第41話 開戦
ストラグル・フォーはいいぞ(宣伝)
息を潜め、まだ日も昇らぬ夜の闇の中を俺たちは進む。
俺の名はグラーヴ。
誇り高きサンムルスの兵である。
俺たちサンムルス軍は、今までにいくつもの街や村を導いてきた。
サンムルスこそが世界の覇権を握るに相応しく、サンムルスはサンムルスであるから正義である。
故にサンムルスに歯向かう者は、滅ぼさなければならない悪である。
今までもたくさんの『悪者』を退治してきた。
正しい事をするのは気持ちがいい。悪者を退治するのは、正しい人のためになる。
だが、悪者にも使い道はある。
大人しくするのであれば、生かして労働力として使ってやったり、若い女であれば慰みにしてやるのだ。
十四くれえの女が1番水気と締まりが良くて俺好みだ。
正しい人間のためになるのなら本望だろう?
だから今回も、サンムルスに歯向かおうというシリスとかいう街の悪者を退治するべく俺たちは進軍する。
あぁ、楽しみだ。
「聞いた話によりゃ、向こうの兵力は500人ぽっちだそうだ。しかも今は100人不在で400人しかいない」
「ぶははっ、冗談か? こっちは四万もいるのに向こうの親玉は簡単な計算もできねえのか?」
俺は思わず噴き出してしまった。4万対400なんて、勝敗は戦いが始まる前から明らかだ。にも関わらず、向こうはこっちの降伏の提案を蹴ったそうだ。
笑えるにも程がある。
どこからその自信が溢れてくるのだろうか?
聞いた話によりゃ、先日シリスの街から現れた英雄クラス――〝準特記戦力〟が前哨基地を壊滅させたとか。
前哨基地の壊滅には驚いたが、同時にその街の英雄も仕留められたと聞く。
今までずっとたった1人の英雄の強さに頼りっぱなしで自分達の真の力量を忘れているのだろう。
敵ながら哀れと言うほかない。
今もきっと、俺たちがこんな夜中に進行しているだなんてつゆほどにもおもっていないのだろう。
あぁ、早く到着しないだろうか。
そんな風に思いながらしばらく進んでいると――奇妙なものに出くわした。
「なんだこれ……壁?」
隊長がそう呟いた。
街はこの先すぐ、という所で大きな土の壁が聳え立っていた。
明らかに人工的に造られたもの……それが、見える範囲に渡りずっと続いている。
こんなものがあるだなんて話は聞いていない。
とするとここ2日の間で造られたものなのか? いやしかし、これほどのものを短期間で作れる訳がない。
だが、そんな悩みもすぐに吹っ飛ぶ出来事が起こる。
『サンムルスからはるばるお越しの諸君! シリスの街への入り口はこちら!! 手厚く歓迎いたしましょう!!!』
……は?
突然、どこからかそんな大きな女の声が響き渡った。
周囲を見渡すと、ある一点に蒼白い光が灯っているのが見えた。
目をこらしてよく見ると、それは白い髪の女だった。
『それともどうしたんだい? ビビって来ないのかい? サンムルスは数ばかりの腰抜けの軍団って事なのかい?! ほらほら、こっちにおいでよ腑抜けのコード師団長さんと愉快な諸君よ!』
何故こいつは師団長の名を知っている――という疑問は、溢れ出る怒りによって一瞬でかき消えた。
「殺す! ぐちゃぐちゃにぶっ殺してやる!!!!」
「「「ウオオオォォォ!!!!!!」」」
四万の怒号が地鳴りのように響き渡り、そして師団長率いる先頭の部隊が一気にあの女へと走り出した。
『アタシを捕まえてごらんよ! 鬼さんこーちーらーっ!!!』
わかり難かったが、女の背後には200mほどに渡り壁が途切れており、女はそこから壁の内側へと走って逃げ込んでいった。
――罠だ
そう理性が訴えるも、怒りがそれを黙らせる。
俺たちも続いて壁の中へと駆け込み、あの女の姿を探す。
すると――
「いたぞーっ!!!」
眼前に、俺たちの四万の軍団と比べるとなんともちっぽけでしょぼい集団が、のこのこと現れた。
人数は目測で数百人。シリスの街の恐らくは全兵力か?
……どんな罠や策に嵌めてくるのかと思ったら、まさか真正面から戦うつもりかこいつら?
やはり馬鹿だ、この期に及んで自分たちが英雄だとでも勘違いしているらしい。
『全員止まれー!!!!』
師団長の声で怒りの進軍は一旦止まった。
どうやらあの馬鹿集団と言葉を交わすおつもりらしい。
『貴殿らはシリスの街の兵で間違いないな?』
『いかにも! これより貴様たちサンムルスを一人残らず殲滅する作戦を実行に移す所である!!』
『笑わせる! たったの400人ぽっちでどうこの四万人を殲滅するというのだね? どんな作戦だというのだね!?』
『1人で100人くらい倒せばいけるであろう!!』
何言ってんだこいつら?
ダメだ、敵ながら馬鹿すぎるだろ? 笑うどころかもはや声も出ねえよ。
『そうか!! 実現不可能な所に目を瞑れば完璧な作戦であるな!!!』
師団長の言葉に笑いが巻き起こる。
だが奴らは一切気にもせず、俺たちを見据えたままだ。
……何だ、この嫌な感じは?
なんで足が震えている? あり得ない、あいつらはたったの400人の辺境のザコだろ?
鎧もつけてねぇ、武器もしょぼいもんしか持ってねえのに……なんで――
『誇り高きサンムルスの兵よ! あの身の程知らずどもをこの土地の肥やしに変えてやれ!!!』
コード師団長のその合図により、サンムルスの兵たち数千人が400人ぽっちの集団に突撃してゆく。
――空は白み、だいぶ視界も開けてきた。
『散開せよ! 身体強化を忘れるなよ!!』
シリスのザコどもは、圧倒的な俺たちサンムルスの軍団を前になんとバラけたではないか。
一体何のつもりだ?
その答えは――
「ぎゃあああっ!?」
「なんでぇっ!? ありえな――」
悲鳴が響き、人の体の一部が舞い散り血飛沫が降り注ぐ。
「……は?」
俺は、まだ現実を正しく認識できていなかった。
俺たちへと向かってくる敵は、たったの一人。
鎧もつけてねぇ、武器もしょぼく、それでいてやたらガタイのいいシリスの兵。
それが、次々とサンムルスの兵をぶん殴って吹っ飛ばしてゆく。
――その武器使えよ? なんてツッコミが頭を過る程度には、現実を認識できていなかった。
「グラーヴ、おいグラーヴ!!」
「っ! 隊長!!? あれは一体……」
「ば、化物だ!! 見ろ、あいつだけじゃねえ、他の所にも同じような化物が……」
横を見れば、他のところでも同じように人とがぐちゃぐちゃに吹き飛ばされていた。
そしてその化物の一体が、俺たちへと近づいて来ている――
まさか――
まさか――?!
俺は、とんでもないことに気づいてしまった。
いや、きっと他の奴らも気づいているだろう。
――前哨基地を襲撃してきたというシリスの街の英雄。
その戦闘力は、単体で旅団以上の戦力と言われる〝準特記戦力〟ほどだったと言われ、前哨基地の兵士のほぼ全員を殺害した。
だが魔導砲によりなんとか仕留め、シリスの街の切り札はこれで消えたのだと思われていた。
ところがどっこいだ。あれは英雄じゃあなかった!!
つまるところシリスの街の兵は、全員が準特記戦力だったんだ。前哨基地を潰したヤツは、ただの雑兵だった――
それはあまりにも、あまりにも信じたくない現実――
前方のサンムルスの兵が一切歯も立たずに何人もぶっ飛ばされていく。
誰かが槍で突いた――が、穂先は刺さらずむしろ突いた槍の方がへし折れ、そして突いた奴も頭をかち割られて死んだ。
立ち向かうか、逃げなければ――
目の前に、修羅が迫ってきた。
こんな所で死んでたまるか、俺には妹がいるんだ。
歳は14で、昔から病気がちだった。
そんな妹を医者に見せるために俺は金払いのいい軍に志願したんだ。
帰るんだ、妹の待つ我が家に。
死んでたまるか、俺がこいつを殺して英雄になってやる!!
「う、うおおお!!!!」
俺は剣を振りかぶり、目の前の化物に斬りかかった。刃はヤツの首もとに斜めに入った――
――いや、刃が砕けた。
「ヒっ!? たすけ――」
次の瞬間、俺の顔に拳が迫り――
ゴギャッ――
変な音が聞こえたのと同時に、俺の意識は未来永劫の闇へと堕ちていった。
なんてこった、もう(誰一人)助からないゾ♡
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