殺せ…。」
カシアンが指を鳴らすと、ゾンビ兵たちが一斉にカイルに襲いかかる!
「チィッ……! レオン……ッッ!!」
剣を再び構え、カイルはゾンビの軍勢に立ち向かう。
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中央塔の内部。
幾重にも重なる石壁と冷たい気配が満ちたその空間は、静かで……不気味なほどに整然としていた。
蒼井、エリック、ライザの三人は、物音ひとつ立てぬよう慎重に階段を上がっていった。
敵兵の姿はない。感知システムの反応もない。──だが、それが逆に不自然だった。
「……奇妙だ。」
蒼井が小声で呟く。足音すら床に吸い込まれていくような静けさの中で、その声はひどく重く響いた。
蒼井の背中に手を添えてついていくライザも不気味に感じていた。
「警備がなさすぎる。こんなにも簡単に……侵入できるわけがないのに。」
ライザが警戒を強めながら周囲を見回す。
「罠じゃないか?」
エリックの声には明るさがあったが、既に腕輪の魔導石にしまっている盾を取り出している。
「……そうだろうな。だが、進むしかない。」
蒼井がそう返すと、三人は互いに頷き、目線だけで意思を交わした。
レオンはカイルに任せている。
カイルを信じ、俺達は──デラートを討つ。
歪んだ正義を終わらせるため、立ち止まるわけにはいかない。
しばらくして、石階段を登りきると、ついに中階の広場に辿り着いた。
高天井に吊るされたシャンデリアが、淡く鈍い光を落としている。
広場は静かで、奥の空間には何の装飾もなく──まるで決闘場のようだ。
そこに一人の男が佇んでいた。
「……っ!」
三人の動きが止まる。
広場の中央、静かに剣を床に突き立て、瞑想するように目を閉じる男。
──その風貌。その気配。その威圧感。
蒼井の眉がピクリと動いた。
「……グレゴール。なぜここに。」
ライザも、思わず息を呑んだ。
「こんな……簡単にここまで来れたと思ったら……待ち構えてた、ってこと……!?」
エリックはわずかに歯を食いしばる。
「グレゴールさん…。あなたが相手ですか…。」
次の瞬間──グレゴールは目を開き、三人を見据えた。
射抜くような視線。悪魔のように冷たい眼差し。
そしてその口元が、わずかに動く。
「……待っていたぞ、レイモンド。
今回は相棒のエリックと……うむ…そこのお嬢さんは確か刑に処された武器製作者の女の連れか。」
ライザはグレゴールを見て、微かに蒼井レイモンドと同じ雰囲気を感じる。
「なんか目の冷たさと堂々とした雰囲気。
もしかしてあの人が蒼井のお父さん…?」
蒼井は、感情を殺した声で言った。
「そうだ…。
しかし、あんたがなぜここにいる。……どうして、俺たちが来るとわかった!」
グレゴールは、ゆるやかに剣を抜きながら答えた。
「貴様の昔からの往生際の悪さを考えれば、必ずこの塔を目指し、テロリストのリーダーを助けるため、そしてデラートを殺すために来ると容易に想像がついた。」
──すべては見透かされていた。
父は、己の息子すら“戦略”のひとつとして待ち構えていた。
グレゴールは一歩、剣を引きながら構えを取る。
「私はノア連邦の権威を再び取り戻し、己が英雄たる力を証明せねばならん。
……そのために、お前たちにはここで“散って”もらう。」
空気が更に重くなり、殺気が支配する。
蒼井は静かにアマツ刀《雪霞》の柄に手をかけた。
「今回はいつものように部下を囲まず、一人でとは、あんたらしくもない。」
「フンッ!侮るな!
私の英雄たる力を持ってすれば部下なぞいらんわ!」
「英雄か…。なら、まずは貴様を討つ。それが、歪んだ正義を終わらせる一歩だ。」
今、三人の刃が、再び英雄に挑もうとしていた。
ご拝読ありがとうございました。
レオンは年齢は42歳、死んだ時のザフィーラの年齢は39歳。
そして蘇生されたザフィーラは、操作により29歳の肉体です。
カシアンの好みで調整されています。




