第32話 執愛の女神
ちょっと納得いかなかったので32話を一から書き直しました。旧版をお読みになられた方には申し訳ございません。
行き交う雑踏。
人が人にまみれて、一人くらい闇に呑まれて減っても誰も気づかないだろう。
その中の一人……他と同じような平凡な人間にしかみえない人物は、脳内である『御方』と会話をしていた。
『くすくすくす……あーあ、アルスくん死んじゃったねぇ』
『あれではまだラズリーは殺せない、ですか。不完全とはいえ貴女の一部を受肉させたというのに。ヴンヴロットのおかげでアルコアの完全受肉も封じ込めたのに、それでいてなんと手強い……』
『いやぁ惜しかったねぇ、あのヴェルディとかいうヴンヴロットの器になるはずだった子供。アルコアと他の神と契約して、擬似的に神に近い存在に成っていたよ。アレがいなければ殺せてたねぇ。くすくすくす……』
幼い少女のような声でその『神』は笑う。
『ペディアはワタクシのよい傀儡でした。……暁の星の者共同様に多重存在の残機はまだありますが、しばらくは潜伏させておいた方がよさそうですね?』
『うん、それでいいよ。――クターニドちゃん』
クターニド……嘗て顕現したアルコアに滅ぼされかけた、慈愛の神である。
現在は力の大半を切り離し、本体は人間とほぼ変わらない力と姿で暗躍している。
そんなクターニドを更にその後ろから、操る存在。それは――
『して、次はどうするのですか? ――〝イドーラ〟様?』
――イドーラ。
アルスの契約神でもあった、極めて強大な存在である。
『暁の星ちゃんたちにはもっと楽しませてもらいたいからねぇ、次は―――別のアプローチでラズリーちゃんを殺しにいってみようか?
――ふふ、アルコアちゃぁん……あはっ、ラズリーちゃんが死んだらアルコアちゃんはどんな顔をするのかなぁ?』
イドーラは愛する神を想い、情慾を掻き立てる。それと同時に、強い嫉妬心もわき上がる。
『アルコアちゃんはわたしの物だよ、ラズリーちゃん……。ずるい泥棒猫はみんな殺してあげるから、待っててね……!』
クターニドは『人類のために』、イドーラは愛するアルコアを奪う恋敵として――
共に、ラズリーが邪魔なのである。
*
あの古城からヴェルディちゃんの転移で帰ってきた私たちは、ベープさんに諸々の報告をした後に我が家へと帰ってきた。
ヴェルディちゃんは疲れたのか、もうおやすみ中だ。
そこでようやく、ゆっくりできると思っていたのだけど……アルコア様から何か伝えたいことがあるそうだ。
「伝えたいことってなんですか?」
『……イドーラ、という神についてよ』
「イドーラ?」
聞いたことのない名前だ。
しかしわざわざアルコア様が話そうとしているあたり、何かあるのだろう。
『今回のアルスという少年に不完全受肉した神であり、暁の星への神聖魔法を提供した神がイドーラよ。……この世界にまで来た事に驚いたけど、まさかクターニドとも繋がっているなんてね……』
「イドーラってどんな神なんですか?」
アルコア様の声からずいぶんと呆れている様子が見てとれる。
なーんか嫌な予感がしてきたぞ?
『気色の悪い女神よ。私に一方的な恋慕を押し付けつきまとってくる、所謂ストーカーね』
「えぇ……」
『そのくせ、そこらの神とは比較にならないほど強いのよね。面倒ったらありゃしない』
「アルコア様とイドーラが戦ったら、まさか負けちゃったりします?」
『……勝つわよ、さすがにね。けれど、本気の本体の私と戦える数少ない存在でもあるわ。だから、滅ぼすのは難しいのよ』
アルコア様と戦えるって、とんでもなく強くない?
そんなとんでもない存在に目をつけられてるなんて、もしかしなくてもピンチなんじゃ……
『私のことを一方的に愛してくる上に、見返りに愛を求めてくる迷惑な女よ。……私の伴侶は既にいるというのにね』
「アルコア様の伴侶?」
なんか今すごく気になる情報が出てきたような?
『何でもないわ、忘れて。そもそもあのイドーラは、私のタイプじゃないのよ。その上であんなに付きまとわれ嫌がらせして、むしろ好きになる訳ないじゃない? なんでわかんないのかしら?』
「アルコア様も大変ですね……」
『ありがとうね。……とにかく、イドーラは私への嫌がらせのためにラズリーちゃんを今後も狙ってくるわ。気をつけて……って話をしたかったのよ。それと、巻き込んでごめんなさい』
そのイドーラがクターニドと繋がっているっぽい……。つまり、私を追放した皇帝ももしかしたらクターニドとイドーラの被害者だったのかもしれない。今となっては分からない事だけどね。
それから話の済んだ私は、明日について思い耽る。
と、いうのも。
収穫祭やったばかりだというのに、明日はまた街をあげての宴なのだ。
街を救った英雄、ヴェルディちゃん……を祭り上げるのだそうだ。
ヴェルディちゃん、三千の兵を返り討ちにして街側の犠牲者を0で守りきったらしいからね。
それから、ミルスさんことミイヴルスさんも祀られるらしい。
長らく名前を忘れられていたこの街の守護神だけれど、今回の襲撃時に傷ついた兵を癒したり身体強化をしたりと守護神らしい活躍をしてくれたのだそうだ。
私としても協力的な神様が信仰されて強化されるのは大歓迎だ。
何より、私はこの街が好きだからね。
もしもまた内乱に巻き込まれる事があっても、この街を守り抜こうと思うよ。
「むにゃにゃ……もう食べられないよぉ、お姉ちゃん……」
そんな寝言を呟くヴェルディちゃんの顔は、歳相応に幼くて可愛らしくて。
とっても強くなったけれど。この子のことは、私がこの先も守り続けてあげたいなと思う。
「おやすみヴェルディちゃん」
ヴェルディちゃんの頬を撫でて、私も一緒のベッドに潜り込む。
守りきったこの日常が、いつまでも続けばいいのにな。
そう、願うのであった。
『むにゃにゃ、もう食べられないよ……(人肉)』
低気圧のせいか絶不調です……。可能な限り毎日投稿したいのですが、基本は隔日投稿になりそうです。めちゃくちゃ調子良くて連日投稿できる時はやります。
次回 ヴェルディちゃんが主役のお祭りです




