第8話 ヴェルディが獣になった訳
鬱注意
「弱ぇ、弱ぇ、弱ぇなぁお前はいつだって!!!」
『お父さん』がボクの髪を掴んで引っ張り上げる。そしていつもの儀式が、始まる。
「弱い奴に生きる資格なしぃ!!! 強さこそ正義!!! わかるよなぁ、ヴェルディ?」
そう言って、ボクの顔やお腹を、ぶった。
ぶって叩いてそのうち飽きたら、床に倒して頭を踏みつけて。たまにタバコの火を押し付けられたりもした。
ボクは死にたくないないから、必死にお父さんの望むように『弱者』を演じる。
「どいつもこいつもわかっちゃいねぇ、弱肉強食だけがこの世の真理なのによぉ! 魔物一匹も殺せねえ腑抜けたカス虫が一丁前に偉そうにしやがって!!!」
弱肉強食――
それが、ボクのお父さんの口癖だった。
お父さんは有名な冒険者らしい。
とても強くって、たくさん魔物を退治して、多くの人たちに感謝されお金をいっぱい貰っている。
我が家は裕福な幸せな家庭だったんだ。……表向きは。
お母さんはお父さんの機嫌をとるためにいつも家のことをとっても頑張っていた。ボクもお父さんがいない間にお母さんに教わって、見よう見まねながらいろいろできるようになった。
そんな矢先、お母さんはお酒に酔ったお父さんによって、首を捩じ切られた。
翌朝、お母さんの死体は消えていた。夜通しお父さんが何かをぎこぎこ切っている音が聞こえたけど、ボクは知らないふりをした。
たぶん、お母さんは魔物の餌にされたんだと思う。
それからはボクが一人で家の事をやるようになった。お母さんから学んだ家事の知識のおかげで、お父さんに殺されずになんとか生きてこれた。利用価値がある内は、殺されずに済むはずだ。
「お前らは弱ぇんだからよぉ、この強い俺様に守ってもらってる事を感謝なきゃいけねえんだよ。そこをあのアバズレはわかってなかった。弱肉強食に逆らっちゃいけねんだよ。
なぁ、ヴェルディ? お前は弱いままでいてくれよ? 俺様のために」
*
ある日、お父さんが変な宗教にハマった。
詳しいことはよくわかんないけど、光しめす救いのナントカっていう団体らしい。
女神アルコアを打倒すべしっていつも怒りながら叫んでいたよ。
それから少しして、ボクはその宗教の施設に連れていかれることになった。
その日のお父さんは、珍しく優しかった。
「あの御方の手回しにより、もうじき聖女が追放される。混乱の時代、人類を纏めあげるには『力』が必要だ。
ヴェルディ、お前には大事な役目を任せたい」
難しいことはよく分からなかった。けど、初めてお父さんがボクを褒めてくれそうな気がしてちょっとだけ嬉しかった。
……けど、結局お父さんにとってボクは都合のいい道具でしかなかったんだと思う。
施設の中でボクは、不思議な星形の陣の上に裸で手足を縛られて寝かせられた。
辺りには信じられないくらいたくさんの檻があった。その中には知らない見たこともない動物や獣の耳を生やした人がたくさん閉じ込められていて、みんなボクのことを恨めしそうに眺めていた。
「や、やだ……こわいよ……」
白い服を着たお父さんと、同じ格好の人たちが遠くからボクを見つめている。
「始めるぞ」
そうお父さんが何かを合図したのを最後に、ボクの記憶は途切れた。
頭の中に残ったのは、ただただ全身を粘土みたいにこねくりまわされているかのような、痛みの記憶だけだった。
*
あれからどのくらい経ったのかは覚えていない。
気がつくとボクは檻の中にいた。
「おお、目覚めたぞ! 成功だ!」
わあっとあがる歓声に、寝起きのボクはびっくりして飛び退いた。
その時気がついた。
ボクに鉄の首輪がはめられていて、鎖で繋がれていることに。
そして、ボクの体が動物みたいにふさふさして、尻尾まで生えていることに。
「なに、これ……?」
唖然とするボクを気にせず、お父さんは嬉しそうに声をあげる。
「ついに完成したぞ!! あの聖女を殺せる神獣――〝キリム〟が……!!」
ざまあまでもうひと山……
アルコア様を信じよ