第4話 元聖女ちゃん、ケモショタ(?)を拾う
主人公もヤバいやつ
夜の闇の中、彼らはひっそりと歩みを進める。
その格好は小汚なくもしっかりとした防具に身を包み、湾曲した剣や槍など様々な近接武器を装備している。
「親分、ホントにあの街にいるんですかい? 例のケダモノのガキ」
「ああ。確かな情報だ」
彼らの中でも一際体の大きく理知的な目つきをした男は、仲間を諭すように落ち着いた声で続ける。
「理屈は知らねえが、飼い主さんは居場所を把握してるそうだ。俺たちはただ、あの〝聖女をも殺せる魔獣〟を生け捕りにすりゃあいい。
それさえできりゃ、盗みも犯しも殺しも好きなだけやっていいぞ」
「ブルデの兄貴万歳!!」
闇の中で下卑た歓声が密かに響く。
しかし、彼らはまだ気づいていない。
既にその命は、聖女と呼ばれた怪物の手のひらの上にあることを。
*
野盗だね。殺します。
人数は50人くらい、身なりもそこそこ良さげなあたり、冒険者くずれかな?
あるいはどこかお金のあるとこから資金提供でもされてるか。
ま、なんにせよ私のやることに変わりはない。
「【剣】――」
魔法で一網打尽にもできるけど、目立つことはしたくない。なので私は辺り一帯を『防音結界』で音を外部へ漏らさないよう保護。
そして手の中に結界を変形させて作った光の『剣』を握る。
「神聖魔法【絶対切断】」
私は未だ気づいていない野盗どもの背後から、剣を振るった。
「ぐあっ!?」「おやぶっ、ぐぼ」
手始めに10人、横薙ぎに真っ二つ。
【絶対切断】は空間・世界もろとも全てを切り裂く力。鎧だろうが岩だろうが紙と等しく斬り裂くことができる。
私ごときの力では、アルコア様の扱うそれとは程遠い。比べるのも烏滸がましい。
それでも人間程度なら束になっても簡単に解体できるし、属性魔法と違って目立たず静かに処理できる。武器のガードも意味ないし、とっても便利だね!!!
「な、なんだ!? ガキ?」
「うぎゃっ!? 腕がっ……」
「いでえよぉぉぉ!!!」
「た、たすけてくれ兄貴!! ぎゃああああっ!!!!」
「な、何が目的だ!? やめろ来るな来るな、バケモ――」
「もうこんな生業から足を洗う! だからどうか見逃してく――」
――――
――
…
闇の中で野盗どもを一人残らず全員退治した私は、死体の処理ももちろん欠かさない。
「アルコア様、贄ですよ」
『ラズリーちゃん私のこと残飯処理係だと思ってる? ありがたく受けとるけど。もぐもぐ……』
野盗どもの死体が、血の1滴も残さず闇に溶けるように虚空へ消えてゆく。
アルコア様は人間も魔物も好き嫌いなく食べる女神さまなのだ。
ただしとっても大食いでもある。なので、もしも私以外がアルコア様をどうこうしようとすれば、ざっと大国の人口ぶんの生け贄とか必要になるらしい。
過去にはアルコア様を召喚しようとして消滅した大陸もあったとか……
うーん、やっぱりアルコア様はスケールが違うね。
さて、臨時のお仕事も終わったしお家に帰ってシャワーを浴びて寝よう。
りんりんと鈴虫が鳴き、ジージーとキリギリスが羽を鳴らす。川辺からはヒャコヒャコ蛙の大合唱。お米の畑では黄緑の光の粒が飛び回っている。確か蛍という虫だっけ。
300年引き込もってきたけれど、夜の畑ってこんなに素敵だったんだねぇ。やっぱりここに定住しちゃおうかな?
借り受けたばかりの我が家を目指して誰もが寝静まった真っ暗闇を進む。
柵が見えてきた。もうすぐ畑エリア……というところで、私は木の陰からこちらを覗く存在に気がついた。
「そこにいるのは誰?」
「えっ、あ……うぅっ」
私に声をかけられるなり、木陰から走り逃げ去っていく小さな影。
普人の少女くらいな見た目の私よりも小柄だし、子供かな? こんな時間に一人で?
うーむ、怪しい。野盗の関係者じゃなさそうだけど、さっきの現場を見られていた可能性もありそうだしひとまず捕まえようか。
狩りごっこだねー! まてまてー! 食べちゃうぞー!!
って、めちゃくちゃ脚速い!? ほんとにあの子人間?
仕方ない、神聖魔法――身体強化!!
私の肉体にアルコア様の御力が漲り、平時の数十倍の身体能力と反応速度で一気に距離を詰める。
そしてそのまま優しくタックルをかまし、謎の子供を捕獲した。……のだけれど。
「や、やめてっ、離してっ!!」
「ん? 獣人?」
全身を包む灰色の毛並み、横向きに倒れた長くふわふわの長~い耳。
顔は犬に近く、マズルもある。手にはピンクの可愛い肉球。ぷにぷにしたい。
全体的に獣だけれど、二足歩行で衣服も着ている。
短パンにシャツだけという、ずいぶん簡素な格好だけどね。服装からして男の子かな?
「離してぇ! やだやだぁっ! ボクもうあそこには帰りたくないっ……!」
「あそこってどこよ? 事情は知らないけど私は君の思ってるような〝ワルモノ〟じゃないよ?」
「ほんと?」
「うんホント。……お互いワケアリみたいだね」
抵抗する力が弱まった。離しても大丈夫かな?
ゆっくり力を抜いて、抵抗しないことを確認してから押さえ込んでいた手も離す。
「いきなり押し倒しちゃって悪かったね。ひとまず私の家に――」
『ラズリーちゃん、その子寝てるわよ?』
「うぇっ? うわマジか……よく寝れるな……って、ホントにワケありっぽいね」
きっとこの子は疲れ果てていたのだろう。なぜ木陰に隠れて私を見ていたのか聞きたいことはあるけれど、今はちゃんとしたベッドで寝かせてあげないとね。仕方ない、おぶって連れていこうか。
この獣人の少年(?)の顔や体に刻まれた無数の傷跡。きっと普人にやられたものだ。
それを見て、私はこの子に手を差し伸べずにはいられない。
嘗て、私がそうされたように。
※♀です(大事なことなので告知)




