第25話 正義は勝つ
遅くなりました
「うおおおおおお!!!!!!!!!」
立ち上がった500人の兵たちが、2000人の聖騎士へ立ち向かう。
4倍以上もの戦力差。彼らに勝機などあるわけがない――そう、思われていた。
しかし、何らかの神の加護を受けた彼らはそれぞれが一騎当千もの力を得ていた。
「な、なんだこいつら!?」
「怯むなー!!! 正義は我らにあり! 我らが正義である限り負けることなどありえ――ぐはっ」
馬に跨がった聖騎士を、ある兵は馬ごと両断した。
またとある兵は、聖騎士たちの攻撃をその身に受けながらも、無傷――
圧倒的であった数の差は、もはや無意味と化していた。
この盤面を変えうるのは、圧倒的な『個』しかないだろう。
「アベラ様、ここは退くしか」
「退く? 退くだと!? ふざけるなよ、我々は負けていない!!! 正義は必ず勝つのだ!」
「ですから、勝つために一旦ここは退却しようと――」
「黙れ黙れ黙れ!! 退却など敗北と同義! 我らかが正義であるからには負けるなどあり得んのだ!!!! 腑抜けの貴様らは、ここで私があの悪魔どもを鏖殺するところをよく見ておれ!!」
騎士団長アベラは、シリスの街の兵へと力一杯に斬りかかった。
アベラはただの剣士にあらず。
希代の天才剣士として、冒険者時代にはSランクの名を欲しいがままにしてきた。
鍛え抜かれた肉体は極めて高精度の身体強化魔法で強化され、それは神聖魔法のものにも匹敵するほどとなっていた。
「ぐああっ!?」
並みの兵ならば、真っ二つなるほどの一撃。それを受けた兵は、死にはしないものの吹き飛ばされ戦闘継続不可なほどのダメージを受けてしまう。
「正義は勝つ!! 必ず勝つのだああああああ!!!!」
優位に立っていたシリスの街の兵たちだったが、騎士団長という怪物が本気を出したことによって再び窮地に立たされてしまう。
「く、くそっ……なんだあの化物は!?」
「正義とは私っ! つまり私に立ち塞がる存在は全て悪!!! 悪は滅ぼさなければならない!!!! 死ね、死ねえええぇぇ!!!!!」
「あ、あいつを先へ進ませるな!!! 全員でかかれーーー!!!!!」
「邪魔だあああああっっっ!!!!!」
兵たちは束になってアベラへと立ち向かうが……しかし、止めることは叶わず。
アベラは単身で街へ踏み入ろうとしていた。
「悪は滅ぼさなければっ! 女だろうと子供だろうと悪は悪……! 世のために一匹残らず殺してやるぞ……! 貴様らに殺された私の部下たちの為にも!!!」
もしもアベラがシリスの街に入ったならば……宣言通り、無差別に住民を殺すだろう。女だろうが子供だろうが斬り捨て、赤子は頭を踏み砕く。
『正義』のためならば、アベラはなんでもできてしまう人間なのだ。
「フハハハ、この肥沃な大地の肥やしにしてくれ――」
アベラが街の入り口を塞ぐ土嚢へ手をかけようとした、その時。
――灰色の巨大な〝何か〟が、アベラの体を吹っ飛ばした。
「ぐっ、なんだ……?! ま、魔物?」
『魔物じゃない』
ヴェルディはその小ささにしては妙に硬い敵を前に、少しだけ警戒心を強めた。
「ま、魔物まで来やがった……」
「もうだめだぁ、おしまいだぁ……」
「違う!! あれが領主様の言っていた『ヴェルディ』だ!! 味方なんだよあの魔獣は!!」
その情報を疑いつつも、今は盤外からの乱入者に頼らざるを得ないのは確かだ。
『みんな、離れてて。巻き込んじゃうから』
「お、おう! 全員退避せよー!!!」
死者はいない。そして動けないほどの重傷者もまだいない。
シリスの街の兵たちは、一旦街の中へと退避。土嚢の防壁の後ろに木の柵を加えるなど防御を固めながら、ヴェルディの様子を見守るのであった。
――――
神聖魔法による身体強化の倍率は、通常の身体強化魔法よりも高い。しかし、元となる肉体の強度にも左右される。
そのため単なる身体能力に限れば、鍛え上げ磨き抜いた肉体を持つアベラのそれは、神聖魔法を用いたシリスの兵たちよりも遥かに上回っている。
もっとも、彼らにかけられた神聖魔法はずいぶんと弱いものではあるが……
「よもや悪しき魔物と繋がっていたとは、やはりシリスの街は滅ぼさなければならないようだなっっっ!!!!」
アベラは駆け、ヴェルディの懐へ潜り込み喉元へ剣を振るう――しかしヴェルディは、それを片手で蚊のように振り払った。
「ぐうっ……、この程度っ! 正義は負けない!!!!」
『よくわかんないけど、ボクからしたら君たちが悪なんだけど』
「黙れケダモノ! 正義は絶対!! 我らの邪魔をするものは全て悪なのだ!!!!! 正義は必ず勝つっっっ!!!!」
――上位風魔弾っ!!
アベラは地面に風の魔法を放ち、土煙を撒きあげた。
――目眩まし。アベラはヴェルディ相手に真正面から挑むのは危険と判断したのだ。
狙い通り、ヴェルディの視界からアベラの姿は消えた。
「所詮は魔物、図体だけの馬鹿めっ!!!」
ヴェルディの側面に回り込んだアベラは、己の放てる中で最大威力を誇る剣技を放つ。
――剣の先端に風魔法を圧縮させたものを纏わせ、身体強化は最大まで高める。
そして放つは、――全力の刺突。
これを防げるものは存在しない。冒険者時代、彼女をSランクたらしめた必殺の一撃である。
「〝嵐槍〟――!!!」
ヴェルディの脇腹に、アベラの全力の一撃が炸裂した。
当たりさえすれば、竜すら仕留めうる『強者』の一撃。
「――なっ!?」
しかし、押し負けたのはアベラの方だった。
アベラの愛用の剣が、根本から折れていた。
ヴェルディは特に何か攻撃をした訳ではない。
〝センザンコウ〟と呼ばれる哺乳類の特性を出しただけだ。
センザンコウは哺乳類では珍しい『鱗』で全身を守る生物である。
ヴェルディの力は、かつて儀式により融合させられた動物の特性を発現させるもの。
それに加えて、神聖魔法の『身体強化』が乗るのだ。膂力のみならず、防御力も極めて強化されている。
――今のヴェルディに身体能力で勝てる生物は、地上には存在しない。
「がはっ!?」
呆然とした刹那――アベラの体をヴェルディの掌が弾き飛ばした。
何度も地面をバウンドしながら飛ばされてゆくがアベラ。辛うじて着地するも、ダメージは大きい。
「おのれっ……」
それでも立ち上がろうとするアベラであったが――
体に力が入らない。
「な、なんだ、これはっ……?!」
いや、痛い。骨が折れただとかそんなものではない。
全身の血液が沸騰しているかのような熱さと激痛が、アベラの全身を駆け巡る。
痛みだけではない。体も動かせない――
このままでは、死――
それは敗北を意味する。
アベラはその考えを振り払う。正義は絶対に勝つ。何があっても必ず勝つから正義なのだ。
「せ、精霊部隊!!! っ……この穢らわしきケダモノを消し炭にしてしまえ!!!!」
アベラへ迫るヴェルディへ向けて、精霊部隊が使役する10体以上ものサラマンダーが口から一斉に火球を放った。
しかし――
火球がヴェルディへ届くことはなかった。
「……は?」
サラマンダーの放った火球は、なぜか遠目から観戦していた聖騎士どもの背後に着弾した。
あちこちで爆発が巻き起こり、混乱が戦場を包み込む。
「……来るなっ」
もはや四肢にも力が入らず地に横たわるアベラへ、死神はゆっくりと近づいてゆく。
「正義はっ、勝つんだ! 勝つはずなんだ、勝たなければならないのだ!!!!! だからやめろ、来るな、死にたくな――」
『正義は必ず勝つって事はつまり、ボクが正義だったんだね』
ヴェルディは無抵抗のアベラをよく噛み砕いてから飲み込むと、パニックになっている騎士どもの元へと駆けてゆく。
「うあああああああっ!! バケモノが来たぞおおおおおお!!!!!!」
「撃て! 撃てえええ!!!」
再びサラマンダーが至近距離からヴェルディへ火球を放とうとするが……ヴェルディは、サラマンダーを片手で叩き潰した。
そしてそれから起こった事は――、ただの虐殺。
しかして、彼らもシリスの街の人間を一人残らず殺して土地を奪おうとしたのだ。
ヴェルディは、ただの一人として逃がさい。
……街の人たちに見られている事を意識し、わざと土煙を起こし視界を遮ってからおいしくいただく。
そこには正義も悪もない。
あるのはただのありふれた弱肉強食。
彼らの薄っぺらな正義とやらは、ヴェルディの胃袋を多少満たす程度でしかなかった。
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ミルスさんや街の過去について触れています。《https://ncode.syosetu.com/n0098jq/》




