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第14話 暴走の剣、失われし声

今回はグレゴールとレオンの決着がつき、物語は新たな局面に踏み出します。

本編よりもこの灰狼の誓いは王道に近い進行ですが、これからどんどん咎華らしくダークに向かいます。

 夜の空気は、静まり返っていた。


 砂漠の街に広がっていた黒い霧はすでに晴れ、

 通りにはかすかに風が吹き抜ける音だけが響いている。



 シエラは、路地裏の石壁に手をついて、何度もゆっくりと呼吸を繰り返していた。


 広範囲に展開した空間支配魔法《静界》の余波が、まだ身体に残っている。


 「……ふぅ……。」


 魔力の揺り返しはすでに弱まりつつあった。

 少しずつ手足の感覚も戻り、息も整ってきた。


 もうすぐ――動ける。


 そんな時だった。


 「おい、シエラ!」


 駆け寄ってきた声と足音。

 その声の主は、カイル・マクレガーだった。

 背後には、ライザ・ヴァレリアとエリック・モーガンも続いている。


 

 「大丈夫かよ、無茶したんじゃねぇのか……?」


 

 「……カイル、ライザ、エリック……!

良かった、無事だったんだね。」


 思わず立ち上がろうとするシエラだったが、まだ足がふらつく。


 その体を、すかさずライザが腕を回して支えた。


 「ほら、無理しないの。全身汗まみれじゃん。」


 「……ありがとう、ライザ。でも、私はもう平気よ。

 あと少し休めばすぐ動ける。」


 

 ライザは口をすぼめながらも、シエラの肩をそっと撫でた。


 

 「ったく、シエラも頑張りすぎなんだってば……。」



 エリックが腕を組みながら、周囲を見渡す。


 「……シエラ、いったい何があったんだ?

レオンと蒼井や他の皆は?」


 

 シエラは真っ直ぐに答えた。


 

 「さっきまで敵の闇魔法で人を洗脳する黒い霧がこの街全体を包みこんでいたの。

 少し離れた場所に、その洗脳を受けていた灰狼旅団の仲間が五人いるわ。

 大丈夫…私の魔法で眠らせて、霧も晴らした。 

 それから……レオンと蒼井君が、村人たちを迎えに旧寺院跡へ向かったわ。」

 


 その言葉を聞いた瞬間、三人の顔に緊張が走った。


 カイルが少し慌てて聞いた。


「あいつらが…ホントに大丈夫なのか?無事なんだな!?」


 シエラはカイルの目を見て微笑んで言った。


 「ええ、大丈夫。ちゃんと私の魔法が効いたから、後は目を覚ますのを待つだけ。」


 カイルはそれを聞いて安心したように息をつく。

 隣のエリックが口を開く。


 「……そうだったのか…。それじゃあ、俺はレオンとレイの所に向かう。」


  カイルは眠っている仲間達の方を向いて言った。


 「じゃあ俺は仲間の様子を見てくるぜ。」


 そう言って、カイルは仲間達の元へ駆けていった。


 カイルを見送るとシエラはライザとエリックに真剣な眼差しで口を開く。

 「あの二人が心配……行きましょう。」


--------


 剣が火花を散らし、石畳を抉った。


 グレゴールとレオンの戦いは、激戦を極めた。


 雷と炎の両属性の魔導剣を振るうグレゴール。


 青白い雷光を纏う大剣、蒼雷を駆るレオン。


 互いに一歩も退かず、剣と剣がぶつかるたびに激しい衝撃音が鳴り響く。


 

 だが、均衡は――次の瞬間、崩れた。


 

 「……終わりにしてやる。

完膚無きまでに叩きのめす!」


 

 グレゴールが懐から、赤黒く鈍く光る魔導石を取り出した。


 

 それは、通常の騎士が使う魔導石とは異なる禍々しい波動を放っていた。


 

 レオンが警戒しながら距離をとる。


 

 「テメェ、それは……。」


 

 グレゴールは無言のまま、自身の魔導鎧の心臓部――既に装着されている魔導石と、

 その赤黒い石を“交換”するように押し込んだ。


 

 直後、彼の全身に強烈な痛みが走る。


 「ッ……くぅぅあああああッ!!」


 

 咆哮にも似た叫び声が、夜空に響き渡る。


 

 鎧の魔導管が赤黒く脈打ち、身体にも影響があるのか筋肉が膨張し、血管が浮かび上がる。


 その姿は、もはや人間の限界を超えた“暴走強化”だった。


 

 レオンが息を呑む。



 「……マジかよ。テメェ自分を壊す気か……!」



 だが、その刹那――グレゴールが地面を割るほどの勢いで踏み込み、

 一直線にレオンへ突進してきた。


 

 剣を振るう。

 雷と炎を纏った一撃が、鋼鉄のような質量と速さを伴って迫る。


 

 レオンは蒼雷を構え、必死に受け止めた。


 「ぐっ……!!」


 

 身体ごと押し込まれるような衝撃。

 足元の石畳がひび割れ、全身に震えが走る。



 (ヤバい……本当に、化け物かよ……)


 汗が滲む。息が荒くなる。


 それでも、レオンは前を見据えた。


 (……負けねぇ。絶対に――ここで、引くわけには……!)


 

 だが、次の瞬間――


 

 グレゴールの雷炎を纏った剣が一閃した。


 

 蒼雷が弾き飛ばされ、空中で回転しながら地面に突き刺さる。



 レオンの胸元へ、渾身の一撃が叩き込まれた。


 「うっ――!!」


 

 鎧が砕け、肉体が吹き飛ばされる。

 レオンの身体は寺院の壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。


 「はぁ……っ、く……そ……。」


 意識が朦朧とする。


 それでも、這うように手をつき、立ち上がろうとする。


 (立て……立て……!)


 その願いも虚しく、視界が闇に沈んでいった。


 

 倒れたレオンに、グレゴールが容赦なく剣を振り上げた。


 「終わりだ、反逆者!」


 

 だが、その瞬間。


 

 「よせ!!」


 鋭い声が戦場を裂くように響いた。


 カシアンが戻って来ていた。


 その目は冷静そのものだが、その声には明確な“指示”が込められていた。


 グレゴールが血走った目で振り返る。



 「何故だ!? 貴様、こいつが“反逆者”だと認めたはず!」


 「ええ、だからこそ価値があるのです。

 この男は使えます。捕らえましょう。

 これは国家間の“友好”のための、生贄になる男です。」


 

 グレゴールは数秒黙し、そして低く鼻を鳴らす。


 

 「……フンッ。政治というのは、いつでもくだらんものだ。」


 

 だが、従う。

 ゆっくりと鎧の心臓部に手を当て、魔導石を外した。


 

 赤黒く光っていた禍々しい輝きが、すっと消える。


 

 カシアンが手を振ると、後方からアルザフル騎士団の兵士が二人現れた。


 

 「この男を拘束し、連れていけ。

 ……この場は、もういい。

 引き上げるぞ。」


 兵士たちがレオンの体を引きずるように連れていく。


 レオンの大剣――蒼雷は、その場に残されたままだった。


 

 グレゴールが寺院の扉を見据える。


 「この中の連中はどうする?」


 

 カシアンは振り返らずに答えた。


 

 「然るべき時に――もろとも、始末します。

 今は……この成果を優先すべきです。」


 

 夜の闇に、足音だけが残された。


--------


 静まり返った旧寺院跡に、ひとりの男の足音が響いた。



 ダッシュで到着したのは蒼井レイモンドだ。


 

 彼は、わずかに焦りを含んだ顔で瓦礫を踏みしめながら、ゆっくりと歩を進めていた。


 

 「……誰も、いない……?」


 

 人の気配はまるでない。

 ただ、残された戦闘の“気配”だけが、肌を刺すように残っていた。


 

 辺りには、剣戟によって崩れた石畳。

 削れた壁、吹き飛ばされた柱、血のにじんだ跡。


 

 そして――焦げたような臭いと、微かに残る雷の残響。


 

 「ここで……激しい戦闘があったんだ…。」



 風が一筋、吹き抜ける。


 その風の中に、蒼井は確かに感じた。


 

 “父”――グレゴールの気配。


 

 それは、父から感じる気配の鋭さではない。

 もっと本能的な、“重さ”だった。


 

 「……あんた、ここにいたんだな。」


 

 視線を落とす。


 そこに、突き刺さったままの大剣が一本。


 

 レオンの蒼雷だった。


 

 蒼井はゆっくりと近づき、柄に手を添える。


 手に伝わる残留魔力は、確かにレオンのものだった。


 

 「……この剣を手放すってことは……。」


 

 言葉を飲み込んだ。


 だが、もうわかっていた。



 「……レオンは奴に捕まったのか…?奴らしくはないが…。」


 

 強く握った拳が、かすかに震えた。



 悔しさ、怒り、焦り。

 それらが混ざり合って、胸の奥を焼くようだった。


 

 「父上……。

 いや、あんたはもう、俺の知る父親じゃない!」


 

 蒼井は静かに、蒼雷を引き抜いた。


 その重さが、これから背負う覚悟の重さにも感じられた。


 

 「レオンは……必ず助ける。

 そのために、俺は“あんた”を――止める!」



 夜の静寂の中、

 その刃だけが、青く淡く光っていた。



 

ご拝読ありがとうございました!

この14話も3000字程で区切りましたが、いかがでしょうか?

コメントで短い、長いなど教えてくれるとありがたいです。

これから咎華らしくなっていきますのでお楽しみに。

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