第34話 次なる脅威に備えよう
うつらうつらと船を漕ぐ。
顔を私の肩にもたれかかって、ヴェルディちゃんはお昼寝タイムに突入しようとしていた。
いっぱい食べて眠くなっちゃったのかな。
「「「かわいい~……」」」
耳をすませば強面のおっさんどもの野太いため息が聞こえてくるよ。
ベープさんの執務室にて、私とヴェルディちゃんは隣街からやって来た兵士さんの内の代表数名と顔を合わせていた。
彼らは何やらベープさんに報告したいことがあるらしく、なんなら街の防衛の要である私たちもその場に居た方がいいだろうということだ。
まあ、そんな強面のおっさんたちはおねむなヴェルディちゃんに骨抜きにされてるんだけれども。さてはいい人たちだな?
「おっと、それでは本題を……」
我に返った隣街の兵さんは、ヴェルディちゃんを起こさないようこしょこしょ声で話を切り出した。
「近頃、あちこちで奇妙な病が流行っております。ある村では住民全員が病により死亡したという報告もあります。
我々の街でも何人かが床に伏せ重篤な状態です。患者たちは現在隔離していますが、いつ他に倒れる者が現れるか……。
……何者かが意図的に広めているのではという噂もあり、外部からの人間には警戒を強めるべきでしょう」
「なんと……彼らの快復を祈ります……」
「感謝いたします。……そしてもうひとつ。我々は本来、3000人の軍勢に蹂躙されたこの街で生き残りが居れば救出するよう命令されておりました」
そりゃ、そうだよね。伝令が到着するのに1日、即日出立したとしても到着は襲撃から2日後。
とうに間に合わないだろうし、そもそも向こうの街の戦力もこの街とさほど変わらないらしい。200人も送ってきてくれたという事実に感謝しなきゃならないし、そもそも200人加わった所で焼け石に水だ。
それでも、生き残りを救出して連れて帰れ――なんてずいぶんと慈悲深い。
「――まあ、それはこの街が無事だった事で無くなったのですがね。
そして、もしも街が敵を撃退し、なおかつ領主が生きていた場合。軍事的に協定を結ぶという提案をしようと、命令されておりました」
「ほう?」
「3000人もの敵を500人の戦力で撃退できるならば、味方にしておいて損はないと。この街とは元々交流がありましたが、このキナ臭い情勢ではより密接に連携すべきだそうです」
「なるほど。……それは構わないが、敵を撃退したのはほぼそこで寝ているヴェルディちゃんのおかげだ」
ミルスさんのことは隠すつもりなのかな?
まあ、ミルスさんは向こうの街に住んでるようだしそのうち明かすつもりなのかもしれないけど。
「……他に優秀な力に心当たりがないことはないが、それを今ここでは明かす訳にはいかない。ただ、協力することにやぶさかではないとだけ君たちの主に伝えてくれ」
「……ありがとうございます」
「さて、君たちも1日歩いてきたんだ。予備の宿舎を貸そう、今夜はゆっくり休むといい」
*
来訪者たちを部屋から出して、ベープさんは私とヴェルディちゃんにこう切り出した。
「ひとつ、街のために頼まれてくれませんか?」
「いいよ、頼み事次第だけどね」
ぶっちゃけ何を頼もうとしているのかは理解している。
街を守るために必死だもんね。
「兵たちに、稽古をつけてほしいのです。……今回、幸いにして犠牲者は出ませんでした。
ミイヴルス様の神聖魔法のおかげで、兵たちはあの軍勢相手に一時は優勢にもなりました。……しかし、向こうのリーダーとみられる女には一切歯が立たず……」
「むにゃ、おいしかった……」
またごはん食べてる夢でも見てるのかな?
ヴェルディちゃんの寝言にちょっぴり頬を緩ませながらも、話は続く。
「戦闘経験どころか、我が街の兵たちには訓練すらも全く足りていないのです」
なるほどね。平和だった帝国崩壊以前は自警程度の役割しかなく、それが今になって首を絞めてきていると。
他にもそういう街や小都市もあるんじゃないかな。
「幸い、兵への志願者は多い。……アルコア様の神聖魔法を貸してほしいとは言わない。帝国の二の舞になるつもりはない。ただ、兵たちを強くしてほしいのです」
「私やヴェルディちゃん、それからミルスさんの神聖魔法にばかり頼る訳にはいかないってワケね。いいよ、その頼み聞き入れてあげる」
「ありがとうございます……!」
「任せなさい、1ヶ月で一人で千人力の超すんごい兵隊を作り上げてみせるから。……なんせ私の師匠はアルコア様だからね」
そんな訳で、私はこの街の軍事力増強に一役買うことになったのであった。
*
そこは『闇』そのものだった。
朝も昼も夜もなく、ただ無明の闇にぽつんと浮かぶ何かがあった。
それは、白亜の城。
真っ白な花畑の真ん中に建つその城の主は、『アルコア』と呼ばれる女神であった。
『アイツが関わっているのなら、今までのやり方じゃダメね……』
アルコアは思い悩んでいた。
――ラズリーたちの住む世界の外には、フィルターのような『層』がある。
分かりやすく例えるならば、網が何層にも渡って世界という球体を包み込んでいるイメージだ。
網目は下の層へゆくにつれて小さく細かくなってゆく。
外側の層ならば腕を入れるくらいはできる。しかし次の層では指を数本、そのまた次は小指、更に次は爪の先……
アルコアのように外部に存在する者は、この外層に阻まれ世界への干渉が大きく制限されているのだ。
『かといって破る訳にもいかないわよね……』
アルコアほど規格外な存在ならば、この網を無理やり破る事もできる。
しかし、そんなことをすれば世界は瞬く間に世界と世界の狭間に満ちる虚無のエネルギーに侵食され滅んでしまうだろう。
現状、ラズリーを通じて本来の力のほんのほんの一端だけを行使することはできる。
しかし、だ。
『そこらの神はともかく、イドーラが関わっているのならこのままじゃまずいわね。……仕方ない、決めたわ』
アルコアは、パチンと指を鳴らした。
するとそこに、一柱の紅い髪のメイドが現れる。
『御呼びでしょうかお嬢様』
『星支配者級の子を何柱か呼んできてくれる?』
『かしこまりました』
メイドが頭を下げた後……アルコアの前に、眷属である名状しがたきものどもが現れる。
『――という訳で、あの世界への優位性を獲得したいのよ。なるべく他の神に気づかれないようにお願いね? 万一バレたら、敵対的なヤツなら喰ってもいいわよ』
アルコアという外なる神の命令により、世界の外層より名状しがたきものどもが闇に解き放たれる。
彼らはひっそりと、しかし確かに闇の中を這い寄りラズリーを守るべく暗躍を始めるのであった。
星支配者級の眷属さん一柱で前作ラスボスの100倍くらい強い……。がんばれクターニドさん。
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