第40話 シリスの悲劇、その前夜
ストラグル・フォーというゲームにハマっております。
「一人で突っ走るな!!! あわや死んでいたかもしれぬのだぞ!?」
宣戦布告された日の夕方、何やら住民が拉致されるという事件が起こったらしい。
拐われたのはレインという兵の妹だったらしく、レインはたった一人で突っ走って死にかけるほどの重傷を受けて帰ってきた。
さすがに自前の治癒魔法では治せそうもないので、私が回復魔法で直してあげたよ。
その後は隊長さんから厳しい指導だ。
「我らに相談をするなり、せめてもう一人連れていけばもっと安全に対処できたものを……」
「返す言葉もありません!」
「だが……妹を守り抜いたことは、よくやったと言っておこう」
彼は妹さんをちゃんと守ったのだ。妹さんには怪我もなく、性被害も寸前で食い止められた。
そこだけは私も褒めてあげたいね。
「ラズリー様からは何かありますか?」
「うん、よく頑張ったね。きちんと妹さんを助けられて偉いよ。
……まあそれはそれとして、明日は罰として腕立て一万回ね」
いくら強くなったとて、独断での行動は集団を危険に晒すリスクがあるのだ。罰は与えなきゃね。
……それにしても、前哨基地を破壊してくれたのは好都合だ。
ギリギリ私の探知範囲外だったからね、このままでは街の防衛機構を作るところをじっくり観察されてたかも。そこはかなり助かったよ。
そう、防衛機構。
単純戦力でヤツらを鏖殺するのは簡単だ。百万人来ても鏖殺できる自信はある。
しかし私たちの勝利条件はあくまで街の防衛だ。
そのためには街への被害を最小限に抑えなければならない。
たった1日や2日でできるのかって?
できるんだな、それが。
「それではこの図通りにお願いします、ホグジさん」
「ホイ! 任せたまえ!!」
このホグジ、という少年は大地の上位精霊契約者となった新兵なんだよね。
精霊と契約したことでホグジくんの得た能力は、影響範囲だけなら他の四人の追随を許さないだろう。
いきなり大きな力を得たことで当初は調子に乗ってたっけ。まあ私がゲロ吐くくらいぶん殴ってわからせてあげたけども。
「ホイホイ、ほぉい!」
ホグジくんの意思に従って、大地が液体のように流動し……10mくらいはある土の壁を畑エリア含む街の外周を覆うように形成する。
ただし西側の1ヶ所だけ壁の代わりに『門』のように開けたポイントを残しておく。
その先は何もない広場だ。ここに敵兵をまるっと誘導し、そこでシリスの兵たちが待ち構えるという寸法だ。
兵対兵なら確実に勝てるから、嵌めるというよりは真正面から戦うように誘導するって訳。
ただし、相手が騎竜兵のような飛行戦力を持ってる可能性もある。
この飛行戦力の迎撃に失敗し防壁内への侵入を許した場合……
その時は、ヴェルディちゃんが出る予定だ。
想定できるありとあらゆる物事への対応策はバッチリ。
ミイヴルスさんもいざという時には協力してくれるそうだし、問題はなさそうだ。
こうして、レインくんが腕立て伏せ一万回を頑張っている横で着々と戦争への準備は進んで行くのであった。
*
開戦前夜、あるいは悲劇の前夜――
大陸東部への進攻を目論むサンムルス軍、およそ10万。
このうち5万が、東部のに存在する二つの街を制圧する予定である。
ここで使われる戦力は二つ。
まずは比較的近いシリスの街へと四万が進攻、道中で分離した一万がヘブルスの街へと進攻する。
「しかし、これほどの大戦力を動かす必要はあるのですかな? コード師団長」
「うむ。人口5000にも満たぬ街であり、戦力もわずか五百ほど。ハッキリ言って過剰戦力であるな。コード師団長の意見を聞きたい」
彼らは二つに分離する部隊のリーダーを務める将兵である。
そんな二人に五万もの軍勢を率いろと命じたコード師団長は、顎髭をいじり答えた。
「確かにあの程度の街、我が兵千もいれば攻略できるであろう。だが、あの街は10万の兵がそっくり居住させる土地とするのだ。住処を自ら開拓したという実感を兵どもに持たせる事は、今後の士気にも繋がるのだ」
「な、なるほど……! そのような深い意図があったのですか!!」
「何より、圧倒的な力を見せつければ連中も反抗する気など抱かぬであろう?」
にやりと歯茎を剥き出しに下卑た笑みを浮かべ、コード師団長は明日の約束された勝利を思い浮かべる。
「――だが我らも悪魔ではない。降伏勧告くらいはしておいてやろうではないか」
そう言ってコード師団長は、魔導通信水晶を取り出し机に置く。
シリスの街へ座標を合わせ……魔力の波長を調整する。これでシリスの街と通信ができる。
……もっとも、向こうにも同じ通信水晶があればの話だが。
「あー、本日は晴天なり。あー、もしもし。我らはサンムルス解放軍。シリスの街の人間よ、聴こえていれば返事をせよ」
と言いつつ、返事などある訳がない。
一応は降伏勧告をしてやった、しかし無視された。そういう体だ。
今まで侵略してきた街や村にも『聞こえない降伏勧告』をした後に蹂躙してきた。今回もいつもと同じ――
『こちらシリスの街、領主ベープ。貴殿の目的は何だね?』
なんと返事が返ってきたではないか。まさか弱小貴族風情が通信水晶などという物を所持しているとは想定外であった。
『なっ……!? こほん、我らは五万の軍勢を率いて明日貴殿の住む街へ進攻する予定である。しかし無意味に血を流すことは互いに望むものではない。よって、今降伏するのであれば住民への攻撃はせず不要な血は流れないと約束しよう。我は貴殿に降伏を推奨する』
『……つまり、先の条件を飲めということか?』
食料の提供に、数万の兵の住居と無賃で労働力の提供、そして若い女を全員娼婦にし兵へ差し出せ――
つまるところ、住民を皆奴隷とし街の施設や食料を全て兵どもの物にしろ……という訳だ。
それでも、五万の兵に蹂躙されるよりははるかにマシだ。
よって聡明な人間ならばこの条件を飲むであろう。
そう、コード師団長は考えていた。
しかし――
『降伏はしない。全力をもって貴殿たちとの争いに臨むとしよう』
『ほう、あくまで抗うと? この戦力差、素人目にも勝てる見込みもあるまいに、民を貴殿の意地に巻き込むとは愚かな。それほどに絶望を望むのであるか?』
『ひとつ、サンムルスは勘違いしているようだな?』
『ほうほう? 勘違いと?』
『絶望するのは貴殿らだ。
明日、侵攻をやめぬのであれば我らは貴殿たちを一人残らず殲滅する。これはこちらからの降伏勧告だ』
『なんと、我ら五万もの軍勢を殲滅すると? くく、くははっ、面白い事を言うではないか!! ベープと言ったか? いいだろう、貴殿の絶望に歪む顔が今から楽しみだ……!!』
『同じ言葉を返そう』
そう言ってベープは通信を切った。
コード師団長は、ニヤニヤと口角を上げつつも額に青筋を浮かべる。
通信を聞いていた二人は、冷や汗を流しながら無言で黙りこんでいた。
「……兵どもへ伝えろ、領主であるベープは殺すな。奴は目の前で民どもを串刺しにし、悔い絶望した所をこの私が直に首を切り落としてやらねば気が済まぬ……!」
こうして――人知れず降伏交渉は決裂した。
そしてこれが翌日に起こる歴史的な虐殺事件、〝シリスの悲劇〟を止める最後のチャンスであったと、後に語られるようになるのであった。
虐殺される人たちかわいそうに()
次回、開戦です
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