第33話 街の英雄
遅くなり申し訳ありません。低気圧が憎い(2回目)
「ヴェルディ殿。外敵を退け、我が街を救った事に領主として感謝申し上げます」
大勢の群衆が見守る中、ヴェルディちゃんはベープさんに深く深くお辞儀をされていた。
「ど、どうも……?」
ヴェルディちゃんったら恥ずかしいのかもじもじしちゃって可愛いね。
頑張れ、打ち合わせ通りあとはみんなに手を振るだけだよ。
*
「ヴェルディくん! これも美味しいよ!!」
「いい食べっぷりだね、こいつもお食べ!!」
「もぐもぐもぐもぐ……」
串焼き、お魚、果物……いろんなおじさまおばさまからもらったいろんな食べ物が、ヴェルディちゃんの胃袋に消えてゆく。どこにそんな量入るの? ってくらい食べてるよ。
今日は英雄ヴェルディちゃんを称えるお祭り兼、収穫祭の延長だ。
これがもっと大きな街や都市だったなら、お祭りどころか今頃ヴェルディちゃんは貴族さんに抱え込まれるような事になっていたかもしれないね。けれどベープさんにそんな意思はない。
住民たちの前でヴェルディちゃんにお礼を言って、食べ放題祭りを開催する。食いしん坊なヴェルディちゃんにとっては食べ放題が1番嬉しいよね。
ヴェルディちゃんはホントはお祭りも無くても良かったと言ってるけど、ベープさんいわく英雄に何もしないのはそれはそれとして住民たちの不満を買う恐れがあるのだそうだ。
そんなお互いの利害で1日だけ収穫祭を延長し、そこでヴェルディちゃんと私はタダで飲み食いできる……という破格の待遇だ。
また、このお祭りには別の意図もある。
「こんにちはラズリーさん」
「ミルスさん、お元気そうですね」
紫がかった髪の女性、ミルスさんが話しかけてきた。
実はミルスさんの正体は、この街の守護神であるミイヴルスの化身だ。
襲撃時には街を護るべく兵士さんたちに神聖魔法をかけて助けたり、ヴェルディちゃんに力を貸して私の救出を手伝ってくれたりもした。
最初、危ない神様だとか思っちゃってごめんなさい!
「このにぎやかな感じ、なんだか昔を思い出すなぁ……」
ミイヴルス――ミルスさんは長らく忘れられていた神様だった。なんでも、大昔にあった戦争がきっかけで信仰が途絶えたのだそうだ。
そんなミイヴルスさんだけれど、ベープさんの計らいで今回をきっかけにちゃんと『ミイヴルス』という名前で祀ってもらえるようになった。
この延長収穫祭にはミイヴルスを奉る意味もあったりするんだよね。
「祠も建ててもらったしね、これからはいつでもこの街へ移動できるよ。将来的には移住も考えようかな」
ちなみに今日、住民たちの手で街のはずれに石の祠が建てられた。
なんでも、信仰されている祠ならそこを起点に転移めいたことができるらしい。
「もし困った事があったら相談してね。いつでも力になるから」
「こちらこそ、何かあれば呼んでね」
アルコア様とは異なりミイヴルスさんはこの世界の内側から生まれた神だ。故に制約もとても緩く、フットワークも軽い。
心強い味方だ。私たちもミルスさんが困っていたら、できる範囲で助けてあげよう。持ちつ持たれつ、神友は大事にしないとね。
そんな訳で握手をしようとしたら――
「むー! お姉ちゃんはボクのものだ!!!」
ヴェルディちゃんが割り込んできた。
なんだか最近、ヴェルディちゃんの私に向けてくる『好き』が、想像しているものとは違うような気がしてきてるんだよね。
今みたいに私を独占したいっていう気持ちがあるのは知ってたけど、それは母親に向けるような感情ではなさそうで……
え、じゃあ何?
『ふっふっふ……鈍感なのねえ』
えっ、なんすかアルコア様? ヴェルディちゃんの気持ちか何か知ってるんですよね? 教えてくださいよ? え、だめ?
考えても答えは出ない。
……よし、やめようこの話!
「ヴェルディちゃん、お姉ちゃんは他の人のものになったりはしないから、握手させてくれないかな?」
「むー……。しょうがない、いいよ」
「ありがとうヴェルディちゃん。うちの子がすみませんねぇ」
「あはは……いいですよ、可愛らしくってほっこりしましたから」
左手でほっぺを膨らませてるヴェルディちゃんをなでなでしながら、右手でミルスさんと握手するのであった。
*
その日の午後――
「おいおい、なんだこりゃ? 祭りか?」
「三千の敵兵が攻めてきたと聞いてたのに、なんでこんなどんちゃん騒ぎしてんだ?」
街を訪れた来訪者たちは、このお祭りを目の当たりにして困惑した。
馬に跨がる彼らは、絶望的な戦力で攻められたこの街のなれの果てを見るべく遣わされた人間たちである。
彼らの正体は、ベープが隣街へ応援を要請し派遣された二百名余の兵だ。この街までは馬で1日ほどの距離があり、襲撃からは2日が経過している。
なのでこのシリスの街は既に滅ぼされている……かと思われていた。よって、予定は十中八九とんぼ返り……となるはずだった。
しかし街は無事どころか襲撃されたという痕跡すらなく、なんならどんちゃんお祭り騒ぎをしていた。
「おい、あんた。俺たちは隣街から来た兵なんだが、これは一体何の騒ぎだ?」
「んん? あぁ、三千もの襲撃者を退けた英雄を称えるお祭りさ」
――3000人を、退けた?
この街の戦力は500。到底勝てる訳がない。
にも関わらず、街は存続している。
「オレもお祭りに参加してえよ」などという門番のぼやきを聞きつつ、彼らは街の市街地へ足を踏み入れようとする。
「これはこれはヘブルスの街からよくぞお越しになられました」
彼らが街に入るよりも先に、領主のベープが紫色の髪の美女と共に現れた。
「ベープ殿……一体何があったのですか?」
「3000人の襲撃者という未曾有の危機を一人の英雄が単身で撃破したのです。……信じられないと思いますが、今日はそんな彼を称えるべく急遽開催された祭りなのです」
「たった一人で、だと!?」
「馬鹿な、ありえん……」
「どんな化物を味方にしたというのだ……まさか、魔王か?」
ざわざわとどよめく兵たちの脳内で、筋骨隆々の怪物の姿が勝手に膨れ上がってゆく。
「せっかくですので、祭りを楽しみがてら英雄殿とお会いになりますか?」
「……え、英雄と」
「や、やむをえん。知っておいて損はあるまい」
そんな訳で、彼らは筋骨隆々で角と翼の生えた悪魔のような大男(想像図)と会うことになるのであった。
――
「英雄殿は少々内気で恥ずかしがり屋です。姿を見ても驚かないでいただきたい」
「は、恥ずかしがり屋、だと?」
彼らの脳内に、一人称『オデ』の温厚な怪物の姿が追加される。
花を小さな女の子に渡して微笑んでそうな、フランケンシュタインじみた怪物になりつつあった。
が、しかし。
「こちらが、英雄のヴェルディ殿です」
「……? え、その愛らしい子供がか?」
保護者とみられる少女の後ろに隠れてじっと彼らを見つめる、灰色の毛並みの小さな獣人の子供。
……が、英雄ヴェルディである。
「ヴェルディちゃん、こんにちはしよっか?」
「こんにちは……」
ウサギのように長い折れ耳がぴくぴくしている。
伏し目がちな潤んだ瞳、ふわふわもふもふの全身。そして保護者の裾をきゅっと握る手からちらりと見えたピンクの肉球。
その時、総勢二百名の義勇兵たちは満場一致でこう思った。
――なにこれむっちゃかわいい
……と。
ヴェルディちゃんはかわいい(真理)
次回、ヴェルディちゃん無双と流行りの疫病について です。




