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咎に咲く、暁の華 -灰狼の誓い-  作者: 月嶋ネス


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第0話 黒い導火線(ブラックトリガー)

いきなり前日譚から入るのではなく、本編からはじめた方が入りやすいということで、今回新しく第0話として執筆しました。

小説家になろうではエピソードの順番を変えられないので、0話として公開します。

なのでこれが実質1話なので、ここからが始まりです。

死隠部隊創設と本編のストーリーに繋がるものになっています。

 空は灰色に曇るノア連邦国、南部地方のアグニス自治区の地平から黒煙が天を突いていた。

 平和と繁栄を誇ったこの都市は、今や業火に呑まれようとしている。



「……到着したな。」


 飛空艇の甲板に立ったのは、蒼井レイモンド。鋭い目の奥には、冷徹な決意が宿っている。

 


「やべぇなこりゃ……想像以上だぜ。」


 カイル・マクレガーは大剣を担ぎながら、黒煙が立ち昇る街を見下ろして呟く。鼻につく焦げ臭さと、遠くから響く悲鳴に、自然と眉をひそめた。



「この炎の中心に、“悪魔”がいる……。どんな奴なんだ…。」


 そう言ったのは、部隊の中で最も若い暁月シュウ。真新しい剣を握り、瞳に宿した決意は大人びていた。



 死隠部隊──

 世界のあらゆる悪を裁く、わずか七人の影の騎士。今、その三人が最前線に立っていた。


 

「いくぞ、二人とも。目標は“悪魔の討伐”。

この様子では市民は…生き残りがいてもごくわずかだ…。

 容赦なく行くぞ。」


 蒼井の指示に、シュウとカイルは黙ってうなずいた。



 そして三人は、崩れかけた建物の狭間を駆け抜ける。焦土の匂い。焦げた鉄の味。熱風が肌を刺すたび、緊張が高まっていく。

 

 遠くの方から、叫び声がした。


「ギィ……ィアアアアアアア!!」


 異形の咆哮が天を裂く。



 街の中央広場。炎の渦の中心に、それはいた。身長は二メートルを超え、裸に見えるほど布のない肢体。全身を包む赤黒い魔紋が、まるで血のように蠢いている。瞳は紅く、とてつもない憎悪を感じる。」



「悪魔か。」


 蒼井が囁くように呟いた。



「うわ……女、か……? つーか、裸じゃねぇか……。」


「でも……泣いてる?」


 炎を放ちながらも、炎の悪魔は確かに涙を流していた。


 

「今すぐやめろ。これはただの無差別殺戮だ。」


 蒼井の声に、悪魔がゆっくりと振り返る。


「これは復讐よ。人間共は醜く、汚れている!」


 その声は哀しく、そして怒りに満ちていた。


 その言葉にカイルが歯噛みする。


「それで無関係な人間まで焼き払うのかよ! 自分勝手してる時点で、お前はしっかりと“悪魔”してるんだぜ!」



「黙れッ!!人間は皆殺しだ!!」



 悪魔が雄叫びを上げた瞬間、周囲の空気が一変した。魔力の渦が炸裂し、業火の奔流が三人を包み込もうと襲いかかる!


 

──即座に、三人は応戦体勢に入った。



 蒼井は古来から続くアマツ国の魂。アマツ刀"雪霞”を抜き放ち、空を斬る。

 カイルは大剣を構え、真正面から打ち砕く構え。

 シュウは剣の起動石に魔力を込めて、青白い光を剣身に纏わせた。


 

「行くぞ──!」


三人と悪魔の壮絶な戦いがはじまる。


悪魔は雄叫びをあげ、腕を振り抜く。


 その瞬間、火柱が三本、地面を破って一直線に三人へと襲いかかってくる。


 

「クッ…!」蒼井が横跳びで避ける。



 その刹那、右手に握る“アマツ刀・雪霞”が、風を裂いて一閃を放つ。


 斬撃は炎を切り裂き、悪魔の右腕へかすり傷を与える。


「人間にしてはやるな!」


 カイルは横から猛突進、巨躯に似合わぬスピードで距離を詰め、重量感たっぷりの大剣を真横に振るった。

 

「食らいやがれッ!!」


 炎の悪魔は咄嗟に翼を展開し、受け止める!


 ギギギッという不快な音を残し、カイルの剣は悪魔の翼の鱗のような外骨格に弾かれる。


 

「ちぃっ、硬ぇな……!」



 その間にシュウが背後から飛びかかる。


 両手に構えた魔導剣が、炎の中をすり抜けて背中を狙う!


「はっ!」


 しかし、振り返ったイグナリスの爪が魔導剣を弾く。


 シュウは体勢を崩しながらも後方に回転して着地。


 

「反応が速い…!」


「たった三人で私を制しようなど舐められたものだな!!」


 炎の悪魔の瞳が更に赤く光り、その両手から一気に火焔が広がる。


 炎が広がると同時に、地面が爆発。


 爆風により、カイルと蒼井はそれぞれ弾き飛ばされ、シュウもバックステップで間合いを取る。



 蒼井が息を整え、雪霞を握り直す。

 

「カイル、どうだ?」


「ああ。全然いける……って言いたいが……!」


 カイルが構えた大剣がぐらつく。


 見れば、根元に深い亀裂が入っていた。


「剣が──ヤバい!

 クソっ!黙ってライザのを受け取っておくんだった!」


 シュウはカイルに少し呆れて言った。


「カイルさん…! いい加減そのプライド捨てましょうよ!」


「うるせえな!ガキが俺に物言うな! 行くぞ!」


 その瞬間、カイルが体を回転させながら大きく踏み込み、真正面から悪魔へと再突進。


 全力の一撃を放った──!


「おおおおおおッ!!」


 

 ズガァンッ!と直撃。

 悪魔の胸元に深く斬撃が走り、灼熱の血が噴き出す。


 だが──遂にその衝撃で剣が砕けた。


 「ッ、折れちまったかっ!?」


 

 大剣の刀身が折れ、カイルの手には残骸だけが残る。


 蒼井とシュウが即座に反応。


「下がれカイルッ!」


「今だ!」


 蒼井は一気に間合いを詰め、刀を振り抜く。


 シュウも反対側から交差するように突きを放つ。

 

 二つの刃が、悪魔の両肩を切り裂いた。


「ぐあっ──ッ!!」

 

 地に膝をついた悪魔の体から、黒い灰がふわりと舞い上がる。

 その瞬間まで満ちていた憎悪の気配が、嘘のように静まり返った。


 燃え尽きるように、悪魔の瞳から光が消える。


「なぜ……どうして……私は……。」



 蒼井とシュウは悪魔のもとへ近寄り、シュウは話しかけた。


「……なぜこんなことを…。」

 

 悪魔はシュウの顔を見ると静かに答える。

 その瞳にはさっきまでの憎悪の念がなくなっていた。


「私の名はイグナリス。原初の時代、天使として人間を炎の力で見守っていた。

 しかし、ある時人間共は我が子を殺し、私を辱めた……!」


 蒼井とシュウはその言葉に沈黙した。


 イグナリスの炎が萎んでいく。声も震えていた。


「私は神の使いとして人間を導いたが、全て裏切られたのだ。

 そして、私は天使であることをやめ、人間を殺し、そして堕天した。

 堕天の王であり、悪魔の王であるルシファーと共にこの世界の秩序を創り出した神を殺すため、それに従属する人間共を皆殺しにすることを誓ったのだ。

 しかし、私は人間の騎士に殺され、地に沈んだ。

 それを無理やり何者かが蘇らせたのだ…。」


 その話に蒼井は何も言わなかった。

 ただ、イグナリスの言葉の重さを真摯に受けとめた。


「……その何者かとは、誰なんだ?」

 

「……わからない、何百年、何千年経ったのか……私が蘇った時は人間への深い怒りのみで気がついた時はこの場所に解き放たれていた。

 でも──私は改めてすべてを知った。

 人間に救う価値など……ない……!」


 蒼井は一歩踏み出て、イグナリスに囁いた。


「確かに、人間という存在は愚かな行いばかり繰り返す。だが、無差別に殺戮を犯せば、心優しき者、正義を胸に生きる者、何の罪もない動物達も犠牲になるんだ……!」 


 いつも口数の少ない蒼井が熱く語った。

 するとイグナリスは蒼井とシュウの方をゆっくりと見つめた。


「お前達は人間ではないな……私と同じ魔を感じる……。 そこの黒髪の男……。

 お前は……いや……あなた……は……。」


 シュウを見て何かを感じ取ったイグナリスは、驚いたように背から翼を広げると、炎が一度だけ燃え上がったがその炎は力なく、すぐに消えた。


 そして──彼女の身体は静かに灰になって崩れていった。



 燃え残ったものは一つ。

 足元に黒く禍々しく光る魔導石──。


 蒼井が黙ってそれを拾い、見つめた。


「……この石……まさか。」


「……間違いねえな。」


 カイルが近づき、顔をしかめる。


「こいつは、あの時のアルザフルで見たな……。」

 

 蒼井が頷き、シュウが不安げに問う。


「“あの時”って……?」


 蒼井は答えず、静かにポケットに魔導石を収めた。


「まずは……俺たちで調べる。話はそれからだ。

 早く引き上げるぞ、後は騎士団の仕事だ。」



 その時だった。


 遠くから砂煙を巻き上げて、ノア連邦の騎士団が飛空艇で到着した。

 十数人の武装した騎士たちが、焼けた瓦礫の上に降り立つ。


「死隠部隊の皆さん、ご苦労様です。悪魔の討伐、見事でした。」


 リーダー格の男が敬礼をする。


「だが、その場に残った“魔導石”はこちらで回収します。国家機密ですので。」


 蒼井は、じっと相手を見据え言った。


「お前はエスパーか何かか? よく魔導石を持ってるとわかったな。」


 蒼井の物怖じしない一言が、空気を凍らせた。


「なんとなくそれっぽいのをポケットに入れるのを見たもので……。」


 カイルが一歩前に出る。「ハッ!嘘つけマヌケ!

 テメェらみてえなクソ忠に渡すもんはねえよ。さっさと後片付けに入れ。」


「……騎士団ともあろう者達が……あぁ、あなた方は死隠部隊でしたね。

 名誉と誇りある我々騎士団とは違う、無法者のような存在だ。

 よく今までこうして生きてられましたね。

 しかし、今回ばかりは我々に従ってもらう。

 そうでないと反逆罪になりますよ。」


 騎士団たちが剣に手をかける。


 シュウも構えながら言った。「……私たちは命懸けで止めた。反逆者呼ばわりされる筋合いはありません!」


 その瞬間、蒼井は懐から“何か”を取り出し、無言で投げた。

 それは黒い魔導石だった。


「……ほら、持っていけ。」


 蒼井の声に、カイルが叫ぶ。「おいレイ! 本気か!?」


「仕方ない。」


 蒼井はあっさりとした口調で返す。


 騎士団の男がそれを拾い上げる。


「フンッ、賢明な判断だ。 さて、後はお前達と処理班に任せる。私は私の仕事があるんでな。」


 リーダー格の騎士はそう言うと、さっさと飛空艇に戻っていき、残りの騎士達は後続の処理班と鎮火に入った。

 その背中を見送ると、三人は自分達の飛空艇へと戻る。



*****


 カイルがすぐに問い詰める。「なんで渡した、あんな野郎に!」


「落ち着け。あれは偽物だ。」


 蒼井は静かに笑みを浮かべながらコートの内ポケットから黒い魔導石を取り出してみせた。


「あいつに渡したのはユミナが造った、フェイクの黒い魔導石。こんなこともあろうかと用意していた。」


「おいマジかよ……あの天然、すげぇな。」カイルが驚嘆する。


「そして、これが本物だ。」


 シュウとカイルは息を呑む。


「これで、また真実に近づける。」


 しかしシュウは少し不安げに聞いた。


「でも、もし偽物だとバレたら…。」


「もし上の連中がいつも通り圧力をかけてくるか、口を封じに殺しにでも来たら──お前の好きなやり方だ、カイル。」


「はは!返り討ちにぶっ殺す!」


 カイルがにやりと笑う。

 そして、蒼井は手に持つ禍々しい魔導石を睨みながら続けた。


「さっきの奴の感じだとこの魔導石はこの国ノア連邦が関わってる。

 だがこの魔導石は十六年前、アルザフル王国が裏で造っていたものだ。」


 シュウはそれを聞いて、蒼井に前のめりで聞いた。


「十六年前のアルザフルっていうと……カイルさんがいた傭兵団、灰狼旅団のことですか?」


 蒼井は答えず、静かに頷いた。

 しばし、燃えた大地の名残を見つめる。


 カイルが不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「まさか……ノアとアルザフルが、当時から繋がってたってのかよ。ったく、どこまで腐ってやがんだ。」


「いや、そうとも限らん。」蒼井が低く呟く。


「この国の上層は……ずっと前から、“灰狼”の存在を消したがっていたことは知っていた。

 真実を知り、反旗を翻した連中を──“テロリスト”に仕立て上げたんだ。」


 シュウは息を呑んだ。


「カイルさんから聞きましたが、やっぱり……。」


「そうだ。前にも話したろう、だから俺は一度騎士団を裏切った。」


 蒼井は、魔導石をポケットにしまい込んだ。


「奴らの正義なんてものは、掲げた者が勝てば、それが正義になる。だが──。」


 カイルが続ける。


「正義と悪なんて概念は存在しない曖昧なものなんて言葉があるが、そんなのは考えること、感じることをやめたバカ共の戯言だ。

 俺はあの時ハッキリとそれを知ったんだ…。」


 蒼井は空を見上げる。燃え尽きた空に、雲がゆっくりと流れていく。


「……灰狼たちが命を懸けて守ったもの。それはこの死隠部隊の基礎になっている。」



 飛空艇の甲板に立つ三人の背に、沈みゆく赤い太陽が陰を落とす。


 ──そして、物語は、十六年前の“灰狼の誓い”へと時を遡る。


 かつて歴史の裏側に消された者たちの物語が、再び動き出す。


 飛空艇は静かに浮上し、焼け焦げた街を背にして、夜の空へと飛び立っていった。

ご拝読ありがとうございました。


ここから16年前の灰狼の誓いのストーリーになります。

外伝としてではなく本編に繋がる大切な前日譚です。

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