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言の葉「短編小説」10年先

作者: 柚木紗奈



目が覚めると

清香は大きなため息をつく


「はぁ……」


布団から出ると

クローゼットをあけて、ハンガーにかかる服を、まるで雑誌を読むように適当に決める。


「これでいいか……」


服を布団に置くと

その服に着替えて、メイクは手抜き。

その程度でいい相手と私は会う


正直面倒だ

トンヅラしたい


そんなことを考えるとメールの通知音がなる


(あと30分後よろしく)


送り主は今から会う人

この打ち方が行く気を失わせる


深いため息を着くと、カバンを持ち、家から出発した。

あのメールからすると、あの人は着いているのだろう。


待ち合わせ5分前に、到着すると、案の定、きちっとしたスーツ姿に、ネクタイをした人が時計を片手に腕を組みながら指を肘に貧乏ゆすりのように叩いていた。


私の存在に気づくと、時計を見てから私の服装を上から下までチェックする。


横井という男は、

形式上彼氏という部類に入ると思う。

かれこれ、特別良い所もないのに3年の月日が流れている。

何故、別れないか?と周りに言われるが、私にも分からない。


「お待たせ。」

「あぁ……」


一言で、世間のデートは始まる。

周りは楽しそうに手を繋いだり、笑顔が多い中。

私と横井は特に話すことは無い。

横井は何が楽しくて私と会うのか?

全く理解はできないが、呼び出しがあると私は行かざる得ない。条件反射になる。


別に何かされたりはないが、あの真面目な圧に負けてしまう。


今日は電車で、どこかへ行くらしい。

どこに行きたいかとか聞かれもしない。

横井が行きたい所へ、私は着いていく。

その変わり、お財布は、いつも彼が払うのが自然な流れ。


横井が買い、横井が精算する。

私はただ、ついていく。


ただ、3年もいると、今日の横井はいつもと違う?

心做しか汗をかいている。

冷静沈着な彼には珍しい。

私の好きな、イタリアンの店がデートの夕飯みたいだ。


いつも通り、私は好物の明太スパを頼む。

彼はいつもの、ミートスパ。

そして、マルゲリータを、2人で食べる。

今日もよく歩いた。歩数計を見たら1万歩超えていた。


デザートを食べていると、彼の目が私と重なった。


俯く。何だ?

何か言いたいのか?

私はミルクティーをひとくち飲むと、カップを置いた。


「あのさ……」

「うん」

「あの……」


何か、この先を聞いていけない気がした。

だが、滅多に見ない茹でダコの横井が、やたら可愛い。


「なに?」


普通、出しやすいところに入れるであろうものをカバンの底から出している。

言わずともわかる光景だが、返事をどうしたものか。

そこに悩む。


やっとの事で出せた、よく見る小さな箱。


中身はわかる。

言わずともわかる。


「清香さん」

「はい」

「僕と……結婚してください」


お決まりの言葉と、彼にしては頑張ったであろう指輪。買うのにどれだけ悩んだか想像出来る。小さな宝石が散りばめられた指輪。石は、私の誕生石のエメラルドだ。


「ひとついい?」


はいと言われると思った横井は、私の言葉に驚いた。


「うん」

「横井くん、私の事、きちんと好き?守れる?」

「えっそれ聞く?」


おお?初の顔?ここで見る?真っ赤な顔で俯く。


「3年付き合ったけど、特別何も無く、愛されてるか分からない呼び出しで、デートか分からない付き合いしてきたと思うのね?」


「え?」


「手を繋いだことも無いじゃない?何か業務的なデートしかしてないのに、結婚でいいの?」


私に言われてるあいだ、彼の顔は100面相だった。


「いつも、デートしてたよね?」


「へ?」


「ぼく、ずっと、清香好きだよ?待ち合わせ場所に来ると、嬉しくて。」


うそ?真っ赤じゃない。


あーそうか。私が見てなかったんだ。今頃気づく。彼は、3年という月日をしっかり、育ててくれていたのか。


私が見てなかったんだ。


やっと見た彼の表情。

私はもっと見たいと思ってしまう。

彼の手に手をかさね。


「幸せにしてくれますか?」


目を見て伝えた私の前の横井は恐ろしい程、茹でダコだった。


あれから、10年の今も、その日の話を夫こと横井としてる。


私の彼を知るのは、結婚後だけど、それは秘密。

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