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プロローグ

「あたしはねぇ! あんたよりもモテてやるんだから!」

 いったい何の話だろう。はて、と首を傾げる。このポーズが、リンダにはとぼけているように見えてしまったらしい。

「あたしは()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ! みんなから愛される乙女になるの!」

 勝ち誇った表情を浮かべて、おーほっほっほ、と高笑いするリンダ。……どうしたのかしら?

 昨日までの彼女は、こんな性格ではなかった。少なくとも、わたしの知っている“リンダ”は、わたしをにらみつけてくるような子ではない。おとなしく、慎ましく、おしとやかな少女。頑固で、自分の世界を持っていて、信念を曲げない――わたしには、とてもマネできない。

「いいことを思いついちゃった。あなたはこれから、わたしの邪魔ばかりしてくるものねぇ?」

「え?」

「お父様に言いつけちゃおっと!」

「ちょっと、待ちなさい! 何の話よ!」

 くるっと身を翻してお父様の部屋へと向かうリンダを、追いかけるわたし。何が何だかわからないけれども、このリンダをお父様と対面させてはいけない気がしたの。

「きゃー!」

 追いかけてきたわたしに気付くと、リンダは()()()()()()悲鳴を上げた。一階でお掃除をしていたお屋敷のメイドたちの視線がわたしたちに集まる。そしてリンダは、()()()()()()()()()階段から転げ落ちた。

「えっ……」

 わたしはリンダを救おうとして手を伸ばしたけれども、間に合わない。リンダはごろんごろんと転がり落ちていき、階下に横たわった。

「わわっ!」

「リンダお嬢様ぁ!」

 メイドたちはお掃除の道具を放り投げて、リンダに駆け寄る。わたしも慌てて階段を駆け下りた。スカートの裾を踏まないように持ち上げながら。

「リンダお嬢様、しっかりなさってください!」

 わたしたち双子が生まれる前からこのお屋敷に勤めているメイド長のドロシーが、リンダの上体を起こす。ドロシーがリンダの頬を軽くなでると、リンダはぱちりと目を覚ました。さすがドロシー。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 目を覚ましての最初のセリフがこれである。いい加減にしてほしい。

「わたしがそんなことをするわけがないでしょう!?」

「ひっ!」

 わたしの大声にあからさまにびくついて、ドロシーの二の腕にしがみつくリンダ。すると、残りのメイドふたりが口々にとんでもないことを言い出した。

「で、でも、エディス様が、ねえ?」

「なんだか、言い争っているようでしたし?」

 階下からは『わたしがリンダを階段から突き落とした』ように見えてしまっていたらしい。リンダが悲鳴もどきを叫んだところからしか見ていないからだ。

「違うわ! リンダ(この子)がおかしなことを言い出して!」

 わたしを自室から廊下へとおびき出して、一方的にガミガミと言い始めたのはリンダなのに。わたしが主張すると、二人のメイドは目をそらしてきた。そんな……。

「……どうした。昼間から騒がしいな?」

「「お父様!」」

 二階から声がして、わたしとリンダは同時に反応する。わたしたちは学校の休日だから家にいるのだけど、王国軍で軍師を任されているお父様が在宅なのはめずらしい。たいてい、わたしたちの休日とはかぶらない。

 お互いに、この局面での救世主が現れた、と思い込んだ。わたしはお父様がわたしの味方をしてくれると信じていたし、リンダはその逆だ。リンダはお父様がリンダの肩を持つものとしていて、()()()()()()()()

「エディス! キサマ、リンダに何をした!?」

 わたしは、まず、我が耳を疑った。お父様が、わたしを『キサマ』と呼ぶなんて、ありえない。聞き間違いだろう。次に、我が目を疑った。お父様にあまりにも似ているからお父様と勘違いしているのであって、お父様ではない別の人間。そうに違いない。

「お父様! エディスは、()()()()()()()()()()()()()!」

「は?」

 今日のリンダはだいぶおかしい。わたしが、魔族の王と? ……そんなバカな!

 人間と魔族とは、この王国が始まる以前から敵対しているじゃないの。このわたしに、魔王とのコネクションがあるわけない。その姿を見たこともないわ。

「その証拠に、エディスの部屋から『魔法石』を見つけたのです!」

 リンダのポケットから取り出されたのは、キラリと光る六面体。この『魔法石』は、採掘される場所によって色が変化する。血のような紅色の石は、魔族の領地でしか採取できない。

「ちょっと! 何勝手に人の部屋に入っているのよ!?」

「後ろめたくて隠したいから、あたしに怒鳴っているのではなくて?」

「違うわ!」

「……エディス様、この『魔法石』はどちらで手に入れたので?」

 ドロシーが、わたしたちの言い争いに介入してきた。この場でのわたしの味方は、ドロシーしかいないのかも。

「わたしが懇意にしているグリード商店のオーナーが『特別に』と売ってくれたものです」

「本当かしら?」

 リンダが意地悪く口を挟んでくる。わたしは今、ドロシーに答えているのよ。

「おねえちゃんが魔族と仲良くしているなんて、がっかりしちゃう。学校で実技の成績がいきなりよくなったのって、魔族から教わったから?」

「違うわよ!」

「お父様ぁ、エディスってば、魔族と結託して国を転覆させようとしているんですよぉ?」

「何よそれ!」

「おおこわ。鼓膜が破れてしまいそう」

 さっきから妙なことばかりを口走る。わたしは、リンダのブラウスの襟をつかんだ。リンダはぐっとわたしの耳に顔を近づけて、こう、つぶやいた。


「プレイヤーキャラ・リンダの双子の姉であるエディスは、ほぼすべてのルートで王国軍を裏切って魔王軍につくのよねぇ。それなら! 今のうちから、大好きな魔族たちのところに追放してあげるわ。バイバイ、おねえちゃん」

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