第4話 『切り替えスイッチの行方』
時計の針は午前11時を指している。
あと1時間もすれば、このデスクを離れられる。そんな考えが頭の片隅にちらついて、書類を見つめる手は止まっていた。
「帰ったら何しようかな……」
ふと視線を天井に向ける。昼ごはんはどうしよう。冷蔵庫には何が残ってたっけ?お昼を作ったあとは、やることもないし、だらだら過ごしてもいいかも。ああ、布団が恋しい。
頭の中は、まるで帰宅後の計画書を書いているようだ。いや、仕事の計画書を書かなければいけないのに。書類の山が目の前にあるのに。
「よし、仕事しよう!」
そう呟いて、自分を鼓舞する。しかし、ペンを握った瞬間にはもう、脳内は別の場所へ飛んでいた。今度は、お気に入りのコーヒーカップを思い出している。あのカップで淹れるコーヒー、いい香りがするんだよな。
私は、きっと切り替えが下手なんだと思う。
オンとオフのスイッチはあるけれど、切り替えるたびにブレーカーが落ちるように頭が真っ白になる。そして、気がつけばオフの世界でうろうろしているのだ。
時計を見ると、もう11時15分。こんなペースでは終わらない。私は机に向かい直し、深呼吸を一つ。スイッチを何度も押し直してみる。
もしかすると、私は一生このブレーカーと戦い続けるのかもしれない。けれど、それならそれで、ブレーカーの扱い方を極めてみるのも悪くない。そんなことを考えて、私はペンを再び走らせるのだった。
(完)