第30話 不明な悲鳴
僕が皇帝になれば、みんなを救える。
『家族』だけじゃない、この国の人たちみんなを助けられるんだ。
そう、お父さんは言っていた。
けれど同時に、こうも言った。
――救える人間には限りがある……と。
どれだけ頑張っても、どうしても救えない人間は出てくる。
帝国兵から村を助けようと向かわせている騎士さんたちの中にも、ときどき死んじゃう人も出てくる。守りきれなくて死んじゃう人たちもいる。
それをお父さんは『正義のためには必要な犠牲』だって言っていた。仕方のないことなんだって。
仕方のないこと。
そう、しょうがないんだ。
ずっとずっと、自分に言い聞かせてきた。
……でもね、今なら。
お父さん、アベラお姉ちゃん、ラーゼンお兄さん、アニさん……
――僕、こんなに大きくなったよ!!!
これな縺�繧後°蜉ゥ縺代※らみんなを��る!!
誰も���ず助けられ�!!!
《不要なノイズ》
《不要なノイズ》
《不要なノイズ》
あは、はは��はは�!!
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*
『たす《不明な音声》《不明な音声》てあげる!!! 僕が《ラズリーちゃん》を、《みんな》を助け《不明な音声》』
〝アルス〟は不可解な笑い声をあげながら右手から銃を撃ちまくる。
狙うは観客席の合間をちょこまかと猫のように走り回るヴェルディだ。
着弾した箇所の座席が一気に10つは吹き飛んでゆく。
「ナラシンハよりは弱い……でもこれじゃ近づけない。どうすれば――」
『お姉ちゃん、耳を塞いでて』
ヴェルディはアルスに頭を向け、口を開き――
『〝あ〟―――――――!!!!!!!!!!!!!』
放つは、音波砲。
コウモリのエコーロケーション能力を増幅し、更に神力で指向性を持たせた秒間数億回もの振動が音速でアルスを襲う。
『たす《不明な音声》っざー、ピ、ガガ、《不明な音声》いたい』
怯んだ――。しかしダメージは大したことはなさそうだ。
それでも、こちらにも遠距離の攻撃がある。その事実がラズリーに希望を与える。
「見た感じ……あの筒状の部分から照射されてる『光』に当たると動けなくなるみたいだね。ヴェルディちゃんの影に隠れてた私は動けていたしね」
『うん。頭と体が切り離されたみたいな感じになったよ。すごく長い時間考え事をしていたみたいだった』
「近接攻撃は恐らくは強くない。……けど動きを止めてくるから接近はできない。でも、遠距離からのあの砲撃が強すぎる」
ヴェルディの身のこなしで〝砲撃〟を避けられている。それを見るに、〝アルス〟の反応速度や精度はそこまで高くはない。
つまりと結論付けるには根拠が足りないが、近接戦闘ならばヴェルディに分があるのではないだろうか。
「ヴェルディちゃんが攻撃を当てる隙を作る、か……」
仮にそれができれば勝利が見えてくる。
だが、あのアルスを怯ませるほどの威力の攻撃手段をラズリーは持っていない。
ヴェルディの音波攻撃は有効に見えるが、『タメ』が必要な上に後隙も大きい。牽制程度にしかならないだろう。
「どうすれば……」
アルコアからの神力の供給はない。ラズリーの中にある神力の出力では、大した攻撃はできないだろう。
ラズリーはヴェルディの背にしがみつき、頭を悩ませる。
背後では家より大きな座席が吹き飛んで宙を舞っている。
その時――
ドクン――
「あ……そうよ、これだ!!!」
ラズリーは、ある方法を思い付いたのであった。
*
『ラズ���嫁�んに、な《不明な音声》よ』
フィルムは回る。世界が廻る。
アルスはみんなを助けるために、自らの眼から紡がれる虚実の英雄譚を見つめている。
『お姉ちゃん、気を付けて!』
「大丈夫、成功させるから!!」
ラズリーはヴェルディの背に立ち、アルスをしっかり見据える。その手には結界剣が握られていた。
『な、なな、《不明な音声》な���それぇ? あそぼ、ぼぼぼ』
ヴェルディはなるべく揺れを抑え、スピードも落とす。
ラズリーが、アルスを狙いやすいように。
「はぁっ!!」
そしてラズリーは、結界剣をアルスへと投げつける。
神聖魔法による身体強化の上での投擲だ。結界剣はクルクル回転しながら、アルスへと迫る。
「今だよ!!」
『うん!!』
ヴェルディとラズリーの姿が、消える。
――ヴェルディは、一定以上の角度の〝鋭角〟を起点に空間を転移することができる。
次の瞬間――アルスの目の前に、ヴェルディの巨体が出現した。
結界剣の刃へと空間を飛び越えたのだ。だがしかし、アルスは『英雄譚』の光をヴェルディへと照射する。
そうして再びヴェルディは動けなくなってしまった。
だが。
『い、まだよ、お姉ちゃん……』
ヴェルディの口が開いた。
そこには、唾液にまみれ舌の上に立つラズリーの姿があった。
ヴェルディの上顎が影となり、ラズリーに光は当たらない。
「食らえ……アルコア様の御力を――!!」
ラズリーの両手には、結界の形状と性質を弄って作り出した『弓』が構えられていた。
そして弦を引き絞り、光の『矢』を放つ。
矢はアルスの胴に突き刺さった。
『なぁ、にに���こ��これぇ?』
――ラズリーの中にある、アルコアの神力。
それを『矢』の形にして、放ったのだ。
異なる神由来の神力は、神同士が意図的に調整でもしない限り反発し合う。
以前ヴェルディがヴンヴロットの神力で暴走した時――ラズリーは、体内から直にヴンヴロットの神力をアルコアの神力で中和するという手段をとった。
今回も、同じことをしたのだ。
だが以前のヴェルディとは異なり、アルスは『神』そのものとなっている。
受肉を解除するには到らない。
しかし、それでも――『光』の照射は止まり、大きな隙を作る事に成功した。
そして、ヴェルディの体に自由が戻る。
『えいっ!!!』
もふもふの剛腕から繰り出された一撃が、アルスの身体を捉えた。
宙吊りの虚実が、観客席へと引きずり堕とされる。
『やああああああ!!!!!!』
ヴェルディは、堕ちたアルスを何度も何度も叩きつけた。衝撃で家よりも大きな客席がいくつもいくつも粉砕されてゆく。
アルスの映写機の頭部からフィルムが外れ、機械のパーツが散乱してゆく。
『い、《不明な音声》た《原因不明のエラー》い、やめ《不明な音声》……自由《不明な音声》してあげ』
手加減はない。ヴェルディは、この哀れな傀儡を完全に破壊するまで暴れ回った。
そして――
『《不明な音声》《不明な音声》《不明な音声》《不明な音声》お《不明な悲鳴》母さん――』
アルスの肉体は観客席ごと粉々に粉砕され、動かなくなった。
それから途方もなく広い『劇場』の空間に亀裂が走り、そこから陽光が射し込んだのであった。
次で決着です。救いはあります
次回更新は10月30日を予定しています。




