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幕末の加賀藩藩主に転生しました。  作者: きんかんなまなま(死語)
1 幼少期編
16/29

第16話 〜幼少期編エピローグ〜顔合わせ(天保5年(1834年))

 今年も夏が終わろうとしていた。

 加賀藩上屋敷にある育徳園内の庭木は青々と繁り、暦の上での秋が近づくにつれて身体が感じる暑さも和らいできているようだった。


 結局、昨年の夏は冷たい夏となり、加賀国では米の実が小さくなって不作となったそうだが、今年は打って変わって平年どおりの夏となったらしい。

 このまま水害さえ無ければ、昨年とは違って米の出来は平年並みか豊作となるだろう。——というのは父上の談だ。


 昨年、銭屋五兵衛との共犯関係を築けたからといって、今の俺にできることは何もなかった。

 父上にお願いした石が届いたのは年を跨いでからだったし、試してみたいことに手を付けようにも人手が足りず、まだ何も手をつけられていない状態だった。

 それに、一朝一夕で五兵衛に頼んだ船なんてできるはずもないし、加賀藩の財政がすぐに好転するわけもない。

 五兵衛には試行錯誤を繰り返してもらって、小さくても良いから洋船建造の技術蓄積に励んでもらいたいものだ。


 五兵衛には「洋船もどきができたらすぐに知らせるよう」頼んであるし、今はただ待つだけしかできない。

 洋船が飢饉に間に合えば、ライ麦を導入しておきたいな。

 「果報は寝て待て」とも言うけれど、何もできないというのは俺の性分に合っていないからか、ここ最近どこかもどかしかった。


 そして年が明け、父上が国許に帰るのと入れ替わるように、二人の男が俺を訪ねてきた。


 母上と一緒に生活する場所を弟や妹に譲り、俺は生活する拠点を上屋敷内の「東御居宅」と呼ばれる一角に移し、その一室で二人と会うことになったのである。


「この度、犬千代様の傅役となり申した、山崎やまざき庄兵衛しょうべえ範古のりひさと申しまする」


 俺の目の前で座る武士——年齢は40歳を過ぎたあたりだろう——はそう名乗ると、背後で平伏する武士を紹介し始めた。


「こちらに控えまするは、それがしの助役となる、寺島てらしま蔵人くらんどつよしと申す者。二人ともども今後ともよろしくお頼み申しまする」


 庄兵衛よりも畳2枚ほど離れた位置に平伏している老武士は、チラリとこちらを見てすぐに頭を下げた。


「よい、あたまを上げよ」


 平伏する武士たちよりも一段高い上座に座っている俺は、平伏したままの2人に対して直接声をかける。

 俺の傍に控えた勝千代君が何か言いたげな視線を向けてくるが、俺は視線でそれを制した。


「こちらにひかえているのは、わたしのきんじゅうのまつだいらかつちよだ。らいねんにはげんぷくとなるそうだが、ふたりともよしなにたのむ」

「はっ、よろしくお願いいたしまする」


 ——どうやら目の前で平伏しているこの二人が、これから俺の教育係を務めてくれるらしい。

 二人が本日俺を訪ねてきたのは、その挨拶と顔合わせを兼ねている。


 そして俺が勝千代君に目配せをすると、勝千代君は頷き返す。

 これからのことは、すでに俺と勝千代君との間で打ち合わせ済み。嫌な役目をさせてごめんね勝千代君。


 すると勝千代君はずいっと前に歩んで進み、二人の前にそれぞれ一つずつ箱を置いた。


「早速ですが、お二人にはやっていただきたいことがあります」

「は? 松平殿?」


 突然のことに理解が追いつかないのか、山崎庄兵衛はポカン、と呆けた表情を浮かべた。

 ——うん、俺の顔を見ても無意味だからね。もう()()()()()()だから。


「犬千代様、よろしいですね?」

「う、うむ」


 にっこりと笑みを浮かべる勝千代君に、俺は頷き返す。有無を言わさない口調で、勝千代君は俺から一応の了解を得た形になる。こういう形って大事だからね。仕方ないね。


 ——だって、勝千代君の笑みが怖かったんだもん。


 勝千代君は「されば」と言葉を繋げ、二人の前に置かれた箱の蓋を取る。

 箱の中を見ると、そこにはそれぞれ何の変哲もない石が入っているだけだった。


「庄兵衛殿はこの白い岩を砕き、水と混ぜて焼き固める方法を。蔵人殿はこの褐色の石を砕き、籾殻に混ぜて田畑に撒き、田畑の収量の違いを調べてくだされ」


 何の説明もなしに、勝千代君からこれからやることを説明された大人二人は、猛然と抗議の声を上げる。


「お待ちください犬千代様! それがし達は傅役として……!」


 そんなに抗議されてももう遅い。これは決定事項だから、今更くつがえるわけがない。


「二人とも、たのむぞ。もちろんもりやくとしてのしごともあるが、それもしごととこころえよ」


 江戸時代には明確な身分制度がある。藩主からの指示は勿論のこと、藩主嫡子からの指示も同様だ。


 俺の言葉を聞いた勝千代君の笑みが深まる。——犠牲者(ご同輩)を逃すまい、と。


「さて、これから忙しくなりまするな。犬千代様は、殿から下屋敷を使わせていただけるように、お声掛けをお忘れなく」

「わ、わかっておる」


 ——だからそんな黒い笑みを浮かべないでほしい。今まで負担をかけ過ぎちゃっていたのは反省するから。


 何はともあれ、こうして俺の加賀藩改造計画がスタートしたのだった。


 ——日本海側を「裏日本」なんて呼ばせないからな!

 これにて幼少期編終了となります。ここまで読んでいただきありがとうございます。

 最後に、幼少期編で出てきた登場人物を投稿しておきますので、読み返す際の参考としていただきたく思います。


 これからも応援よろしくお願いいたします

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